「それじゃあ本田さん、よろしくお願いしますね」 「分かりました。お気をつけて」 「ふぁーい」 少し眠そうに力なく手を振る名前さん。 あぁ、今日も可愛いですね。思わず後姿をカメラに収めてしまいました。 いつかはあの背中をギュッと抱きしめ「やだよぅ本田さん…やめっ」なんて言わせたたいものです。 おっと、妄想がすぎてヨダレが… 「どうしたん菊。ヨダレ垂れてるでー」 「何でもありませんよ。しかしまぁ同居人が増えてしまう事態になるとは…。いや、これはむしろチャンスです!メラメラと燃え上げる嫉妬心やら夜中に夜這いをかけてイヤンな展開になるに違いありませんんんんん!!」 「本田!!ヨダレ拭けヨダレ!!」 「失礼いたしました。さて、本日は総司令官名前さんの命令で私がこの隊の隊長をお言いつかりました。この後午前10時に三人でアントーニョさんのアパートに向かいサディクさんのとこの大工さんにお会いします。その後買い物にでかけアントーニョさんの生活に必要なものを買いましょう。お金は総司令官から預かっています」 「それよりその金でゲーセン行こうぜゲーセン!!俺マジでここに来てからゲーセン行けてねーんだよ!」 「てゆーかそれ名前ちゃんのお金なんやろ?それで俺の日用品買うなんてできんわ」 「両方却下です。名前さんの命令は王様ゲームの王の命令より絶対的な権力を持っています。他の意見は認められません」 「「えぇー!!」」 「ここは大人しく爺の言う事を聞きなさい」 名前さんから預かったお金をがま財布に入れ、首からかけます。 「さ、戸締りは大丈夫ですね!それでは参りましょう」 「おい本田。その犬なんだよ?」 「あぁ、この子はポチ君です。先日捨てられている所を拾い私がお世話しているんですよ」 「うひゃーかわええなぁ!ポチお手できるか〜?」 「クゥーン」 「アントーニョさん、まだポチ君は小さいので芸はできませんよ」 「そうなんかぁ〜。でもこの子何犬なん?」 「雑種だと思いますが…。ハッ!!あ、アントーニョさん!!”ちゃうちゃうと違う”と関西弁で言ってみて下さい!!」 「え?ちゃうちゃうとちゃうん?」 「っしゃぁあああ!!ナイス!!ナイスですよ関西べぇえええん!!!」 「菊は朝から元気やなぁ」 「まったくだぜ」 ―――― 「ギルたち上手くやってるかなぁ…」 「どした…?」 「あ、ノルさん。実は友人の家のアパートの屋根が飛んで行っちゃって、今私のとこで面倒みてあげてるんですよ。それで今日は大工さんとの打ち合わせとお買い物があるんですけど…上手くやってるか少し心配でして」 藍色の目を私に向けたノルさんは不思議そうな顔をして私に尋ねた 「それ…男け?」 「はい。ギル…弟の友達でもあるんですけど」 書類をホッチキスで纏めながらそう答えると、無表情のノルさんの顔が強張った。 あ、眉間にしわ… 「おめ…大丈夫け?」 「何がですか?」 「生活」 「あぁ。ちょっとギリギリですけどなんとかなるでしょう。貯金もありますしなんとでもなりますよ」 「なんかあっだら頼れ」 わしゃわしゃと私の髪を撫でたノルさんは私の手の平に飴玉を握らせまた眠そうな顔をして自分の席に戻った。 心配、してくれてるんだろうなぁ… ノルさんは私が入社してきた頃から何かと気をかけてくれているいい上司だもんね。 入社したての時のあの事件の時もお世話になったっけ… 良い上司に恵まれてありがたく思わなきゃ 「おい名前!!こっちさ来て肩揉んでくんろ〜!!」 「ここはキャバクラじゃねーぞクソ上司」 例外も有り。 ―――― 「うひゃー!!ほんま名前ちゃんのご飯美味しいなぁ〜」 「喜んでもらえてよかった」 「私だけではなくポチ君にまでご馳走していただきありがとうございました。ポチ君もお礼を言わなくてはいけませんよ」 「ワン!」 「アハハ。可愛いなぁ〜!こんな可愛いワンコ飼ってたなら早く教えてくださいよ本田さん!」 「つい昨日の事だったのですよ。これポチくん、あまり名前さんにじゃれ付いてはいけませんよ。羨ましいじゃないですか。変わってください」 「おーい本音が出てるよー本音が」 「あ、つい…」 着物の袖で口元を隠し細く笑った本田さん。 この人はまったく… 「それでは私達はこの辺で。ご馳走様でした名前さん」 「おそまつ様です。あ、今度ポチ君の散歩に同行させていただいてもいいですか?」 「ぶふっ!!そ、それは散歩でぇーとと言うものですかぁああ!?」 