※吹←円 吹雪士郎といえば、身長はやや低めだが、愛くるしい容姿にも関わらず低めの落ち着いた声。しかも物腰柔らかで優しい。それと、とても女子の扱いに慣れている。まあ、かっこいいというよりかは可愛いの部類に入るのだろうが、優しいのと気遣いが上手いのとで女子の間では人気だ。吹雪も気にすることなく女子にはやたら親切なので多分女好きってやつなんだと思う。まるでイタリア男フィディオだ。(フィディオにそれを言ったら心底複雑そうな表情をされたが。) 何故、俺がこうして吹雪の話をしたかと言えば簡単だ。そんな女好きに俺はどうやら惚れているらしいのだ。らしいというのも、ごく最近気付かされたからである。きっと言われなければ俺自身一生この不毛な想いなんか気付かなくて済んだというのに。けれど、それについて相手を責めるつもりは全くない。何せ気付かせた本人はそんな意図はないようであったし、後に俺の恋心を自覚させたことを大層後悔したらしく、半泣きになりながら謝ってきたからだ。まあ、無理もない。外国でどうかは知らないが日本で同性愛といえば異端そのものなのだ。昔よりかは良くはなったらしいが、外国と比べれば雲泥の差ではないかと俺は思う。 兎に角、だ。吹雪を好きだと自覚してからのここ三日間はなんともいえない気持ちでいっぱいである。好きだからつい視線はいくし、無意識に吹雪のことを考えてしまうし。それになにより、女子に嫉妬とか…なんだか自分が情けない。嫉妬したどころで女子に敵う筈ないというのに。というか、吹雪の幸せを思えば女子とくっつくべきであり、俺の恋心は大層邪魔なものなのだ。ああもう。せめてこの気持ちをどうにか出来ればいいのに。 「せめてFFIが早く終わればなぁ」 「どうしたのさ、急に」 隣でアイスを食べていたディランが俺の独り言に首を傾げた。 最近ディランはよく俺の隣に居てくれる。恋心を自覚させた罪悪感があってだろう。まあ、一人だといらぬことまで考えてしまうのと恋心に対し相談できる数少ない友人な為大変有り難かったりする。 「だってさ、そうしたらアイツは故郷に帰るだろうし俺としては諦めがつくだろ?」 会えない距離ではないのだが、東京から北海道は中学生にとって大きい道程だ。余程のことがない限り会えないと言ってもおかしくはないだろう。だから、この世界大会が終わりそれぞれの故郷へ帰れば会えないことで吹雪への熱は冷めると思うのだ。しかしディランは首を傾げた後そうかなぁ、と呟いた。 「会えなければ会えない程恋しくなるんじゃない?」 「まさか」 俺は中学生で、この恋だってディランに言われるまで気付かなかったくらいなのだ。きっと離れれば。月日が経てば。俺は吹雪のことなんか忘れるに違いない。きっと他の、今度は異性を好きになるに違いないのだ。それが良いことであり、正しいことでもある。そう、それが自分にとっても吹雪にとっても良いこと尽くしだ。 「じゃあ、どうしてエンドーは…そんなに泣きそうなのさ」 ディランに言われてハッとする。振り向けばディラン曰く泣きそうな顔をしているらしい俺よりも、悲痛な表情で真っ直ぐ俺を見据えるディランがいた。 「そんなの決まってるだろ」 例え離れたって吹雪を好きでいる気持ちが消えることはないと、俺自身がわかってしまっているからだ。どんなに取り繕ったって意味がないと。ああ、馬鹿だなぁ。なんで、好きになんかなってしまったのだろう。 ごめんと謝るディランに俺は大丈夫だからと告げて空を見上げた。 手放すための代償は何? (だってそうでもしないと、この気持ちが、涙が、零れてしまいそう。) |