「海だーっ!!」

「うっひょー日差しが眩しい!!」

「名前、海に入る前に日焼け止め塗らないとダメよ?」

「ったく…あんまりはしゃぐなよな、恥ずかしい」


やってきました海ーっ!!
やっぱり夏といえば海だよねぇ、うんうん。
夏休みも後半にさしかかったっていうのにアントーニョ君の事で悩みすぎて夏らしいこと全くできてなかったからね!!
今日ぐらい思いっきり楽しもうじゃないかぁぁあ!!


「どこにパラソル立てよう、まゆ…生徒会長!」

「今眉毛って言おうとしたろ。眉毛って言いかけて言いなおしたろお前」

「そんな事ないよー。その水着似合ってるね!」

「そ、そうか?これは俺の国の有名ブランドのやつでさ。あっちに居る父から送ってもらって「何やってるんだい名前、そんな眉毛に構ってると眉毛が感染するんだぞ!!」…眉毛が感染ってなんだよ!?」


会長は今日も元気だなぁ〜。
夏休みにも関わらず生徒会室に篭りっきりの所をエリザが気づかって今回の一泊二日の海旅行に誘ったらしいけど…
あんまりこの人と喋った記憶がないけど大丈夫か、私。
まぁアルフレッドもエリザも居るから大丈夫か。
それにしても今日もいい感じの眉毛だな、会長は!


「名前、今日は煩わしい事なんて忘れておもいっきり楽しみましょうね!」


あぁ、太陽のように輝くエリザが眩しいです。


「だけどエリザは特に注意しておかないといけないよ?海にはいスケベな奴らも居るんだからエリザの美貌とナイスなバディーにホイホイされて集まってくる男共がうじゃうじゃ…」

「エリザベータのおっぱいは俺のものー!!!」

「ぎゃぁあああ海坊主ぅううう!!!」

「はぁはぁ名前ちゃんの水着姿かっわいいなぁお兄さんビンビンきちゃうなーハァハァ」

「ぎゃぁあああヒゲぇえええええ!!!」

「なっ、フランシス!?なんで居るんだよお前!!」

「海坊主じゃねえええええ!!浜辺のイケメンとは俺の事だ!!」

「いやいや渚のビーチボーイはお兄さんでしょ」


いきなり海から這い上がってきた海坊主、基ギルベルトさんとフランシスさんに隣に立っていた会長さんが全力で舌打ちをした。
気持ちはよく分かる。


「いやぁ、たまたまお兄さん達も遊びに来ててさ」

「ナンパという名の危ない遊びだぜ!ケセセ!」

「でもその様子だとヒットなしみたいだね」

「ケセセ…セセ…」

「俺らの邪魔すんじゃねーよ髭。さっさと帰れ」

「やなこったー。こんなに可愛い二人を独占なんてずるいぞお前ら!お兄さんにも愛を!!」

「名前ー、お腹空いたんだぞ!!ヤキソバ食べたいヤキソバ!!」

「先にご飯にしよっかー」

「あれ、無視?お兄さん無視?グズッ…」



水着姿でめそめそと泣く二人を置いて近くの海の家へと足を運ぶ。
後を追うようにやってきたギルベルトさんが「お前エリザと俺が上手くいくようになんとかしろよ」と耳打ちをしてきた。
いや、見込みないと思うんだけど。



「すみませーん、ヤキソバ四つください。一つはワサビ大盛りで」

「それ誰が食べるんだい?」

「お前だよお前」

「NOOOO!!!」


海の家の入り口付近で頭にタオルを巻きヤキソバを焼いているお兄さんに声をかけた。
うんうん、海の男って感じでかっこいよねぇ〜。
下を向いてるから顔は見えないけど、心なしかあの人に似てるような気がするし


「はいはいすぐ焼けるから待っててや〜…って…あ…」

「あ」


偶然。とても偶然。

まるで仕組まれたような偶然だ。

太陽に照らされても清々しい笑顔を浮かべるアントーニョ君がなんだかとても眩しかった。



「あの…その…」

「えーっと…ヤキソバ四つ…」

「あ、はい。おおきにー…」


なんだこの重い空気は。
アントーニョ君の事だから何事も無かったのように「偶然やなぁ〜」なんて声をかけてくれると思ってたのにさ…!!

ぎこちなくアントーニョ君からヤキソバを四つ貰い、お金を渡す際に微かに手と手が触れ合った。
ああもう、心臓の音煩い。ちょっと静かにしろよお前!!


「あのー…えっと…」


なにか言わなきゃ…!!いったい何を言えばいいのか分かんないけど何か言わなきゃ…!!!


「名前」

「あ…会長」

「一人で四つも持つなよ馬鹿。落としたら危ないだろ」

「あ、ごめん。ありがとう…」

「エリザベータとアルフレッドに飲み物買わせに行ってるから先に戻ってようぜ」

「そ、そうだねー…ははは…」


タイミング悪いよ会長ぉおおお!!
ヤキソバを半分持ってくれた会長が「ほら、行くぞ」と私の背中に掌を当てたので何となくくすぐったかった。

結局アントーニョ君とまともに話せなくて終わってしまった。
このまま新学期になっても気まずいままなのは嫌だな。
ああ、アントーニョ君ってばこんな炎天下の中やきそばなんて焼いちゃって。暑いだろうに。きっと可愛い渚のギャル達がアントーニョ君目当てにヤキソバを買いに来るに違いない。
もしかすると夏が終わる頃にはケロッとした顔をしたアントーニョ君に「俺彼女できてん〜!トマトみたいでかわええやろ!」と紹介されてしまうかもしれない。
もしそうなったら私は………いや、私なんかじゃどうしようもない事だけど。


あれ、おかしいなー。目頭が熱くなってきたよこれ。
なんだか視界も歪んできたなぁなんてどこか客観的に考えていると空いている方のてを力強く引かれ目に溜まっていた涙がその勢いで宙に舞った。
背中に当たったぬくもりにポカンと口を開けて視線を上げると、見たことも無いような怖い顔でどこかを睨んでいるアントーニョ君の顔。

何が何だか分からない私の手首を掴みどこかに歩いて行くアントーニョ君におぼつかない足取りで着いていく。

背後で何か叫んでいる会長の声が心臓の音でかき消されていった。



頭の中まで茹で上がってしまうような、感覚がした。






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