「ほ、ほんまにええん?こんなかっこ悪い男…。女の子に泣きついてくるような男やで?」

「トニーさんは黙って私に養われてればいいの。それにアパートの屋根の修理が終わって元の生活に戻るまでだしね?それまでここで我慢してよ」

「うっ…名前ちゃぁあああん!!めっちゃかっこえぇえええ!!」

「うおっ…!」

「てめぇ!!抱きつくなって言ってんだろトニー!!」

「名前ちゃん!!ほんま俺惚れ直したわぁ〜!!あんな告白うけてもたらもうどないしたらええかわからへーん!!うわぁああ俺幸せやぁああ!!名前ちゃんの為にも俺、しっかりバイト続けながら家事も手伝うからな!!いつかほんまに名前ちゃんを養えるぐらいな男になって恩返しするさかいなぁああ!!」

「ちょっ、トニーさん苦しい…!!」

「離れろつってんだろこのエセ関西人!!」

「痛ぁあ!!何すんねんギル!!肘撃ちは酷いやろ!?」

「うるせぇー!調子にのんなよ!お前だったら屋根無しの部屋でも住めんだろ!?」

「酷いっ…!!名前ちゃん、ギルが苛めてくる!これドメスティックなんとかって奴やで!」

「DV?ギル、仲良く出来ないならギルはベランダで寝てもらう事になるけどいいの?」

「何で俺がベランダなんだよ!?」

「そしたら俺は名前ちゃんと同じベッドで…」

「お前はキッチンで寝てんのがお似合いだぜ!!」

「なんやて…?ほんま調子に乗ってたらその口利けんようにしてまうで…?」

「あれ、なんか今トニーさんの口から黒い言葉が出てきたような…」

「それきっと空耳やわー名前ちゃん。今日から家事は俺に任せてゆっくり休んでや?お世話になる分しっかり働いて返すで!これってお礼を体で返すって事やんなぁ〜。うわぁ、なんかやらしいわぁ…」


頬を染めるトニーさんがなんだか可愛くって一緒に笑うとギルが怖い顔をして睨んできた。
なんだよもう、機嫌悪いな…


「そういえば大家さんには連絡したの?修理ってどれぐらい時間かかるのかなぁ…」

「あぁ、それが大家の爺ちゃんに電話したんやけど連絡つかんくてなぁ。そういえばギックリ腰になって入院したとかなんとか聞いたような気がするわー」

「え…それって」

「屋根の修理てどないしたらええんやろー」


アハハハーと笑うトニーさんに肩がガクッと落ちた。
な、なんて能天気な…!!
こうなったらこっちで修理の手配をしなきゃいけないなぁ…。
こういう時はあの人に頼むのが一番だよね…


「ん?どこに電話かけんだよ」

「頼りになる例の方」

「例の…?」


数回のコールの後に受話器の向こうで聞えてくるいかにも眠そうな声。
おはようございます、ヘラクレスさんと声をかけると「名前…」と返事が返ってきた


『どうした…?』

「すみません、サディクさん居ますか?」

『今でかけるとこ、だと思う。呼ぶ?』

「あ、ごめんなさい。お願いします」

『分かった』


遠くでヘラクレスさんとサディクさんが口喧嘩をする声が聞こえた。
うわー、なんかごめんなさい…!!


『へいもしもし。嬢ちゃんかい?』

「あ、すみませんこんな時間に…大丈夫ですか?」

『変な心配するんじゃねーやい。それよりどーしたんでい』

「えっと…それが知り合いの住んでるアパートの屋根がぶっ飛んでしまいまして…」

『あぁ!?昨日の嵐でかい!?屋根吹っ飛んじまう程のもんじゃなかっただろーが!』

「それが訳アリで…。あの、修理をお願いできないでしょうか?」

『お安い御用だぜ。住所教えな。明日にでも腕の立つ奴らそっちに回してやらぁ』

「あ、ありがとうございますサディクさん!!」

『嬢ちゃんの頼みとありゃなんでもしてやらねーとな』

「さ、サディクさん…」


かっこいいー!!ダメだ、今キュン死にしそうだよぉおお!!
もう素敵すぎるよサディクさん!!


「あ、ありがとうございます!!えっと、住所は…」


「なぁギル…あの電話の相手のサディクって誰なん?」

「大工の頭のオッサン」

「なんややけに名前ちゃん嬉しそうやけど…」

「あいつのストライクゾーンなんだとよ。ったくあの仮面の妖しいオッサンのどこが良いんだか…」

「聞えてるよーギルぅー」

「ふぁ…?」

「あ、すみませんこっちの話です!はい、ありがとうございます!え…そ、そんな事ないですよ…!!…あの、照れるんでやめてくださいホント…」

「名前ちゃんが照れてるぅうう!」

「アハハ。サディクさんってば〜!はい!また遊びに行きますね!失礼しまーす」


サディクさんに「ダチ思いじゃねーか。やっぱお前さん良い女だぜぃ」って言われちゃった…!!
うわぁ、ダメだ…今の私絶対に顔真っ赤だ…


「トニーさんっ!明日の午前10時にアパート見に来てくれるって!良かったね〜!」

「え?あ、そやな〜!わざわざありがとなぁ名前ちゃん」

「いいのいいの!今回もまたサディクさんにお世話になっちゃったなぁ…。今度お礼しなきゃ!夕食をご馳走するなんてどうかなぁ…。私の料理なんかじゃお礼にならないか…?サディクさんってどんな料理が好きなんだろ。ね、ギルはどう思う?」

「知るかよバーカバーカ!!」

「は?なに怒ってんの」


プイとそっぽを向くギルに「そんな…名前ちゃん!」と震えるトニーさん。
なんだって言うんだ二人とも。

その晩、いつものようにやって来たアーサーはトニーさんが居る事に驚き、事情を説明すると「んだとぉおおお!」とトニーさんに殴りかかった。
喧嘩をおっぱじめる二人に「やれやれー」と野次を飛ばすギルに蹴りを一発ずつお見舞いしてやると、地に沈み動かなくなった。
アーサーとトニーさんが犬猿の仲だって事すっかり忘れてたよ…

この先の事が色々と心配だけど、きっとなんとかなるさ。
少なくともトニーさんには苦労かけないように頑張ろう。
サディクさんも協力してくれるしきっと屋根も早く治っちゃうよね!
いきなり増えた同居人だけど、トニーさんとならきっと上手くやっていける気がする。短い時間だろうけどこの生活も楽しまなくっちゃね


「さ、晩ご飯ができましたよー」

「ちょっ…お前さっき蹴った場所急所…」

「い、痛すぎるぜー…」

「名前ちゃん…さっきの蹴りカークランドのより効いたで」

「何前かがみになってんの。それしきで潰れるような玉じゃねーだろーが」

「ちょっ、下ネタ!!」

「ちゃんと座って食べないとマジで潰すよ?」

「「「ちゃんと座って食べまーす」」」

「うん。皆良い子だ」




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