「頼む!!この通りだ…!!」

「いいよいいよー。夕方には帰ってこられるんだよね?」

「あぁ、それまでこいつの事よろしく頼むな」


ポンと小さな弟の頭に手を乗せたアーサーは申し訳なさそうに私を見た。
今日は休日で、両親にピーター君の面倒を見るようにと押し付けられてしまったらしい。
しかし生憎急な仕事が入ってしまい、渋々私の所にピーター君を預けに来たのだった。


「任せておいてー!ピーター君、今日は一日私と一緒に遊ぼうねー」

「はいですよ!!アーサーの野郎なんかと遊ぶより一億万倍有意義なのですよー!」

「んだとテメェ!!そのオモチャ買ってやったの誰だと思ってんだ!!」

「アーサー、口悪いよ子供の前で」

「う…」

「やーい、アーサーが怒られてやがるですよー!まったくかっこ悪いですねぇ!」

「こいつ…!」

「いいから行け。大事な仕事なんでしょ?」

「やべっ…。それじゃあピーター。名前に迷惑かけるんじゃないぞ!あとそれからあのプー太郎に変な事吹き込まれても無視しろ!!それとお菓子を名前にねだるなよ!!分かったな!!」

「さっさと行きやがれですよ!」


うん、全く同感だ。やたら心配性のアーサーは最後まで不安そうな顔をして仕事に出かけて行った。
どこまでもブラコンな奴め。


「さて、ピーター君。何して遊ぼうか」

「シー君アニメのDVDが見たいですよ!!」


そう来たかぁああ!!いや、あるんだけどね…本田さんに借りてるのが山ほどあるんだけどね…。
み、見せても大丈夫なのかなぁ。教育に悪いものはなるべく避けたいし…


「ねぇギル、このDVDピーター君に見せてもだいじょ「ダメだ」」


どうやらそういう内容らしい。ギルの顔が真剣だ。
だとしたら家にあるアニメのDVDは他にないよなぁ…。今からレンタルショップに行って借りに行く?うーん、どうしよう


「本田に適当に持ってきてもらえばいいじゃねーか」

「おお!その手があったか!たまには役に立つねーギルも」

「たまには余計だろ!!」

「ギルバート、シー君と遊ぶですよ!」

「ギルベルトだ!」

「どっちでも同じじゃないですか。シー君がレッドでギルベルトが悪の組織ですよ!」

「んだと!!どう見たって俺がレッド顔だろ!!」

「お前は悪役もしくはイエローがお似合いですよ!」

「イエローかよ!!デブでカレー食ってるイメージしかねぇよ!!」

「そうですか?シー君は関西弁のイメージあるですよー」


うわぁ…なんか気が合ってる…。
今の内に本田さんに電話で聞いてみよっと。


「あ、もしもし本田さん?」

『…もじもじ』

「うわっ…!!どうしたんですかそのガラガラ声は!」

『いえ…先日編集さんどオールでカラオゲしだ時に喉をやられてじまいましでー…やはり6時間ぶっ続けでアニソンは厳しがったでずね』

「そりゃ喉も潰れますよ…。ところで本田さん、何か子供向けのアニメのDVD持ってないですか?今アーサーの弟君を預かってるんですけど、家にあるDVDはアレなので…」

『なんと…!!弟ですか、幼児ですがぁあああ!?ゲホッ』

「なに興奮してんですか。マジで声出なくなりますよ」

『えぇ…。子供も向げから大人げ向までなんでもありますよ。何がよろじいでしょうか…』

「あー…なんか今レンジャーで盛り上がってるみたいなんで、適当なのをよろしくお願いします」

『承知いたしました。ずぐに持って行きまずね』

「ありがとうございます」


本当にあの声大丈夫かな…。普段おしとやかな声が一変してオッサンボイスだよ。
本田さんのイメージが壊れていく…
いや、もうそんなもの残ってもいないか


「今変なおじさんがDVD持ってきてくれるからねー」

「変なおじさん?変態ですか?」

「うん、だからあんまり近づいちゃダメだよ」

「分かりましたですよ!」


うん、子供は素直で可愛いなぁ〜。
ピーター君は特別可愛いと言うか…。アーサーが可愛がる気持ちが分かる。
さて、私はピーター君の三時のおやつの為にクッキーでも作ろうかな


