「ふらふら…」 私はここ数日、飲まず食わずでサテライトを彷徨っていた。 D・ホイールの事故で両親を亡くしてから、行く当てもない私は、サテライトに足を運んだ。 孤児院があるのは知らなかったが、サテライトに行けば同じような子どもが一人で生きていると、漠然とした安心があった。 しかし現実は甘くなく、子どもだからといって助けてくれる人は、大人でも子どもでも誰一人いなかった。 空腹、そして脱力、私は道の真ん中で崩れ落ちた。 「…ふ。ビニールハウス出身温室育ちの不自由なく育ったこの私に、サテライトは少し難易度が高かったようね……」 バタッ 「……」 「………………」 「おい、大丈夫か?」 「!!!!!!」 私が残された渾身の力で顔を上げ前を見ると、そこには水色の髪をした少年が立っていた。 これが、私たちの出会いであった。 「…ふえええ。」 「え?お、おい、泣くなよ…!?」 「人だぁぁ、やっと人に会えたぁぁ…!」 「お前どこから来たんだよ!?」 「水、水をくださいぃぃぃ」 薄汚れこけた顔の私に、サテライトで初めて声をかけてくれた、そんな優しい心、人の心を持った人物に会えたことが嬉しくて泣いてしまった。 水を飲み、空腹感は満たされないが、少し元気になった私に少年は話しかける。 「お前、名前は?」 「ナマエ。あなたは?」 「俺は鬼柳。鬼柳京介だ。」 「ありがとう、きりゅー。」 鬼柳から聞いたのは、ここサテライトでは、大人も子どももみんなが、助け合うなんて余裕もなく、その日その日を必死で生きている。 だから、弱い子どもは孤児院に入らない限り、ここでは生きて行けないらしい。 それでも鬼柳が私に声をかけたのは、堂々とあからさまに道の真ん中で倒れていた私に、声をかけなければ人間としてどうなのかと思ったかららしい。 鬼柳に少しでも道徳があり、私がたまたま大通りで倒れなければ、私は確実に飢え死に、大地の栄養として土にかえっていただろう。 「水飲んで歩けるようになったら孤児院に行け。お前みたいなシティでぬくぬく育った奴にはサテライトで生きるのは無理だ。」 「え?…でも、鬼柳は?鬼柳も一緒に行こうよ。」 「俺はいい。ここで一人で生きていける。」 鬼柳は強いんだ。 でも、やっぱり子どもだ。明日のことはわからない。 「私、鬼柳と一緒にいる!!」 私の突然の発言に、鬼柳は目を丸める。 「いくら鬼柳が強くても、大人に勝てないときがあるかもしれない、危険だよ!」 「一番危険なのはお前だろ、俺は大丈夫だよ。」 「でも、助け合わないと、生きていけないよ…」 「言ったろ?助け合うなんて言葉、ここでは通用しない。だいたいお前は俺の足を引っ張るだろ?だったら共倒れだ。」 「じゃぁ私、外で足引っ張らないように、家庭で鬼柳の帰りを待ってるね。」 「いやだから施設行けよ。」 確かに、私は戦闘能力が低いから、鬼柳にとっては邪魔だ。 でも、鬼柳に何かあったら、さっきの私のように、一人で死んでいってしまうのだろう… 「………」 「諦めたか?」 「…いや、どうやったら鬼柳を落とせるか考えてる。」 「落とせるって、お前…」 「…鬼柳は、どこに住んでるの?」 「その辺の廃ビルの部屋を勝手に使ってる。」 「ねぇ、行ってもいい?」 「だめだ。」 「ねぇ、何もしないから?」 「お前何が目的だよ!」 頑固な鬼柳に、私は眉尻を下げる。 うーん、と考えているうちに、鬼柳は「じゃぁな」と声をかけ行ってしまった。 「あーん…もう、行っちゃった…」 それでも諦めず、いつか鬼柳にこの借りを返すことを心に決めた。 やはり施設に行った方がいいのかと思い、その所在はわからないがとりあえず孤児院を探すべく歩く。 すると、路地裏の方から声がした。 「子どもだからって手加減しないぜぇ…!」 「はっ、きたねぇ大人だな!いいぜ、来いよ!」 物騒な世の中だなぁ、と思い物陰からそちらを見た。 なんとそこには、デュエルディスクを構えた鬼柳が複数の大人に囲まれていたのだ。 そうか、ここでは年齢なんか関係なく、デュエルがルールなのね…! 「まさに弱肉強食…!って、そんな場合じゃない!!」 鬼柳を、助けなきゃ…! でも、大声を出して誰かに助けてもらえるなんて、鬼柳の話を聞く限り無理だ。 慌てふためく私の目に入ったのは、鬼柳を取り囲む連中が停めたと思われるD・ホイール。 「これだ…!!」 詳しくは知らなかったが、私の両親はライディングデュエルの大会にも出場するほどのデュエリストであった。 運転はしたことないが、幼少の頃からD・ホイールに乗せてもらっていた。 操作なんてわからないが、行ける気がする。 「くっ…!」 「おいおい、さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」 「オトナ相手には手が出ませんってかぁ!?」 追い詰められる鬼柳。 その後ろから、私はD・ホイールのエンジンをふかせた。 ブルルルル…!! 「な、なんだこの音は!?」 「あっ俺のバイクじゃねえか!!」 「きりゅー!!しゃがんで!!」 「んな…っ!?」 私はD・ホイールを加速させ、車体を持ち上げジャンプすると、そのまま男の集団に突っ込んだ。 「おい!!危ねぇだろうが!!」 「うるさーい!このまま轢くわよ!!」 バイクから逃げ散り散りになる男たち。 さすがの大人も、バイクには勝てない。 「お、お前、ナマエ…!」 「また会えるなんて、運命だね!」 びっくりした表情でこちらを見る鬼柳。 「大人たちが戻ってくる前に逃げよ!」 私は鬼柳の手を引き、走り出した。 「…お!」 逃げるときに落としたのか、誰かの財布が落ちていた。 お世辞にも、持ってるとは言えないくらいの額のお金が中に入っている。 「…鬼柳を襲った罰だね、もらっとこ。」 「あ、あぁ…」 鬼柳は終始目を見開いて私を見ていたが、先ほどの大人たちがバイクに乗って戻ってくる音がかすかにしたので、身を隠すように鬼柳の住処にしている廃ビルへ走った。 「ふっ。うまいこと鬼柳の家に上がりこんだわ。」 「怖ぇーよ、何するつもりだよ。」 「ね!私もやるときはやるでしょ!」 「まぁ、な……いや、助かった。礼を言うぜ、ナマエ。」 「良かった。これで、私も鬼柳と一緒にいていいよね?」 「仕方ねぇな…足引っ張んなよ。」 「うん!!」 「っし。生き残るぞ、二人で。」 「うん!!」 チーム・サティスファクションが結成される、もっと前のお話。 これが、鬼柳と私の出会い。 きっと、運命。 ←back |