「いえ、ただの散歩です」 「むしろ私が犬になりたいのですが」 「早く帰れ」 ハァハァと息を荒くする本田さんを玄関の外に追いやり鍵を閉める。 よし、片付けでもすませてお風呂に入っちゃうか〜 「あ、名前ちゃん俺がやるから!!」 「え、いいよトニーさんは。座ってテレビでも見てて?」 「じっとなんかしてられへんわぁ〜!一緒に住まわせてもらっとるんやもん。これぐらいさせて?」 「トニーさん…」 ギルとは大違いだなぁ本当に…!! 評価対象にされている当の本人はテレビのお笑い番組を見ながら「マジおもしろいぜー」などとほざいている。 「名前ちゃんはお風呂入ってきてええで」 「あ、いいの?」 「ええって!!それに俺昨日早くに寝てしもたから名前ちゃんの風呂上りの姿が見れんかったさかい、ってあいたぁああ!!」 「わりぃ、手が滑った」 「何すんねんギル!!どうやったらリモコンがここまで飛んでくんねん説明せぇや!!」 「手が滑っただよ手が!それからそいつの風呂上りの姿とか見てもマジつまんねーぜ!!いや、マジでつまんねーから!!てゆーか目が腐っちまうぜー!!」 「あぁん?風呂に沈めるよ、ギル」 「ケッ。トニーの前では猫被りやがって。俺の前ではいつもだらしねーくせに!」 「私のどこがだらしないって言うの」 「喧嘩はあかんでー二人とも!!」 「うるせー!!元はといえばお前が…!!」 「何拗ねてんのーギル」 「…なんでもねーよ」 なんでもなくないだろう。 昨日からずっと機嫌悪いんだよなぁあいつ… もしかして私がトニーさんばかりに構ってるから拗ねてるとか… いや、それは無いか 「それじゃあお先にお風呂入ってくるね〜」 「後片付けは任せときー!」 「任せた!」 親指を突き出すトニーさんに親指を突き返しバスルームへ向かう。 一日の疲れを湯船で癒し、汚れた体を綺麗に磨けばすっきり気分満開だ! 「ふあーさっぱりしたぁ〜」 いつもの短パンにタンクトップに着替えて軽く髪を乾かす。 寝る前にはちゃんとパジャマに着替えなおすんだけど、やっぱりお風呂上りはこういった楽な格好するのが一番だよねー まだ乾ききっていない髪の水分をタオルで拭き取りながらバスルームを出ると、廊下の壁にギルがもたれかかっていた 「何してんのギル」 「何してんのじゃねーよこのアホ女!!」 「ぶわっ」 頭の上から何かを被せられ視界が塞がれる ちょっ、なんなのこれ!? 「ぷはっ!何すんのギル!」 「バーカ。それでも着てろ」 「これって…ギルのTシャツじゃん。なんで私が…」 「風呂上りだからって薄着してたら風邪ひくだろ!!お前が病気になったら面倒くさい事極まりないぜ!」 「ふぅん…それはどうもー」 「あ、あと下!!その短い短パンやめろ!!履き替えて来い!」 「なんでよ」 「お、女は足冷やしちゃいけねーって昼のテレビてやってたんだよ!!いいから着替えて来い!」 「はぁ…そうですか」 何を今更…。 ギルはたまに何考えてんのか分からなくなるときあるよなぁ。 リビングに戻る前に自室に入り、七部丈のズボンに履き替えギルの前に立つと「よし!」とお許しをいただけた。 リビングに戻るとそこにはアーサーの姿があり、トニーさんとの間にいかにも険悪ムードが漂っていた。 「あれ?なんでお前いつもの格好じゃ…」 「なんかギルが着てろって」 「なっ…!!お前何してんだよバカァ!」 「なんでアーサーが怒るの」 「べ、別にお前の風呂上りの姿が見たくてわざわざ時間を見計らってきたんじゃないんだからな!!か、勘違いするなよ…」 「アーサー気持ち悪い」 「うっ…」 アーサーは涙目になってるし、なんだかよく分かんないけどギルとトニーさんは「なにさらしてんねんアホォォオ!!」「何期待してんだよお前は!」と口喧嘩を始めた。 はぁ…賑やか過ぎるよこのメンバー… まぁ、まだフランシスさんが居ないだけまし… 「ボンソワール名前ちゃん!名前ちゃんの愛を奪いに来たフランシスお兄さんだよ〜」 「げ!フランシス何しに来やがった!」 「何って、名前ちゃんのハートを盗みにきたんだけど。お前は何?家で眉毛の養殖してろよマジで」 「んだとコラァ!!」 「ギル…お前いっぺん本気でヤキ入れたほうが良さそうやなぁ…」 「けっ。なんとでもしやがれってんだよ!ちっとも負ける気がしねぇぜ!!」 あぁ。なんだか今更ながら同居人を増やした事を後悔しはじめてきちゃった… 「名前ちゃんどないしたん?元気なさそうやなぁ…。そや!親分の元気になるおまじない要るー?要る〜?もうしてもた〜!!ふそそそそそ〜」 頭が、痛い。 . ←|→ |