「それじゃあ行ってくるね。ちゃんと留守番しててよ?」

「わーってるっての」

「熱いからってエアコンかけちゃダメだよ。帰ったら扇風機出してあげるから」

「へぇへぇ」

「それじゃあ行ってくるね」


いつもの色気のない普段着とは違う清楚なお嬢様みたいな格好をした名前。
そう、今日はあいつの見合いの日なんだぜ。
見合いの…見合いの…


「気になって漫画に手がつかねぇ…」


ま、まぁ飯くってすぐ帰ってくるとか行ってたし!?夕方には帰ってくるんだし気にする事もないよなーアハハハ…


―ピンポーン


「ったく、誰だよこんな時に…」


面倒くさいながらも出ないとあいつに後々しかられるはめになるのが目に見えてるからな。
どピンクに可愛く微笑んだクマがプリントされているTシャツを頭から被り玄関へ急ぐ


「ってお前かよ!!」

「俺だと何か問題もあんのかプー太郎…」

「問題大ありだろ眉毛とか眉毛とか眉毛とか!」

「全部眉毛じゃねーか。マジで殺すぞお前…!!」

「できんのか〜?やったらあいつが何て言うだろな〜。けっこう俺に過保護なとこあるし〜?」

「テメェ女を盾にする気かよ!!男の風上にもおけない奴だな!」

「何言ってんだ俺が本気出したらお前ぶっ飛ぶぜ?10メートルはぶっ飛ぶからな」

「いや、俺がやったら20メートルは飛ぶぜ」

「あ、今の無し。そういや俺昔近所の苛めっ子30メートルぶっ飛ばしたことあったぜ」


ったく何なんだよこの眉毛!!
さっさと帰れよ!!


「あいつ…もう行ったのか?」

「あぁ、ついさっきな」

「そっか…」

「夕方には帰ってくるってよ」

「そうか…」


そわそわと腕時計を見た眉毛。


「そんなに気になるならお見合い現場を見に行かれてはどうです?」


そうそう、そんなに気になんなら見に行って……って、


「本田ぁああ!?お前いつからそこに…」

「名前さんが行かれた頃合を見計らってやってきました。さぁギルベルトさん、アーサーさん。名前さんのあとを追いましょう!」

「な、なんで俺がそんな事…」

「それにばれたら何されるか分からないぞ?」

「お二人は気にならないんですか?私なんて気になりすぎて昨夜眠れなかったんですよ。ったく、締め切り前だって言うのに…」

「だったら仕事しろよ!?」

「こんな緊急事態の時に仕事なんてやってられっかってんですよ」

「本田!なんかキャラ変わってるお前」

「ハッ。すみません、もう三日ほど寝ていないものでして…。今日は少々ストッパーが利かなくなっているやもしれませんので注意してくださいね。それでは名前さんの尾行に行きましょうか、お二方」


…マジで?


―――



「小さい頃の名前ちゃんはやんちゃでよく山の中を駆けずり回ってたんですよぉ〜」

「あんらま〜。とっても愉快なお嬢様ザマスね〜!ホホホホホ」

「ホホホホ」


帰りたい。うん、帰りたい。
お見合いが始まって約20分。
さっきから川平のおばさんと先方のお母さんだけで話が盛り上がっちゃってるし…
ってゆーか本当にザマス口調だったよ!
何、なんで私変なとこだけ予感的中してんの!?


「えっと…名前さん」

「あ、はい…?」

「すみません。母が盛り上がってしまって…」

「いいえ、いいんですよ。明るくていいお母様ですね」

「ははは…。母もどうやら貴方の事を気に入ったようです。前に行った見合いは先方のお嬢さんが気に入らなかったらしく3分で無理矢理終わらせてましたから」

「さ、3分ですか…それはポッキリラーメンもできちゃいそいなお手軽な時間ですね」


このお見合い相手の人、良い人そうだよなぁ〜。
なんだけ余計に断り辛くなってきた…
この際将来を誓った恋人が居るんだとでも嘘ついちゃおうか。
だけど川平のおばさんになんて言われるか…


「それで、名前さんはお一人暮らしを伺いましたが普段ご自宅では何をされていらっしゃるんザマス?」

「え?あ、はい。読書や映画鑑賞などを…」

「あんらま〜。うちの宗助ちゃんも映画鑑賞が好きなんざんすよ。今度一緒に映画にても行ってらっしゃいな〜」


断れねぇええええ!!ちょっ、次の約束までされちゃったら断れないじゃん!!
しかも宗助ちゃんって何!!親バカにも程があるでしょーが!!
この人も家ではお母さんの事「マミー」とか呼んだりしてるのかな…




「ここの席からでは様子が伺い辛いですね…。ギルベルトさん、見えますか?」

「見える事は見えるんだけどよ…何なんだよこの服は」

「私形から入るタイプなので。スーツに黒いサングラスに帽子、様になってるじゃないですか」

「んだよこの紅茶不味すぎるぜ」

「お前は紅茶飲みにここまで来たのかよ!?」

「バカ、そんなわけないだろ。だ、だけどあいつの見合いが気になって来たわけでもないんだからな!菊がどうしてもって言うから…」

「こういう方がいらした方が話の展開的には面白いかと思いまして」

「もうお前ら帰れよマジで!」

「ハッ!見てくださいギルベルトさん!先方のお母様とおばさんが席をたたれますよ!」

「と言う事は…」」

「見合い相手と二人っきりって事かよ」





「へぇ。名前さんはあの大手家具メーカーに勤めてらしているんですか。確かあそこはエリートばかりが集まっているとお聞きしましたが」

「私はそうでもないですよ。周りの方々は…濃い方が多いですが」

「私なんて大学を卒業すれば選択肢も無く親父の会社で働かされましたからね。羨ましいです」


運営会社の息子さんだもんね…。社長の息子ってのも大変なんだろうなぁ

時刻を見るとお見合いが始まってかれこれ一時間は経った頃だった。
コース料理もデザートに入ってそろそろ終わりみたいだし、この辺で先方にこの今後のお付き合いをお断わりしておかないと…


