「あ、はい。分かりましたー。それじゃあ失礼します」 「電話、なんだって?」 「やっぱりまだダメみたい。外の仕事ある人意外はお休みだってさー」 「てゆーことはお前も休みかよ?」 「そーゆー事」 昨日の嵐で会社の電源システムが完全にダメになってしまった。 デンさんが”電気会社の人が今日中に根性で治す”って言ってけど…大丈夫なのかなぁ 「まぁ今日一日ゆっくり休もう!いやぁ、学生の頃の学校が臨時休校になった時みたいなわくわく感だよね〜」 「俺はちっとも嬉しくねーぜ!!せっかくの一人の時間が…!!お前が居たらちっともゆっくり休めねぇ」 「んだとコラァ〜〜。歯折るよ?」 胸倉を掴んでギルの目の鼻の先に拳を突き出すと「ごめんなさい」と素直に謝ったので許してやることにした。 ―ピンポーン 「ん?誰だろう、こんな朝早くに…」 「眉毛じゃねーの?」 「アーサーは普通に仕事があるからって朝早くに出かけてたよ。誰だろう…」 もしかして本田さんかなぁ。 パタパタと早足で玄関に向かいドアを開くと、そこには頭の上から足の先までびしょ濡れになったトニーさんの姿があった 「と、トニーさん!?」 「名前ちゃん…お、俺…俺…!!」 「どうしたのトニーさん!?びしょ濡れじゃん!!ちょっとギル!!タオル持ってきて!!」 「はぁ?なんでだよ。ってトニー…なんでお前そんなに濡れてんだよ!?」 「いいから早く持って来いつってんだよ!!」 「偉そうに言うんじゃねーよ!!」 文句を言いながら早足でバスルームに置いてあるタオルを取りに行くギル。 「トニーさん、ほんとにどうしたの?」 「名前ちゃん…俺ほんまに住むとこ無くなってしもた…」 「え…?」 「昨日の晩の強風で俺のアパートの屋根飛んでってしもてん…ピュ―ってあっけなく飛んでってもたぁああ!!うわぁああん!!」 ぎゅっと私に飛びついたトニーさんはピーピー鳴き声を上げた。 ちょっと待って、屋根が飛んでいくってそんな… そういえば昨夜もすごい嵐で風がビュービュー吹いてたような… だけどそこまで凄い嵐でも無かったですよね…? まぁあの今にも崩れそうなアパートだし、全壊は免れただけでも奇跡か… 「トニーテメェ!!なに抱きしめてんだよ!!離れやがれコラァアア!!」 「俺もう家無き子やぁああ!!ロヴィは今祖国に戻ってるみたいやしフランシスには連絡つかんしローデリヒには無視されたし!!もう名前ちゃんしか頼る子おらんねん〜!!」 「お、落ち着いてトニーさん!!大丈夫だから!!ね!?とりあえず中に入ってお風呂にでも入って…ね?」 一晩中雨に打たれてしまったのか、私の体にくっつくトニーさんの肌は冷たい。 「ギル、着替え貸してあげて」 「その前に離れろトニー!!」 「いいから用意して!!お風呂にお湯張って着替え用意する!!あとポッドでお湯沸かしといて!」 「そんなに一度にできっかよ!」 「やれ」 チクショーと叫ぶギルを無視してトニーさんの肩に腕を回す。 びしょ濡れのトニーさんが抱きついてきたために私の服も濡れてしまったが、この際気にする事もない。 精神的に衰弱しきっているトニーさんを中に運んであげないと… 「トニーさん、ソファーに座ってて?それとも横になる?」 「ごめんな名前ちゃん…俺ほんまかっこ悪いわー…」 「そんな事ないよ。今ギルがお風呂用意してくれてるからもう少し我慢してね」 横になったトニーさんの上に私の部屋から持ってきた掛け布団を掛け、火にかけたポットのお湯でココアを作る。 「はいココア。甘いの大丈夫?」 「うん…ありがとなぁ名前ちゃん」 「いえいえ」 「風呂の準備できたぜ!」 「ありがと。トニーさん、お風呂入ってくる?」 「そうさせてもらうわぁ。ほんまに迷惑かけるなぁ名前ちゃん」 「いいってば!!早く入ってきてトニーさん」 トニーさんの背中を押してバスルームに押し込む。 「ちゃんと暖まってねー」と声をかけると中から「ふぁ〜い」と力ない声が返ってきた。 大丈夫かなぁトニーさん 「屋根がぶっ飛んだって…まぁあのボロアパートならあり得るな」 「てことは部屋の中のものも飛んで行っちゃったのかなぁ…。可哀想、トニーさん…」 「いや、あんなとこに住んでんのが悪いだろ。まぁトニーなら屋根なしの場所でも暮らしていけるんじゃねぇ?」 「うわぁ・・・ギル最低。友達が困ってるって言うのに助けてあげようって気はないの?そんな事だから一人楽しすぎるぜーなんだよ、ギルは」 それにしてもこの先をどうしたものか… アパートなんだし屋根は大家さんが治してくれるんだよね? だけど治すにしても何週間…いや、一ヶ月やそれ以上の時間が必要かもしれない。 それまでの間トニーさんは帰る家もなく… 私の脳内で棒名作劇場の少年と犬の映像が流れていった。 『見てみぃパトラッシュ…あれがルーペンツの二枚の絵やで・・・』 『クゥーン…』 「ぱ、パトラッシュ…」 「パトラッシュ?なんだよいきなり」 「ふっフランダー、ス…」 「フラダンス」 「ちげーよドアホ!!」 ともかく行く当てのないトニーさんを野放しにしておくわけにはいかない。 ここに来たのだって私を頼りにして来てくれたんだから… 「素敵なバスタイム味わえたわー。お風呂あがったで〜。さっぱりしたわぁ〜」 「トニーさん!」 「え!?何!?も、もしかしてお風呂ん中で”このお風呂に名前ちゃんも入ってんのやなぁ”とか想像したんがバレたん!?堪忍してやぁ悪気はなかってんー!!」 「何妄想してんだよ変態!!お前はフランシスか!」 「健全な男ならそれぐらい妄想するわアホ!」 「違う!!トニーさん、安心して?アパートが元に戻るまでトニーさんの面倒は私がみるからね」 「「へ…?」」 ぽかんと口を開けて固まるトニーさんとギル。 誰がなんと言おうと私は決めた。 ちゃんとトニーさんが元の生活に戻れるようになるまでここで面倒みてあげよう。 不自由な思いは絶対にさせない 「バカ!!こんな奴ここに住まわせたらお前がどうなるか…!!」 「うるさい。私が決めた事なの。ここの家の主は誰?言ってみろよこのヒモ野郎が」 「名前さんです…」 「大丈夫だよトニーさん。ちゃんと私が不自由しないようにする。あ、お金の事とかは気にしないでね?ギルとトニーさんの二人ぐらい養ってみせるよ、私」 「名前ちゃん…」 頬をピンク色に染めたトニーさんは目を潤ませた。 → ←|→ |