しとしとしと。雨が程よく降っている。学校の帰り道、気の知れた友人と共に家路を歩く。ああ、これじゃあ明日も部活出来ないのかな。なんていうぼやきを上の空で聞いていた。俺からすれば別に部活出来ようが出来まいがどうでもいいのだが。部活が、というかサッカーが好きなこの友人達にとってはなんとも面白くない天気なのだろう。まあ、俺だって広いグラウンドを走り回りたいがこいつら程部活バカではないのだ。けど、雨ばかりでは身体は鈍りそうで。それだけは御免被りたい。と、何気無く考えていたら青系の色をしたゴミ箱の蓋の上に何やら箱が置いてあるのが見えた。箱は小さめで、女子が好みそうな可愛らしい感じだったものだから、ゴミ箱との不釣り合い具合に思わず視線がそちらへ向かう。
一体何が入っているのだろうか。箱には蓋がないのか、中身が丸見えのまま置かれていたので何気無しに通過の際然り気無く箱の中身へ視線を向けたところで俺は固まった。
俺の異変に気付いたのか、友人達が何か声を掛けているのがわかるが、俺の意識は既に箱の中身へ注がれていて返すどころではなかったのだ。酷い。そんな一言が漏れた。小さい呟きだった筈なのにそれを聞き取ったらしい友人の一人である吹雪が箱を覗き込んだ。
「……捨てられちゃったんだね」
箱の中身を見た吹雪の一言に残酷だと思った。けれど、事実だ。どれ程残酷な言葉ではあれ、事実なのだ。同じくいつの間にか箱の中身を見たらしい土門がどうするんだ。と尋ねてきた。多分、俺に。俺が、酷いと言ったからだろう。酷いと思ってそれを口にしたからには、立ち止まったからには無責任なことはするな、ということなのかもしれない。確かに。騒ぐだけ騒いで見捨てるなんて子供のすることだ。それに、もしそうしたのならば俺はとてつもなく無責任で最低なヤツに成り下がってしまうのだろう。実際、土門はそこまで思ってどうするのか訊いたわけではないのかもしれない。けれど、俺自身がどうにかしてやりたいと思った。
いくら降りが弱いといってもこんな天気の中、きっと長時間雨にされされていたのだろう。箱の中身である小さな小さな生き物は申し訳ない程度の布切れにくるまり必死で耐えている。寒さと冷たさで体温が奪われたのか小刻みに身体を震わせながらも懸命に生きようとしているのだ。そんな姿に、助けてやりたくて。守ってやりたくて。親の保護下にいる身分のくせに、それでも目の前の生に対して必死な姿に。俺ばどうしようもなく愛しさが込み上げてきたのだ。多分衝動的なものであるし、俺の勝手な思いだ。ただの偽善行為と言われればそれまでなのかもしれない。今助けたって、結局は手離すはめになるのかもしれない。それでも思ったんだ。なんて、愛しいのだろうと。これから親と討論が待ち構えているのかもしれない。けれど、そんなこと気にならないくらい俺はこの生き物を助けてやりたいと。心から思ったんだ。
「いいのか。手を差しのべるってことは最後まで責任をとるってことなんだぞ」
土門の諭すような言葉に。その真剣さに頷くと、俺は未だ身体を震わせている生き物をそっと抱き上げた。
「……何がなんでも説得する」
「いいの?怒られるかもしれないよ?保健所行きになるかも」
「ならない。…いや、させない」
決めたんだ。コイツを守るって。そう自分に言い聞かせるように呟くと、俺の決意が伝わったのか。はたまたただの気紛れだったのか。手のひらに収まる程の生き物は僅かに俺の親指にすり寄った。
それがなんとも微笑ましくて。これからもしかしたら親と討論になるかもしれないのに。でも、あまりにも愛らしくて頬が緩む。友人二人はそんな俺に溜息のような。でも、どこか嬉しげに揃って息を吐くと、しょうがないと呟いた。
「コイツの為にも一緒に頼んでやるよ、親御さんに」
「このままじゃ可哀想だもからね」
なんだか二人が頼もしくて。なんとかなりそうな気がして。俺は胸の内が暖かくなるのを感じながら二人に感謝を述べたのだった。




ある、雨の日の決意。




因みにこの後二人の説得もあってか、後に守と名付けられることなった生き物に両親は家で飼うことを了承してくれた。最初は渋ってた母なんて今では守にメロメロだ。




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