守は風丸が好きだ。雨の中救いだしてくれたこともそうだが、優しいし暖かい。風丸の側はとってとても居心地がよいのだ。風丸が呼べば喜んで側まで行くくらい守はとても好いている。 しかし、風丸を主人としてとても慕っている守だが、実は風丸よりも好きなものがある。というよりも風丸より優先させてしまうことがあるのだ。 それはそう、今みたいな時だったりする。 「…いいのかい?呼んでるみたいだけど」 「うー…よくない、けど今はいいんだ」 守はふわりと柔らかくてふさふさしたとても触り心地がよい尻尾を抱えながら尻尾の持ち主である風介の背中に身を凭れさせた。とても心地がよいのかそれに顔を擦り付けじゃれ始める始末だ。風介はそれに息を吐くが満更でもないのか対して咎めることなく守の好きにさせている。 そう、守はふわふわもこもこしたモノが好きだったりするのだ。特にてのりペットの尻尾が。最近は風介の尻尾もそうだが、一哉の耳も守の好みらしく二匹と会う度に触ってはじゃれるのだ。なので、只でさえ他のてのりペットが風丸宅にやって来る頻度が多く、守と二人っきりの時間は少ないというのに風介や一哉の場合は些か蔑ろにされてしまうのだ。これは風丸にとって大変面白くないことであり、出来ればこの二匹には守にあまり会いに来てほしくはなかったりする。しかし、そんな風丸も飼い主権限で訪問なり接触禁止令を出すことはない。理由としては守の寂しげな姿はみたくないし、その所為で嫌われるのが嫌だからだ。それに、風介も一哉も大切な友人のペットである。そう蔑ろというか、差別的なことはしたくないというのもあったりする。 「またやってんのか」 守が未だ風介の尻尾にじゃれついていると、後ろから呆れ声が聞こえた。守は風介から身を離し振り返ると、声の主へ向き直り(但し尻尾は掴んだままだ。)嬉しそうに名前を呼んだ。晴矢、と。 名前を呼ばれた晴矢は軽く挨拶を返すと、未だ尻尾に戯れる守によく飽きないよな、と深く息を吐いた。晴矢の溜息など気にならないのか。守は敢えて何も言わず笑顔で頷く。 「だって気持ちいいだろ?スッゲーふさふさしてるんだぜ!」 「そーかよ」 再び深く息を吐くとそれを聞いた風介があからさまに口端をつり上げて笑い羨ましいだろうといった視線を晴矢に向けた。流せばいいものをそう出来ないのか。風介の自慢気と言うべきか、嘲笑っていると言うべきか。晴矢はその態度に苛つき否定すると守の後ろへ腰を下ろした。すると晴矢は守のゆらゆらと揺れる尻尾を掴むと何の断りもなく舌で、手で尻尾の手入れをし始めた。けれど守はそれに対し文句を言うでもなくされるままにしている。守の様子から晴矢がこうして毛繕いするのは一度や二度ではないのだろう。毛繕いが気持ちよいのか、心なしか喉を鳴らす守に風介は面白くなさげに眉を寄せた。 「…守、毛繕いしてくれないかい?」 「なっ!」 文句を言いたげな晴矢を無視して守を見る。守は一瞬驚くも元気よく了承すると慣れない毛繕いを開始するのだった。 私を構って! 三匹のほのぼのと…というよりは二匹のどこか牽制し合う空気にそれを見ていた風介と晴矢の飼い主である基山は二匹の様子に苦笑を浮かべた。 |