俺には弟的な存在がいる。近所に住んでいる双子で、小さくて可愛い。それに俺と同じでサッカーが好きらしく、暇な時は三入で仲良くサッカーボールを蹴り合ったりしていたくらいだ。そんな双子は何故か俺に大変なついてくれているらしく、学校の帰りなんか小学校と中学校とでは終わる時間帯が違うのにも関わらずわざわざ家の前で待っていてくれる程だったりする。そんな双子が可愛くて仕方ない俺は部活以外の殆んどの誘いを断り双子の為にと出来うる限り時間を尽くしたものだ。 しかし、やはりというか。双子にも(特に弟の方は)反抗期と言うものはあるらしく、双子が小学校五、六年辺りになると昔程なついてはくれず頻繁に遊ぶことはなくなっていった。それに加え俺の高校受験という勉強漬けの毎日となってしまった頃には全くと言ってよい程双子と会うことはなくなってしまったのだ。 そして、今日。高校に無事進学し晴れて高校生になりそれなりに学校生活に慣れ始めた頃それはやってきた。 正直目まぐるしい日常の変化にすっかり双子のことなど忘れていたのだが。なんというか、これはないと思う。成長することは人として当たり前であり避けられないものではあるし、寧ろ弟的存在だったのだからとても嬉しいし喜ばしい。そう、嬉しくもあり喜ばしい筈、なのだが。限度というのがあると思うのだ俺は。例えば今、目の前に片や爽やかな笑みを浮かべ、片や不機嫌そうな表情で玄関口に立つ、些か身長が高い中学生とか。…久しぶりに会った双子に嬉しさよりも身長的な意味で妬ましさしか沸き起こらなかったのは仕方がないのだと言いたい。 おかしいな。昔は俺より小さくて、抱き上げることだって出来たのに。今ではその逆になりそうで怖い。何も言えずただ立ち尽くすしかない俺をどう思ったのかはわからないが、あの小さくて可愛いかった面影などどこへやら。どこぞのアイドルかといいたいような顔立ちで驚いた?なんて無邪気に訊いてきた。 うん、驚いた。身長的な意味で物凄く驚いた。俺が中学校の時なんかまだ少し、勝ってた筈なのに。…なんてなけ無しの矜持から言えるわけもなく、けれど驚いていることは事実であるので頷くに留まった。双子の兄は俺の反応に満足したのか、笑みを深くした。因みに同性である俺でさえ思わず赤面してしまう程の威力だったりする。これは恋愛というものの経験値が皆無だからだと思いたい。弟的存在に赤面って。居たたまれないにも程がある。何だか悪いことをした気分だ。けれど真っ赤な俺に双子は気持ち悪がることもせず、兄なんかは俺に近寄るとぎゅっと手を握ってきた。 「あはは、守ってば真っ赤にしちゃって…可愛いね」 なんてこった!あんなに純粋で素直で可愛かった兄はタラシのような台詞を吐くようになるなんて。大問題である。この台詞から、女の子の扱いに慣れまくっていることがわかるのが残念でならない。きっと俺なんかより恋愛経験を積んでいそうだ。いや、確実に。 ああもう!兄ちゃんはそんな子に育てた覚えはありません!と大声で言いたい。というか、そんなこと言われても嬉しくない。けれど、俺の内心なんて伝わるわけもないので双子の兄は気にせず俺の手を握ったまま顔を近付けてきた。…次はなんだ?なんかやけに近付けるんだな。 「っ!兄ちゃんッ!」 弟の非難の声に我に返る。綺麗な顔立ちにぼんやりとしてしまったが、今のって。今のって…っ!! 「やだなぁ。たかだか頬っぺたじゃない」 「頬っぺたでも!つかいつまで握ってるんだよ!」 言い争う、というよりは弟が一方的に噛みついているだけなのだが。俺は何がなんだかわからなくて、恐らく口付けされたであろう頬を押さえることしか出来なかった。 色んな意味で成長したのだと、この時改めて実感した。ああ、なんだかこれから平穏な日常を送れない気がするのは気のせいだと思いたい。 神よ!俺が何をした! (これからは途中まで一緒に行こうね。) (帰りも迎えに行ってやるからさ。) (…え?いらない。) |