―ピンポーン


あれ、本田さんかなぁ?いくらなんでも来るの早すぎだよね…


「はーい、どなたですか〜」

「ボンジュール名前ちゃん。お兄さんが遊びに来ちゃったよー」

「こんにちは〜名前ちゃん。今日バイト入ってないさかい遊びに来たで〜」


うわぁー来たよ悪友コンビ!ピーター君居るけど大丈夫かなぁ…
特にフランシスさんとかフランシスさんとか、ピーター君に悪影響を及ぼすかもしれない。


「まぁ上がってください。今アーサーの弟君が来てるんですよ」

「え、アルフレッドとマシュー?」

「あの忌々しい金髪眼鏡かいな!!」

「いえ、小さい方です」

「あぁ、ピーターね」

「あれ、フランシスさんはご存知なんですね」

「お兄さんは何でも知ってるよ〜。名前ちゃんの今日のパンツの色あててあげようか?ズバリピンクでしょう!」


やや角度を低めに私を指差したフランシスさんをゴキブリを叩いた後のスリッパで叩き潰す。
ズバリって、どこの丸尾君だあんたは。


「え、ピンクなん!?俺は赤とか黒がよかったんやけどなぁ〜。あ、でも白も捨てがたいなぁ…」

「あなたはどこまで能天気なんだ。トニーさんと言えどセクハラ発言してるとフランシスさんのように叩き潰しますよ。ゴキブリ潰したスリッパで」

「おひゃぁああ!!やめてっ!!てゆーかゴキブリ潰したやつでフランシス殴ったん!?お、鬼子やぁあああ!!!でもそんな君が好きだよ!」

「なんで最後標準語!?とにかく上がってください。フランシスさんはそこでのたれ死んでてください」

「ちょっ…なんでそんなに俺の扱い酷いの名前ちゃん…」


リビングに戻るとギルとピーター君がゲームをしていた。
うーん、なんだかこの二人思ったより仲いいよなぁ…。あれかな、ギルの精神年齢がピーター君とそう変わらないからだろうか。


「私はクッキー作るから頼んだよー、ギル」

「ちょっ今話しかけんな!!」

「お、名前ちゃんクッキー作るの?俺にも手伝わせてよ」

「いいですけど…変なもの入れないでくださいね」

「どんだけ信用ないの俺…」

「あとシャワー浴びてくれません?ゴキブリ臭いんですよフランシスさん」

「ちょっとぉおお!!君がやったんだよね君がゴキブリ叩いたスリッパで殴ったんだよね!?てゆーかゴキブリ臭いって何!聞いたことねーよそんなの!!」

「あれちゃうフランシス。加齢臭」

「これ泣いていい?」


目を右手で覆って「グスッ」と鼻をすすったフランシスさんは大人しくバスルームの方へ向かった。


「うわぁ、ほんまにあの眉毛にそっくりやなぁー自分!」

「アーサーの事ですか?あんな奴と一緒にするなですよ!」

「あれ、兄貴の事好きやないん?あかんでー、お兄ちゃんは大事にせんと〜」


ピーター君の頭をポンポンと撫でるトニーさん。なんか子供慣れしてるよなぁ…
視線もピーター君に合わせちゃったりして、なんだか保父さんみたい。


「でもアーサーうざいですよ」

「うん、それは俺も同感やで」

「ちょっ、同感しちゃダメだよトニーさん!!」

「だってあいつうざいんやもんっ!」

「もんって…いい年した大人が…。いや、トニーさんだから許されるけど」

「ほんまに!?名前ちゃんが褒めてくれるならこれからいっぱい使うわ〜もんっ」

「使いどころおかしいだろ」

「ギルは口挟むなやー。まぁ俺より名前ちゃんが言ってる方がかわええんやけどなぁ〜」

「私が?」

「そうそう。なぁ、大好きなんだもんっ!って言って?なぁ言って〜!!」

「だいすきなんだもーん」

「うわー今鳥肌立った!!背筋ぞわってしたぞ今!!」

「ほほう…そんなに吊るされたいかお前は…」

「いや、嘘、冗談だって。キュンときたぜー!」

「棒読み止めろ」

「あっ名前ちゃん…」

「何ですかトニーさん」

「も、もっかい言って?今度はトニーさんが〜って最初につけてくれたら嬉しいわぁ〜!!ハァハァ」

「ちょっ、近いですトニーさん。そして息が荒い!!」

「馬鹿か」


ギルにぐいっと腕を引っ張られトニーさんから離される。
うん、今回だけはグッジョブ。


「こんにぢは〜。愛と勇気の戦士本田菊でず」

「うわっ!どうしたん菊その声ー!」

「いえ、先日カラオゲでハッズルしすぎだようでして…」

「悪の帝王みたいな声ですよー!!!!」

「HAHAHAHA!!世界を我が手に落とすのじゃぁああ〜!」

「うきゃー!!すごいですよー!」


うわぁ…本田さんが子供にウケてる…
なんだかちょっと怖いなぁ…色々と


「本田さん、相手は純粋な子供ですから変な事はしないでくださいよ」

「分かっていまずよ。私、子供大好きですから!!」

「あなたのは歪んだ好きが混じってるような気がしてならないんですよね…。ともかく、悪影響になるような事はやめてくださいよ!」

「分かりましだ」


声をガラガラに枯らした本田さんは何時もの笑顔で微笑んだ。
さて、私はクッキー作り始めようかな





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