(手ブロで描かないだろう吹雪の心情/出雲パロ/なんか中途半端)



歌舞伎は好き。幼い僕らには歌舞伎の台詞は表現が難しくて、衣装だって重くて暑い。化粧だって大変だ。特に片割れであるアツヤは女形だから僕なんかより尚更だ。けど、どんなに大変でも。どんなに稽古が厳しくても。僕らは歌舞伎が好きだった。だって幼いながらでもお客さんを喜ばすことが出来たのだから。だからアツヤが二人でもっと頑張って上を目指そうって言った時も当たり前のように頷いた。
けど、僕の歌舞伎への思いはあの日、家族を。何よりアツヤを失ったことで変化した。いや、好きな気持ちは変わってない。ただ、もう僕には歌舞伎はやれない。そう思った。だって僕らは二人で一人。アツヤと僕は一心同体だったのだ。僕の立ち役とアツヤの女形でやるからこそ意味があった。きっとお客さんだって僕ら二人を求めているに違いない。そう思ったらもう歌舞伎をやることが出来なくなった。怖くなった。嫌に、なった。ただ純粋な気持ちで歌舞伎を出来なくなってしまった。そんな時だ。守が家にやって来たのは。
アポもなく突然…しかも不法侵入までして来たかと思えば、僕の我が儘に付き合ってくれて。酷いことさせて騙して逃げたのにそれでも僕を探してくれた。吹雪士郎を、守は探してくれたんだ。アツヤでも、吹雪だからでもなく士郎である僕を。
それだけじゃない。歌舞伎から…アツヤとの思い出から逃げていた僕を心配してくれた。諭してくれた。それが、嬉しかったんだ。守はそんなの当たり前のことをしただけだなんて言うのだろうけど、そんな当たり前のことでも僕はとても感謝しているんだ。お蔭で今も歌舞伎をやっていられる。アツヤとの思い出だって…。有難う。守には何度お礼を言ったって足りないくらい。本当に有難う。




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