最近のギルはやたらと甘えたがる事が多い。
いや、前々から我侭は言いたい放題だったんだけど…


「ギルー、リンゴ剥いたんだけど食べる?うさぎさん型だよー」

「食う」

「はいよ。ここに置いておくからね」

「…」

「何、食べないの?」

「食わせろ!」

「食わせろって…」


口を開けてスタンバイしているギル。
ウサギさんリンゴを半分に割り、頭の部分を口に放り込んでやると、もごもごと口を動かしながら「そこはかとなくうめぇ」と言った。
いや、リンゴぐらい自分で食べろよ。
それともこれはギルなりのスキンシップなんだろうか。


「さて…本でも読もうかなー」


綺麗に無くなったリンゴのお皿を片付けてソファにすわり本を開く。
エリザに無理矢理押し付けられた小説なんだけど…。
内心怪しみながら、だけどせっかく貸してもらったものだしきちんと読んで返さなきゃ。
ライトノベルだし読みやすいよね。


「何読んでんだ?」

「んー?エリザに借りた本」

「へぇ…」


私の手元を覗き込んで本を覗くギル。
っておいおい、君が邪魔で本が読めないのですが


「ギル邪魔。読めない」

「だったら読まなくていいだろ!」

「いや、わけ分かんない。いいから退け」


ギルの頭をぐいっと押し退け本に集中する。
へぇ、意外とおもしろいなぁこの本。
後でメールでエリザに感想を送っておこうかな。


「さてと、今日の晩御飯は何にしようかなーギルは何がい…って、暗っ!!何しょげてんの!?」

「べ、べつにショボーンなんてしてねーぜ!」

「してるよ膝抱えて丸まってんじゃんショボーンしてるじゃん」


もしかしてさっきあしらっちゃったからいじけてんのかな。
せっかくの休みなんだしもう少し構ってやれば良かったんだろうか…


「ギルー、ごめんね?邪魔者扱いしちゃって」

「はっ!?別にいじけてねーし!?」

「あぁそうですか。ったく、可愛くないなぁ」

「うるせー。可愛くなくて結構だぜ」


なんだよ、構ってやろうと思ったのに。
「あっそ」と少し不機嫌に言葉を残して財布を持ち外へ出る。
気晴らしに晩ご飯の買い物でも行ってこよう。



「うーん、何にしようかなぁ晩ご飯」

「あ、名前ちゃんやー。きょっ、今日もかわええなぁ!」

「あははー…。どうも」

「あれ、どうしたん?なんか暗いけど」


ショボーンってなってるでぇ〜と私の顔を覗き込んだトニーさん。
そんな悲しそうな顔されちゃこっちが困っちゃうじゃないか…!


「ちょっとした事でギルと…喧嘩ってわけじゃないんだけど」

「あー。あいつ我が侭やしなぁ」

「最近は甘えてくるっていうか…いいスキンシップがとれてきたなぁなんて思ってたんだけどね」

「何それ、めっちゃ羨ましいんやけどっ…!!」


トニーさん、手に持ってるトマト潰れてる。


「あいつ昔っから素直じゃないからなぁ〜。でも人一倍寂しがりやしめんどくさい奴やで」

「だよねー」

「やけどあいつも色々あるからな…。しゃあないっちゃーしゃあないんやろうけど」

「何の、事?」

「何でもあらへんよ。まぁ俺が言うのもなんやけど、そんなに心配せんでもビールでもやっときゃぁすぐに機嫌直すわ〜」

「そうだよね。ありがとう、トニーさん」


やっぱり頼りになるなぁ、トニーさんは。
笑顔でお礼を言うと、顔をトマトみたいに真っ赤にさせて「あは、アハハハー…なんかあったらすぐ親分に相談するんやでっ!親分お悩み相談室は24時間営業や!」と胸を叩いた。
うん、服にトマトの汁ついちゃったよね。
また店長さんに怒られるよトニーさん…


―――


「ただいまー」

「…」


無視ですか…!!クッションに顔埋めて…。子供かあいつは。
まぁいいや、晩ご飯の準備しちゃおう。

…そういえばトニーさん、ギルの事”あいつも色々あるからなぁ”とか言ってたよね…。
もちろんトニーさんは、ここに来る前のギルの事も知っているわけだし色々事情も知っているはずだ。
ギルの過去に興味がないと言えば嘘になるけど、やっぱり他人に聞き出す事はしたくない。
ギルの言葉で、いつかちゃんと言ってくれればそれで良いんだ。


「…」

「何そんなとこで突っ立ってんの」


芋も皮を剥く手を止め、私の隣で立ち尽くしているギルを見上げる。


「あの、よ」

「なーに」

「えっと…だな、」


私のエプロンの裾をぎゅっと握ったギルは、生地を擦ったり指に絡めたりしながら私から視線を下げた。


「何ですかギルベルトさん」

「い、いつも…」

「んー?」

「あの、な」

「…」

「いつもありがとな」


エプロンの裾から離れて行った指先は、私の手の上に覆いかぶさった。
そしてぐりぐりと髪をぐちゃぐちゃにされ「ボサボサだぜ!」と笑われた。
やっぱりこれは、彼なりのスキンシップだったのかもしれない。


「いつもありがとうって…何、急に」

「べべべ、別にいいだろ!!まぁ一応世話になってる身だしたまにはお前を立ててやらねーとな!」

「うぜぇ!何時もは我が侭言いたい放題の癖に…」

「だからお礼言ったんじゃねーか。これでいいだろ」

「うわぁ、何それ。なんかむかつくー」


お返しにギルの髪をぐちゃぐちゃにしてやると、口では憎まれ口を叩きながらも嬉しそうに笑っていた。
ギルがどう思ってお礼なんて言ったのかはわからないけど、すっごく嬉しかった。
これからはちゃんとギルを構ってあげよう。
憎まれ口叩いたって我が侭言ったって、ギルはもう私の家族なんだよね。


「ほら、じゃが芋の皮剥くの手伝え!」

「いや無理。今からサザエさん見るんだよ俺は!」

「サザエより芋。今日の晩ご飯は芋づくしだよ!」

「マジで!?よし、剥くか」

「そこのピーラー使ってね。あと手切ったりしないでよ」

「いでぇえええ!!」

「言ってるそばからやるーーっ!!!ちょっ、水で洗って!!」

「今ブスって入ったブスって入ったぁああ!!」

「いや、大袈裟すぎ。絆創膏貼っておけば大丈夫だって」

「いや、これマジで病院行った方がよくねーか!?血止まらねーし!!」

「止血しときゃ止まるっての!!ったく、無駄な手間かけやがって…」

「最初からお前がやってればこうならなかったんだろーが!」

「ああん?誰の為に芋料理作ってやってると思ってんだコラァ。傷口に塩すり込むぞ」

「ごめんなさいさっきの撤回でお願いします」


やばっ、今すっごく幸せ…。
ギルの指に絆創膏を貼って、顔を覗くと照れくさそうに笑っていた。

なんだろう、これ。幸せすぎてどうにかなっちゃいそうだ。


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