走って走って。兎に角人気のないところへ。もしくは友人のところへと俺はただひたすら走った。学校の廊下だからかたまに走る俺を注意する声が聞こえるが、生憎そんなのを気にする余裕なんてのはない。この足を止めてしまったが最後、俺の大切な何かが奪われる気がするのだ。冗談抜きで。兎に角安全なところまで走り切らなければと必死に校舎の地理を脳内で広げ、次にどうすべきかを考える。そうだ。この先右へ曲がれば鬼道達の教室がある。匿ってもらおうと足を緩めることなく右へ曲がった。しかし、やはり勢いが良すぎたのか。向かいからやってくる人に気付くのが遅れ相手の胸に飛び込む形でぶつかってしまった。 「わっ!ごめん!」 相手の反応が良かったのか、幸いなことにどちらも転倒せずに済んだので、俺は相手の顔も見ずに急いで謝ってその場を離れようとした。しかし、ぶつかった相手は何故か俺の腕を掴み抱き込んだのだ。もしかして、というかやはり謝り方がまずかったのだろうか。目的地まで行けないことに急く心を何とか静め、きちんと謝ろうと顔を上げたところで俺は固まった。いや、固まらざるを得なかったというべきか。何せぶつかった相手は俺が廊下を走る原因となった人物であったのだ。 「せ、とかいちょう」 「守。ヒロト、だろ?もう離さないよ」 内心泣きたい気持ちでいっぱいの俺とは逆にそれはもう嬉しくてたまらないといった感じでこの学校の生徒会長であり、先輩である基山ヒロトが笑った。そう、この生徒会長の所為で俺は毎回ことある事に走らねばならないのだ。 一体何故なのかは全くもってわからないが、どうやら俺はこの生徒会長に気に入られたばっかりに毎日付きまとわれるだけでなく、心身共に果てしなく疲労するという健康上よろしくない状態になってしまっているのだ。この生徒会長、内面はさて置き、外見は少々病弱そうに見えるがとても見目麗しいのだ。(まあ、生徒会全員がそうなのだが。)その為大変女子にモテる。怖いくらいにモテるのだ。友人の中で…というか、俺の友人も結構モテる方なのだが、それの上をいくくらい。そのモテようときたら遠慮したいくらいの凄さだった。何がいいたいかと言えば、大変おモテになる生徒会長がこうして俺を追っかけ回すもんだから女子に敵視されるわで悲惨なのだ。何故に毎回不幸の手紙擬きを下駄箱に入れられなければならない。ああもう、一体俺が何をしたというのだろうか。 それともう一つ。こんなに心労が絶えない原因として、気に入られた方がよろしくない。ただの友愛とかでならいいのだ。正直何の接点もない相手からの好意には戸惑うだろうが、気にはしなかっただろう。けれど…けれど!いくら友人曰く超が付くほどの鈍感といえど理解してしまう程の求愛(しかもセクハラ擬き)を受けねばならないのか。初めて対面した時なんかは思い出したくもないがは、初めてを奪われるわ人前だわで、俺の中では最低な出来事となってしまっている。そんな相手に毎日毎日追われては求愛されるの繰り返しに日々泣きそうだ。こんな毎日やだ。 「そんなに震えてどうしたの?ああ、嬉しいんだね」 人が恐怖で震えているというのに何を勘違いしたのか嬉々とした声でそういうと、生徒会長は更に腕の力を強くした。これは下手をすると何処かに連れ込まれる。そうなったら御仕舞いだ。なんとかそうなる前に切り抜けてきたけれど、今回だって上手くいくとは限らないのだから。 周囲にいる野次馬達に助けを求めるも、皆後が怖いからか。俺と視線が合った瞬間逸らす。くそう。野次馬するくらいなら助けろ。 「ひ…っ」 突然耳に生温い何かに触れられなんとも情けない声を上げてしまった。何事かと視線を上げれば間近には生徒会長の顔。ま、まさか…! 「おま…な、なめっ」 「守はどこを舐めても美味しいね」 じゃなぁぁあああああい!!人前!!人前だからっ!なんてことを羞恥から赤くなる頬をどうすることも出来ず、ただ口を開閉するしか出来ない俺に、生徒会長はよりにもよってキスなんかをするのだった。 毎日がサバイバル (黄色悲鳴をバックにフェードアウト) |