「え、文化祭?」

「うん」


もうすぐ夕方を迎えようとした休日の午後。いきなりやって来たアイス君は一枚のチラシを私に差し出した。


「へぇー、アイス君の学校はこの時季にやるんだね。私が高校の時は9月だったような…」

「うちは私立だし色々あるから。他の学校と時季が被らない方がお客さんも多いからって」

「なるほど。6月の13日と14日かぁ。一般客も参加できるんだよね?」

「うん。だからチラシ持ってきた…」

「その為にわざわざ…」


来られる?と小さく首を傾げたアイス君を抱きしめそうになる衝動を必死に抑え、笑顔で「絶対に行くね!」と告げた。


「って事はデンさんも来ちゃったりするの?」

「ううん。教えてないから」

「あ、教えてないんだー…。そうだよね。デンさんが来ると何かトラブルが起きかねないし」

「去年は勝手に来て大変だった…」

「うわー…。苦労してるねーアイス君も」

「うん。すっごく」


時刻を見ると午後5時半。
ギルは昼寝してるし、そろそろお腹すいてきたなー
よし、何か作るか


「アイス君、今お腹一杯?」

「コンビニのパンとか色々食べてきた」

「そっか。今から晩ご飯作ろうと思うんだけど良かったら食べる?でもお腹いっぱいかなぁー」

「さっきの嘘。お腹すいたから食べたい」

「よーしお姉さんが美味しい晩ごはん作ってあげるからねー!」


アイス君は育ち盛りの高校生なんだし沢山食べるよね!
よーし、頑張って作っちゃおう!

いつもより軽やかに動く手で料理のしたくを始める。
アイス君は暇を持て余したのか、ソファーで寝ているギルベルトの背中を突いて遊んでいた


「んー…そんなとこ触るなよばか…」

「…じゃあこっちは?」

「そこはやめろー…くすぐったいだろぉ〜」

「…」


何やってんだろあの二人…。
ギルはなんか寝ぼけてるみたいだけど


―ピンポーン


「ん?アーサーかな。はいはーい今出まーす」


濡れた手をエプロンで拭きながら玄関へ出ると、カットソーにラフなパンツをはいた休日モードのアーサーが居た


「おぉー。今日も午前中仕事があったんだっけ?お疲れ様」

「よぉ。久しぶりにお前に美味い紅茶を淹れてやろうと思ってな…」

「マジですか。ありがと!嬉しいな〜」

「そ、そっか…。あ、これ俺が今朝焼いたスコー「それは要らない」…そうか…そうだよな…」


玄関先で膝を抱えて泣き入りモードに入る23歳の男。
それでいいのかアーサー…!
面倒くさいながらもアーサーの背中をポンポンと叩いて「泣かないの、いい子だから」とあやすと「泣いてねーよばかぁ!」と鼻声で叫ばれた。


「今ちょうど晩ごはん作ってるとこなんだー」

「グスっ…。誰か来てるのか?」

「来てるけど…なんで?」

「知らない靴があるから…」

「あぁ。アイス君が来てるんだよー。ほら、私の上司の親戚の子」

「あー…。前に一度会ったっけ」


リビングに戻ると相変わらず眠りこけているギルベルトを突くアイス君の姿があった。
楽しいのかなぁ…


「寝てんのか?」

「夜中にゲームやってたからねー。ほんとゲーム機取り上げてやろうかと思ってるとこなんだよ。アイス君、これアーサーね。この間遊びに来た時居たけど覚えてる?」

「なんとなく」

「よぉ。お前部活とかやってないのか?」

「面倒くさいしやってない」

「若いのに何言ってるのー。歳とったらやりたくても出来ないんだから今のうちにしてる方がいいよ?体がついていかなくてそりゃもう大変なんだから…」

「やけにリアルだなオイ」

「会社のスポーツ大会に出させられて悲惨な目にあったんだよねー去年…。晩ごはんの準備するからギル起こしておいてくれる?」

「ん。たたき起こしておく」


背後で「ぶぎゃ!」と帰るが潰れた時のようなギルの声が聞こえた。
さて、私は晩ごはん作っちゃおう。

そういや明日はついにお見合いの日だなぁ…
確か高級ホテルのレストランだったよね。
先方にご迷惑のないようにって川平のおばさんには言われたけど自身ないなぁ…


「よし、晩ごはんできたよー」

「マジ痛い…死ぬ、俺の死んだ…!!」

「なに蹲ってんのギル」

「この眉毛が俺の大事な所に踵落とししやがったんだよ!!」

「うわー…」

「去勢ができて良かったじゃねーか」

「んだとこの眉毛…!!」

「はいはい喧嘩しないの。アイス君沢山食べてねー」

「うん」

「マジで死ぬ…俺一生このままかも…」

「その時はアーサーに責任とってもらえばいいでしょ。生殖器はなくとも生きていけるさ」

「いけねーよ!」

「あんまり煩いと本気で使い物にならなくするよ…?」

「はいごめんなさい」


ったく、騒々しいよなぁこの二人は…。
嫌いなら喋らなかったらいい物を


「そういやお前…明日は見合いの日、だったよな…?」

「そうだよー。なんとかって言う高級ホテルでね。まぁ適当に会席して夕方には帰ってくるから」

「そっか…。近所のおばさんも付き添いに来てくれんのか?」

「うん。向こうはお母さんが来るんだってー。なんだかやり辛いよねぇ」


この話は無かった事に、なんて断ったら向こうのお母さん怒ったりしないかな…。
「うちの可愛い息子のどこが気に入らないんザマスか!」なんて…。いや、今時語尾にザマスは無いか


「お見合いって…?」


少し不安そうに首を傾げたアイス君に「明日お見合いがあるんだよ」と答えると顔をしかめられた。


「どーせこっちが断る前にあっちから断られんだろ。こんな凶暴女だれが嫁にもらうかってんだぜ」

「あぁん?マジで晩酌のビール抜くぞお前」

「も、もし貰い手が無かったら俺のとこに来てもいいんだからな…。勘違いするなよ!お前の為じゃなくて、だな…」

「そりゃどうも」

「ダメなら家に来てもいいから…」

「アイス君…!!もうダメ、なんなのこの子可愛いすぎ!」

「おっおまっ、何抱きついてんだよ!!高校生に手ぇ出すな!!」

「そ、そんなに年下が好きなのか…?それとも俺が眉毛だからダメなのか…?」

「アイス君可愛いなぁ〜。こんな弟欲しかったよ私」

「だったら家に来い!3人も弟居るぜ!」

「メタボと空気と眉毛の呪いがかかった弟なんていらねーだろ普通!お、俺だって頭がよくてムキムキの弟が…」

「お前の弟なんてどうせ芋ばっか食ってる不憫な奴に決まってんだよ。俺の弟なんかなぁ、小さい頃はそれはもう天使みたいで…」

「バカにすんなよ!こっちだって小さい頃は俺の後を付いてきて、すんげー可愛かったんだからな!」

「弟自慢はいいから。何このブラコン争い!」


その後数十分、永遠と続くアーサーとギルの弟自慢の話を聞かされるはめになってしまった。
アーサーに至っては最後に「あんなに可愛かったのに…アルゥウッ!!」と泣き崩れた。どんだけウザい奴なんだ、アーサー。
アイス君を抱きしめたままだった事を忘れていて、「ごめんね」と謝ると「大丈夫。もっとしても良いから」と殺人的に可愛い笑顔で言われてしまった。

デンさんと結婚すればアイス君が親戚になるんだよなぁなんて、恐ろしい事を考えてしまった。
想像するだけで身の毛もよだつ…!

とにかく明日はお見合いの日だ。
気を引き締めて行かないとね!!
それと、面倒だから本田さんには知られないようにしておかなきゃ…
どうせまたネタにされるに決まってるからね
ギルに「本田さんにはお見合いの話しちゃダメだよ」と告げると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして「もう言ったけど…」と返された。
っておいおいおい!!なにやってくれてんのこいつぅうう!!
玄関を開く音と共にスライディングで現れた本田さんに「お見合いと聞いて駆けつけて来ました!あ、その驚いた顔も素敵ですね。一枚いいですか?」とカメラを向けられた。

…頼むから自重してくれ、本田さん…!


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