どうしたものか。アツヤは膝を枕代わりに眠る守に些か困っていた。というのも、久しぶりに飼い主である吹雪に連れられ風丸宅に遊びに来たのだが、風丸のペットであり遊び相手でもある守はアツヤと対面するなり、挨拶もそこそこに眠いと訴えたかと思えばアツヤ目掛けて倒れてきたのだ。突然のことに対応出来ず何とか受け止めたものの守の倒れる勢いがよかったのか。はたまたアツヤの踏ん張りが甘かったのか。上手く堪えることが出来ず守を抱えたまま後ろへ倒れるように尻餅を付く羽目になってしまった。しかし守はそれすら気にならない程眠いのか。然して何も言わず、寧ろ寝心地よいアツヤの膝へ頭がいくように移動するとそのまま眠ってしまったのだ。一連の守の行動に呆気にとられてしまったアツヤはただただされるがままの状態となり、守の寝息に漸く我に返ったのである。
「…気持ちよさそうに寝やがって」
我に返ったはいいが、正直アツヤはいまの状況に冒頭でも述べたが困っていた。何せ少なからず想いを寄せている相手との密着。例え枕代わりであろうと心臓が高鳴るのは仕方のないことであろう。それに、遊びに来たアツヤからすれば今の状況は些か退屈であったりするのだ。例え好意を寄せる相手と密着しているとはいえ、まだまだ子供。遊びたい盛りなのである。けれど、気持ちよさげに眠る守を起こす気にもなれず、アツヤは溜息を吐くとただされるがままになることにした。





「あれ?」
暫くして。風丸宅に新たな人間とてのりペットがやってきた。土門のてのりペットである一哉は久しぶりに守と遊べるとあって意気揚々にやって来たのだが、一哉がやってきたというのに一向に動く気配のない二匹に首を傾げた。何せてのりペットは普通の人間より何事にも敏感なのだ。気配を消したわけでもないのに気付かないのはおかしいのである。一哉は不思議に思いながらも二匹に声を掛けようとしたところでそれを止めた。
何せ守とアツヤの二匹は仲良く夢の中へ旅立っているようなのだ。あまりの気持ちよさそうな寝顔に起こすのを躊躇われるくらいの。一哉は少し考えた後、まあいいか。と呟くとテーブルに胡座をかくように腰掛け、膝を枕として提供しながら器用に眠るアツヤの背を借り凭れるとゆっくりと瞼を閉じた。
それに気付いたのか。はたまた無意識なのか。一哉のお腹辺りに乗せられた掛け布団代わりの尻尾に、どことなくアツヤの優しさを感じ、嬉しいような。擽ったいような。一哉は夢の中へ旅立つ手間頬を緩め、眠っている二匹に呟いた。
「おやすみ」





目の前では仲良く眠る三匹。どういう経緯でこうなったのかわからないが、単体で遊びに来た風介は起こすでも声を掛けるでもなくアツヤの横へ座ると肩を枕代わりに乗せると部屋は暖房で暖かいとはいえ、視覚的になんだか寒そうな守の為にと自分の尻尾を守の身体へと乗せることにした。
「たまにはこういうのもいいね」
どうせこの後晴矢も来るのだ。それまではこうしてこの三匹と一緒に眠ったって構わないだろう。透くように守の髪を撫でながらその目を閉じた。
ああ、今ならきっとぐっすり眠れる。そんな気がした。





晴矢は溜息を吐いた。いや、溜息しか出なかった。守のところへ遊びに行ったらしい風介を追いかけてやってきてみれば、である。
すやすやと寝息を立て眠る姿は大変微笑ましくあるのだが、どうせなら掛け布団でも掛けて身体を冷やさないようにすればいいのにと思うのだ。一部尻尾やてのりペットの体温で賄っている者もいるが。晴矢は溜息を吐きながら渋々といった表情で吹雪から借りたハンカチを小さいながらも懸命に四匹へ掛けてやった。
「風邪引くなよ」
聞いてはいないのを承知で四匹に向かって告げると躊躇いがないわけではないが、一哉の肩を借りることにした。たまにはこうやって五匹仲良く眠るのもいいだろう。そんな言い訳をしながらハンカチを自分の方へと引っ張った。





たまには一緒にどうですか?






「…あれ?」
その後一番に目を覚ました守はいつのまに増えたのか。仲良く眠る四匹になんだか心が暖かくなった。




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