「何をやっているんですかお馬鹿!!」

「うー…何ですかーローデリヒさん…まだ起きる時間には早いですよ」

「あなたと言う人は!もう少し自分が女性である事を理解しなくてはいけませんね!なんですかそのはしたない格好は!」

「はしたないって…何がですか」

「自分の今の状況を見てみなさい!」


今の状況って…。確か昨日はローデさんが私の部屋で寝たから、ギルを床で寝かせて私はソファーで寝て…
て言うかさっきからもさもさした物が背中にあたってくすぐったいんですけど…
寝起きで回転しない頭を使いながら手探りで背中にあるものを確認してみると、生暖かい人肌の感触


「…なんでギルが一緒に寝てんの…」

「知りませんよ。分かったらさっさと起きなさい」

「えー…まだ6時じゃないですかー。あと30分…」

「こらっ!お馬鹿!寝るんじゃありません!」

「うえぇえー…」


頭をポコポコと叩かれる。あぁ、私の脳細胞が死んでいくー…


「朝ごはん…何がいいですか?」

「まずは顔を洗ってらっしゃい。朝食は私が作ってさしあげますから」

「マジですか。助かりますー」

「冷蔵庫の物を使わせていただきますよ」

「どうぞどうぞ」


ローデリヒさんが朝食作ってくれるならもう少しゆっくりできるよね。
ギルはまだ寝てるみたいだし…
それにしてもいつの間にギルのやつ私の隣で寝てたんだろう…。気づかなかったなぁ


ドスッドスッドスッ


「な、何の音…?」


何やらリビングの方から怪しい音が聞えるんだけど…
え?何、ローデさん何してるの…?


ボンッ!!


「ってこれなんか爆発した音じゃない!?ローデさぁあああん!!!!」

「あら、どうしたのですか?」

「どうしたのですかって!!なんですか今の音!!」

「普通に卵を割っていただけですが」

「普通に卵を割ってどうやって今の音が出るんですか!!」

「そんな事しりませんよ!それに何時もの事です」

「何時もの事って…」

「いいから貴方は座っていなさい」


ローデリヒさんの手元を見るとボールの中に普通の卵が数個割り入れられている。
…あの騒音は何だったんだ…。
それからしばらくローデリヒさんが料理をする姿を眺めていたが、ボンだのぐしゃりだの、料理をしているとは思えない音が聞えてきた


「ったく、朝っぱらからなにやってんだよ…」

「あ、おはよーギル」

「んー…あの坊ちゃん何やってんだ?」

「あぁ、朝ごはん作ってくれてんだよ」


フラフラと歩み寄ってきたかと思えば私の横にごろんと寝転んだギルは頭上の先に居るローデリヒさんを寝ぼけ眼で眺めた。


「朝ごはん、ねぇ…」

「まぁご好意でやってくれてることだし…。それに昨日食べたケーキも美味しかったんだし味は大丈夫だよ、きっと」

「味は良くてもあの音はねーだろ」


無造作に跳ねたギルの寝癖を手櫛で撫でるように梳かすと軽くあしらわれる様に片手で防がれた。


「そういえばさ、何で私の横で寝てたの?」

「は?お前何言って…。って…あ」

「何?」

「そういや夜中トイレに行って…いつもの癖でそのままソファーに入ったような…」

「だからか。納得ー」

「お、お前と寝たなんて胸糞悪いぜー!」

「そうか。ビールとトマトジュース、どっちを鼻から飲みたい?」

「できれば口からでお願いします名前様」

「じゃあ青汁にしようっかー」

「マジでやめろ!それだけはやめてくれーっ!!」


許しを請うギルを無視してローデさんの元へ行けばとってもいい香りとがした。


「できましたよ。テーブルに並べるのを手伝ってください」

「はーい」


美味しそうな朝食ーっ!
あの凄まじい音からは想像も出来ないほど美味しそうな料理だよこれは…
ローデリヒさんの淹れてくれたコーヒーと一緒に出来たてのオムレツを口に含めば、卵の甘さとほんのりバターの味が口の中に広がった。
美味しい〜!


「どうですか?」

「すっごく美味しいです!」

「そうですか。まだありますので沢山お食べなさい」

「はい!」


凄いなぁローデリヒさん…きっといい奥さん、じゃなくていい旦那さんになるよー。
いつかエリザと素敵な家庭を築く日が来ればいいんだけどなー…

ローデリヒさんの朝ごはんを堪能し、いつもより余裕のある出勤準備を整えローデリヒさんと一緒にマンションを出た。
駅の近くまで一緒に歩いて別れた。
別れ際にまたケーキ作ってくださいね、なんて言うと「太りますよ」と厳しい言葉を言い捨てられた。
うっ…今のはグザッときちゃいましたよ…


―――


「おはようございまーす」

「名前ーーーっ!!」

「朝から煩いですよデンさん。鼓膜が破れたらどうするんですか」

「おめっ、見合いってどーゆう事だっぺ!?」

「え…なんでデンさんがその事を…」


ちらりと横目でティノ君を見ると顔のまで両手を合わせていた。
口が滑っちゃったんだね…


「い、いけませんか?」

「たりめーだべ!おめぇ俺んとこ嫁来んだから!」

「いや、なんでデンさんとこに嫁に行かなきゃなんないんですか。死んでも嫌です」

「ツンデレ?」

「いつ私がデレたか言ってみろ糞上司ィいい!!」

「まぁ俺は何時でも待ってっから。その気になったら俺んとこ来んべ!」

「今付き合ってる無数の女性と別れてから出直せ!」


朝から疲れるなぁー…
自分の席に座って大きくため息をつくと、隣に座っているティノ君が「すみません!」と小さく頭を下げた。
向かいのスーさんが書類の隙間からこちらを心配そうに伺っているのが、逆に怖い。
お茶を運んできてくれたノルさんに「何事も経験だけんど…。あのあんこだけはやめとげ」と哀れむような目で私を見た。
ノルさんはデンさんの事よく分かってるからなー…

よく考えてみたらお見合いの日って明後日なんだよねぇ…。
家に帰って服の用意とか色々しておかなきゃなぁ
お見合いを勧めてくれた川平のおばさんにも電話しておかなきゃいけないし…
合って食べて帰る、なんて簡単に言ってるけど本当に上手くいくんだろうか…
なんだか不安だけど、今から心配したって仕方が無い。
結婚なんてする気もないんだし…
だけどこれを逃したらこのまま三十路になるまでいい人も居ないまま仕事続けていくのかなぁ…。いや、このお見合いを受ける気は無いけど…。
そろそろ恋人とか、ちゃんと考えておいた方がいいのだろうか。

ため息混じりに小さく「結婚かぁ…」と呟くと、隣からコーヒーを吹き出す音、正面からは何かのへし折れる音が響き見えないものを追いかけていた上司はずっこけて、もう一人の上司は椅子からずり落ちた。

何やってんだろう、この人たち…

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