「あの…」

「どうかされましたか?」

「すごく、言い辛いのですが…」

「大丈夫ですよ。ゆっくり、話していただいて結構ですから」


テーブルの上に置いていた手に多い被せられるように相手の手が乗った。
そういえばギルの手も大きかったよなぁ…。
細くて長くて、それでいてゴツゴツしてて。手ぇ繋いだら硬くて少し驚いたっけ




「ギルベルトさんギルベルトさん!!手、手ぇ握ってますよぉおおおお!!!こ、これはあれですか!?僕と結婚してください…そんな!今すぐには…いいんです、何時まででも待ちます…!!なんてフラグゥウウ!!」

「おおおお、落ち着けよ本田!!てっ、手ぐらいでそんな…」

「ばばばばバカお前も落ち着けよバカァ!殺せばいいよな、あの相手殺せば丸く修まるんだよな!?」

「おさまらねーよお前も落ち着け!バカって二回言ってたぜ今!」

「お前こそ声震えてんじゃねーか!!」

「こんな事もあろうかとクナイと手裏剣を持ってきたのですが…。投げてみましょうか?」

「なんでそんなもん持ってきてんだよ!?」

「いえ、昔忍者漫画にはまった時に練習をしていたもので…一度でしとめられますよ?」

「やめとけ菊。ここは一目につくからな…。今から俺が呪いの呪文を唱えるからお前ら少し下がってろ」

「どこから取り出したんだよその分厚い本!」




「…」

「どうかされましたか?」

「いえ、少し周りが騒がしいなぁと思いまして」

「そうでしょうか…?それで、話とはなんでしょう?」


ったくあの三人…!!バレバレなんだよ声でかすぎんだろ!!
どうせ三人で私のあとをつけてきたに違いない。
どうせ首謀者は本田さんだろうよ。
分かってる、なんとなくこうなるんじゃないかって分かってたから。
私を心配しての行動…なんだろうけどね


「申し訳ございません。このお見合いお断わりさせていただきます」

「え…?」

「本当に申し訳ありません。私まだ、結婚する気なんてなくて」


握られたてを引っ込めて、相手の顔を見ると呆気に取られたような顔をしていた。



「ど、どうして…」

「私今仕事がすっごく楽しいんです。覚えたいこともいっぱいあるし…それに家で待っててくれてる奴が居ますから」

「もしかして、恋人ですか…?」

「何なんでしょうね。ペット、と言いますでしょうか…」


帰ろう。帰って何時ものように晩ご飯を作って、アーサーや本田さんと一緒に食べて。
やっぱり私にはお見合いなんて向いてなかったんだよね。
川平のおばさんには悪いことしちゃったけど…。あとで電話で謝っておこう


「それでは失礼いたします」

「あ…」



「あれ?名前さんが席をたたれましたよ…?」

「もしかしてもう見合い終わったのか…!?」

「っておい、早く帰っておかないとやばいんじゃ…」

「い、急いで帰りましょう!!名前さんより早く帰っておかないと何をしていたのかと問い詰められてしまいます!」

「マジで!?やべー!」



―――



「ただいま〜」

「「「お、おかえり〜」」」

「うわ…何三人して玄関までお迎えに来てるの?気持ち悪いよ」

「べ、別にいいだろ」

「お見合いはどうでしたか?」

「特に変わったことも無く美味しい料理をいただいて帰ってまいりました」

「そ、そうか。俺達はずっとここでゲームしてたんだからな!何処にも行ってないぜ?」


わざとらしいなぁ本当に…
私が帰るつい数分前に帰ってきた事ぐらい分かってるよ。
玄関に無理矢理脱がした靴が散乱してるし。ギルはともかく本田さんとアーサーは脱ぎ散らかすことなんてしないからね
よっぽどギリギリで急いでたんだなぁ…


「それで…ちゃんと断ってきたのかよ?」

「もちろん。家でふてぶてしいペットが待ってますから〜って言ってね。さて、晩ご飯の準備しよっか」

「あ、私も手伝いますよ」

「ありがとうございます」


本田さんに芋の皮をむいてもらい、せかせかと料理を作っていく。


「本田さん」

「何ですか?」

「スーツにサングラスは無いと思いますよ」

「…やはりバレていましたか…」

「普通気付きますよ。視界の端にあんな目だつ格好してる三人組が居たら」

「怒らないんですか?」

「アホらしくて怒る気力もないです」

「そうですか。それは好都合です」

「ったく…」


出来上がったカレーをご飯の上にかけて食卓に並べる。
お腹がすいていたのか、ペロリと平らげたアーサーのおかわりを入れながら、ふと思った。
この先、もし私にかれしが出来て結婚でもしたらギルはどうなるんだろう。
そこでもうお別れ?それとも連れてゆく?
血のつながりも無い他人をそこまで面倒を見る必要があるのか。答えはノーだって事私にも分かってる。
だけど願わくば、どんなに時間がたってもこの幸せな空間は壊れないようにここあって欲しい。
何年たっても、何十年経っても


「幸せって常に隣り合わせにあるものだもんね」

「は?何のことだよ」

「なんでもないよー。ほら、ギルもおかわり食べな!」

「もう食えねぇ…」



.


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -