意味がわからない。源田は人の身体を跨ぎ嬉しげというか、何やら企んでいますといった笑みをする佐久間にただただ唖然と見つめ返すしか出来ない。というよりは、思考が追い付かないといったところだが。何故こんな状況になったのか。源田は必死に混乱する己を落ち着かせながら佐久間が膝の上に乗っているこの異様な状況を理解しようと記憶を辿る。…そうだ。確か珍しく。本当に珍しく大人しいというか、しおらしい佐久間に元気がないのかと思って声を掛けただけである。そう、普段のようにどうかしたのか、と。いつもの佐久間ならそれに素っ気ない。もしくは上から目線の返事が返ってくる筈なのだが、今日は違った。返事を返さないのだ。普段ならどんなに機嫌が悪くとも返事くらいは返すヤツなので、これは深刻な悩みでもあるのではと顔を覗き込むようにして近寄ったのだ。すると突然胸をドンッと押されたのである。強くなくともいきなりの出来事であったのと顔を覗き込む為屈んでいたのとで足を踏ん張るどころか受け身すら取れず、源田はそのまま床に尻餅を付く形で倒れてしまったのだ。あまりの非道に何をするんだとの意味合いも込めて佐久間の名前を呼ぶ
が、本人はそんなことなど気にも留めるどころか源田が直ぐ様起き上がれないよう膝の上へのし掛かり、こうして今現在に至るわけだが。
源田は経緯を思い出すと未だ退くことをせずただ人の上に乗る佐久間にどうしたものかと息を吐いた。暫く様子を探ろうと真っ直ぐ見据えるも普段と違い笑みを絶やすことのない佐久間に、源田一人が奇行を考えたところで理由の一つも浮かばない。困りに困った末、源田は率直に尋ねることにした。
「一体何がしたいんだ、お前は」
「押し倒そうと思ってな」
「はぁ?」
はぐらかされる。或いは普段の女王様的横暴な態度で小馬鹿にでもされるだろうと思っていた源田は返事が返ってきたことにもだが、返事の内容にも驚いた。いや、これは呆れに近いのかもしれない。何故なら源田からしてみれば、今佐久間の言う押し倒すという欲求はある意味満たされていると思えたからだ。言葉通り押し倒し、しかも膝の上に跨がって起き上がれなくしているのだ。これを押し倒すと言わず何と言うといったところだろう。佐久間も源田の反応から彼が何を言いたいのか察したらしく、にこやかな笑顔のまま付け足した。少し意味が違うと。それに更なる疑問符を浮かべる源田に男にしては少し高めの声で押し殺すよう笑い、ぐいっと鼻先が触れんばかりに顔を近付けたかと思えば佐久間は何の躊躇いもなく、己の唇を源田のそれに重ね合わせたのだ。
「…こういう意味で」
何も言えず、というよりは予想だにしなかった出来事に思考回路が停止した源田を他所に仕掛けた本人は愛らしく小首を傾げて微笑んでみせると、佐久間は再び口付けをした。ただし、先程のような触れ合うだけの可愛らしいものではなく、獣のような。息さえも奪う激しいものであったのだが。
舌が口内に侵入したところで我に返るも時既に遅し。源田の意思などお構い無しに侵入を果たした舌は歯列をなぞり、上側を撫でたかと思えば反射的に怯え引っ込んだ源田の舌を突き、無理矢理絡ませてと内側を好き放題暴れ回った。
行為を中断させたいと思うも、後頭部を佐久間により押さえ込まれているのと、源田の両手により辛うじて上半身を起こしている状態である。押し返そうにも今まで味わったことのない気持ちよさと頭の芯が痺れる感覚に行動を起こすどころか身体を支えるので精一杯の源田ではどうすることも出来ない。ただでさえ息継ぎの仕方がわからず、唇が離れる合間に呼吸をすることしか叶わないというのに。
必死になって何とかやり過ごそうとしているのが伝わったのか。佐久間は下唇を噛むようにして離すと熱を宿した瞳に源田を映した。
「…っな、にするんだっ」
「だから言っただろう」
「許可していない」
「そうか。確かに許可はされてないが…」
漸く肺に酸素が行き渡り満足に呼吸ができるようになると、乱れた息を整えながら酸素不足でくらりとする頭に眉を寄せながらも源田は佐久間を睨み付けた。しかし佐久間は反省するどころか後頭部を押さえていた手をゆっくりと下へ落とし源田の所謂分身ともいえる部分を撫で上げた。
「期待はされているみたいだな?」
心なしか盛り上がっている下半身に源田は信じられないと目を丸くする。そんな反応に笑みをより一層深いものにすると、期待とやらに応えるかのように手をゆっくりと。しかし確実に落とすかのように次なる行動へ移すのだった。







鉄格子の蓋が落ちる。







(気付いた時には遅いのです。)






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