「なんで私の席に座っておられるんですかギルベルト氏」

「氏ってなんだよ氏って。これはアレだぜ。お前がケツ冷やすといけねーから暖めてやってたんだ」


ケツ冷やすといけないってどういう事だ。
確かに女の子は下半身を冷やすと良くないって誰かに聞いた事あるけど…
って、そんな事はどうでも良いのだよギルベルト氏。
誰も居ない放課後の教室の、日当たりも良くない眺めも良くない場所に位置する私の席に敢えて座る意味が分からない。
どうせなら窓側一番後ろの野球部エースの山本君の席に座れば良のに。
何故敢えてのこの場所。


「新手の苛めですか?こんな蒸し暑い日にわざわざ尻を温めろと?ドSか。Mそうな顔してまさかのドSか」

「俺はみたまんまのドSだぜ!」

「見たままのドMか。そうかそうか、なら顔を踏んでやるからそこから退いて地面に這い蹲りなさい」

「だから俺はSだっての!!ったく、せっかく俺様がお前の帰りを待っててやったってのに何だよその態度は。ルッツに言いつけるぞ」


先日アントーニョ君大好きくるみちゃん以下数名の女子に再び呼び出されていた私を待っていたと。
何故。何の用があるというのですかギルベルト氏。
ちなみにルッツというのは彼の弟さんらしい。


「あ、そういえば象が踏んでも壊れない筆箱どうなった?」

「愛用してんぜ。屋上から落としても壊れなかったぜ。マジですげぇ」

「やるよねー。私も上に乗ってジャンプしてみたけどびくともしなかった」

「俺もなんとかして割ってやりたいから色々手を考えてんだよ。理想は片手で握り潰せるようになる事だぜ」

「無理ですよそれは。どんだけマッスル」

「じゃあルッツにやらせるか」

「ルッツ君マッスル!?」

「あぁ。細マッチョだぜ」


いったいどんな弟なんだとつっこんでやりたい。


「さてと。俺帰るな」

「あ。はい、さようなら」

「ん、そうだ忘れてた。これトニーから預かってたの忘れてたぜ」

「何それ…」

「さあ」

「そうですか。ありがとうギルバート君」

「泣かすぞ?」

「ごめんなさい調子乗りました」


暗くならないうちに帰れよと教室を出て行くギルベルトさんを見送って、彼からうけとった大きな書類用封筒の封を切る。


「ノート…?」


トマトの表紙にシールが貼られたいたって普通の大学ノート。
え?なにこれ、中は何も書かれて無いんですけど…
封筒の中を探ってみると、ノートの切れ端に男子特有の字で書かれた言葉が数本。



”大好きな名前ちゃんへ。俺の願いを聞いたって?どうか俺と交換日記してください”


どこからどうつっこんだらいいのか分からない。

分かる事といえば、どうやら彼は本気で私の事を想っているという事ぐらいだろうか。
手紙の何度も書き直した字の跡と、先程から教室の後ろのドアからこちらを見つめている彼の碧色の瞳が物語っていた。


アントーニョさん…


交換日記って古いよ…
何時の時代の交際だよ、これ





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