5.責任のとり方


アーサーさんアーサーさん…は、今日も家に戻って来なかった。
数日前「仕事が忙しいから近くのホテルに泊まる」と言って鍵を私に渡したまま。
アーサーさんの居ない家は静まり返っていて、たまに妖精さんやユニコーンがどこからかやってきて話し相手をしてくれるけど、それでもむなしかった。
今日もアーサーさんに渡されたメイド服を着てみるものの、アーサーさんが居ないと仕事なんてできなかった。
アーサーさんが居なくなってからずっとこの家に泊まりこんでいる私は何もせず、ただアーサーさんの帰りを待ち続けた。
あぁ、やっぱりアーサーさんの居ない生活なんて考えられないよ。
だってこんなにもアーサーさんが大好きだから。今頃アーサーさん何してるかなぁ。
ちゃんとご飯食べてるのかなぁ。
あの時私の唇に当たったのはやっぱりアーサーさんの唇だったのかなぁ。
なんで、何でアーサーさんはキスしたのかなぁ。
ねぇねぇアーサーさん、早く戻ってきてくださいよ。


「ボンジュール…って、うわっ!!何この家ゴミだらけ!!」

「あ、オッサン2…じゃなくてフランシスさんだ」

「ちょぉおお!!どうしたのこれ!!アーサーは!?玄関にゴミ袋の山があるんだけど!!ゴミ屋敷かここは!!」

「アーサーさんが帰ってこないんです」

「そりゃこんな家だったら俺でも帰ってこないよ!!」

「仕事が忙しいとかで数日前から居ないんです」

「ちょっ、大丈夫かお前…?」


椅子に座っている俯いている顔を下から覗いたフランシスさんは顔にかかった私の髪をさらりとなでて耳にかけた。


「何があったんだ?っていうかその格好何、サービス?」

「だれがオッサンなんかにサービスするかってんだよドあほぅ」

「え、酷くない?酷いよねそれ」

「フランシスさん、私アーサーさんが好きすぎて仕事に手がつかない」

「いや、君どんな状況でも仕事してないよね」

「しかもこんな、アーサーさん以外の男に触られるなんてっ…!!」

「君ちょっと病院行った方がいいよ」

「私、私、アーサーさんがっ…」

「分かったら泣かないで…。お兄さん女の子の涙に弱いんだからさぁ」

「うぐっひっ、あー、さーさんの眉毛に触りたいよぉアーサーさんの、お尻にタッチしたいよ…えぐっ」

「どさくさ紛れに何言っちゃってんのこの子は〜!!ったく…。ほら、泣き止んで」

「ぶひぃいい!!」

「ぶひーって…」


フランシスさんの親指が目尻に沿って涙を拭き取った。
ちくしょう、顔近いぞオッサン。ん?涙で潤んでるからそう見えるだけなのかな。
あ、後ろの方に妖精さんやユニコーンたちが集まってきてる。私のこと心配して来てくれたのかな。
フランシスさんの右手が私の頬に添えられた。なんだかお父さんの手に似てる。


がっしゃーんっ


大きな音が聞こえたかと思うと、つい数秒前まで私の目の前に居たはずのフランシスさんが居なくなっていた。

あれ…?


「フランシスさん?どこ行っちゃったんですか髭ー!!HIGEEEE!!」

「こっちだ、こっち」

「ん…?こ、この艶やかな質のある透き通った声は…」

「今帰ったぞ」

「アンドレ、じゃなくてアーサーさぁああん!!」

「アンドレってなんだよ!?てかお前鼻水!!ちょっ、こっち来んなぁああ!!」

「あーじゅわーすわぁああああん!!」

「ヒィイイイ!!」


両手を伸ばしてアーサーさんの胸に飛び込むとアーサーさんは嬉しさのあまり悲鳴をあげてしまったようだった。
アーサーさんだ、アーサーさんの匂いだぁああ!!


「ハァハァアーサーさん、アーサーさん…!!!」

「ちょっ、目がやヴぇぇええ!!俺が居ない間何があったんだよお前!?」

「バカァアア!!ばかばかばカバカバカバカバカバカバカバカバカ、アメリカのバーガァアアア!!」

「…どこからどうつっこめばいいんだ?」

「あ、適当に流してください」


はぁああ、と呆れたように髪を掻き毟るアーサーさん。
これだ、アーサーさんだ。
ずっと会いたかったんですよアーサーさん、もう何日もアーサーさんに会えないなんてイヤですよ、私。
これからは荷物に紛れてでもアーサーさんについて行ってやりますからね。
もう、アーサーさん、アーサーさん…



「なぁに泣いてんだよ、バカ」

「アーサーすわぁーん…」

「ちゃんと発音しろ」

「アーサーさんに会えなくてすっごく寂しかったですよぉおお…!!」

「そ、そうか…」

「もう一生離れたくないです。お風呂にもトイレにもずっと付いて行きたい気分です」

「それだけはやめてくれ!!」

「じゃあもうホテルになんて泊まって戻ってこないなんて止めてください。やむを得ないなら私も一緒に連れてってください」

「お前は家のメイドだろーが」

「アーサーさんが居ないならメイドなんてやりません。アーサーさんが居ないと仕事なんてできません。一生ニートのままです」

「それは困るな…」

「こんなになったのもアーサーさんのせいなんですからねぇえええ!?」

「俺悪くねーだろ!?」

「アーサーさんが、アーサーさんがかっこよすぎるからダメなんですよ!!寝起きのかすれた声とか、照れくさそうに笑ってる笑顔とか…!!それから拗ねてる時は顔を背ける仕草とか、私が失敗して散々怒ってもちゃんと”次は失敗するなよ”って頭撫でてくれるとことか…!!アーサーさんの全部が好きすぎて、私…」

「泣くなよバカ…」

「こんなになったのアーサーさんのせいなんですからねぇえええ!!責任とってくださいよアーサーさん!!」

「バーカ」


お前こそ責任とれよと照れくさそうに微笑んだアーサーさんの顔がだんだんと近づいてきて、形の良いその唇が私のそれに重なった。




責任のとり方



(え、あ、へ…あの、え?)
(鈍感なんだよお前は!!)
(え、アーサーさん私の事好きだったんですかぁあああ!?)
(なっ、すっストレートすぎんだよお前はぁあああ!!八橋に包め!!)
(八橋って何?)



2009.8.3

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