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もしも、本心を言えるなら 手癖の悪い君と仲良しになりたいんだ。 - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 「あれぇ?」 以前買ったばかりの青色が詰まったビー玉が見つからない。どこを探しても見つからないのだ。大切にしていたから捨てた、というのはありえない。 「と、なると」 思いつくのは一つだけだった。 △▼△▼… 「あれあれ?氷雨くんじゃん?こんな昼間からどったのー?」 「やあやあ、万手クン。それと、今は夕方だよ。」 隣の部屋のスラリとした長身の多財餓鬼の万手クン、からからと笑って入室を勧めてくるが以前入った時の部屋の散らかり様、いやあれはカオス、混沌、もみくちゃ、など筆舌に尽くし難い部屋なのである。 「それに急ぎじゃないしね、お互い自分の時間は大切に過ごしたいだろう?」 「ふーん、わっかんねーけどなに?回覧板?」 「いやいや、そんなもんじゃないよ。」 ひとつしかない大きな目を少し細め、口角をわざとらしく上にあげて笑顔を作ると、万手クンの笑顔が少し引きっつった。 「俺のビー玉、返してくれるかい?」 「返しても何も、あれは私が拾ったんだけどなあ…」 「へぇ、拾ったんだ。」 迷わず俺は首筋に常備してある短刀を突きつけた。妖怪だから人間の急所なんて大したことないのだけれど、大なり小なり傷はつく。 「お互いの時間は、大切に過ごしたいだろう?」 俺は自分の大切に容赦ない。それは例えものだろうが関係ないのだ。 誰だって、大切を失うのは怖いだろう? 「ひゃ〜そう怒らないで!とっても素敵だったからつい、ね。」 「ふぅん。つい、ねぇ。」 「降参、こーさん!私の負けだから大人しくその短刀閉まってくれない?おっかなくて返せないよ」 「それもそうだね。」 カチャン、と鞘におさめてまた笑う。今度はちゃんと笑う。 「氷雨くんってさ〜〜普段のほほーんとしてるくせにこーゆー時キレんのどうにかしてよ〜〜ちょーーーこぇえ」 「じゃあ取らなきゃいいだろう?いい加減君も学習しなよ」 そう、何もこれが最初というわけではないのだ。 最初は彼が越してきた時、お気に入りの湯のみが消えた、その時は彼の悪癖を知る機会だったということにして終わらせた、その次は確かアクセサリー、次はCDやカセットなどの音楽機器、もちろんちゃんと返してもらったが、その度に今回のようなやり取りが行われる。 「いやあ…だってさあ?」 ビー玉が詰まった瓶を渡しながら、彼は常に笑っている顔をさらに口角をあげ心底楽しそうに言う。 「他人のものっていい物じゃん?それにさあ、欲しいものは〈その人〉が〈持っている物〉なんだよね、同じものが売られていてもなんの意味もなさない。〈その人の物〉じゃなきゃダメなんだよ」 そう言ってカラカラとまだ笑う彼を俺は否定も肯定もしない。 何を言おうが俺達は何年、何十年、何百年と生きてきたのだ、今更価値観や思想、思念を変えるのはムリな話。ならば聞いたことにして流せばいいのだ。 本当、妖怪とは人間より単純で助かる。 「そういうものか、ならこれは君が気に入るはずさ」 返してもらったビー玉を確認して無駄に広い袖口からまんじゅうの箱を取り出す。すると万手クンはわぁ!と嬉しそうな声を上げた。 「ふかみ屋の饅頭じゃん!いいなあ!それチョーダイ!」 「そう急ぐなよ、貰ったものなんだ。でも一人じゃ食べれなくてね、半分食べてくれないかい?」 「いーの!!?やっりー!!」 嬉しそうに受け取る彼を見て俺はその場を後にした。 このやりとりをする度、俺は思うのだ。 「面白い住人がいて、俺は幸せだな。」 確かに手癖も悪いし、悪癖は直す気すら見受けられない。 それでも素直で明るくて何より常に楽しそうだ。俺みたいにひねくれている訳でもない。あの癖さえなければ本当にいい奴なのだ。 満たされないということは、常に求めているということ、求めていると言うことは、前進しているということだ。 妖怪で前進も何も無いと思っていたが、あんがい生きているのも楽しいかもしれない。 そう思える、そう思えるようにしてくれたのは紛れもなくここの住人たちで、万手クンなのだから。 青色のビー玉を空にかざす、夕日と合わさって、どことなく切なげな色に変わっていったのだった。 End
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