これ設定



確かに言った。そんなに言うなら自分がやれと。けれどそれは逃れる為であって冗談なのだ。本気で言ったわけではない。けれどもそんな俺の心情など何のその。目の前の人物はまさにイケメンと称するに値する容姿だというのに、その全てを台無しにする行為をしている。いや、容姿が良すぎて似合ってはいるのだが、多分女子の夢だとかそういった類いを台無しにはしているだろう。何せ黙っていれば綺麗とかかっこいい部類に入るのに、この学校の生徒会会長は頭に所謂猫耳たるものを着用しているのだ。男が、である。しかも高校生であり、俺より一つだが年上であるというのに、にゃあにゃあと猫の鳴き真似までしているのだ。そんな会長を前に普段なら逃げるとかツッコミを入れるとかする筈なのに、あまりの光景にただただ呆けるしか出来ない。そんな俺をどう解釈したのかはわからないが、俺がサバイバルとも言えるような学生生活を送らざるをえなくなった原因である会長はにっこりと笑顔(反射的に俺の背筋に悪寒が走ったのはいうまでもないだろう。)で満足かと聞いてきた。
「えっと…何が、ですか?」
「ん?これ。してほしかったんだよね」
でも俺としては守にしてほしかったな、という会長に頭痛がした。頭痛とは勉学の時にしか訪れないものだと思っていたが、どうやら違うらしい。些か現実逃避をしていたら、勢い良く教室のドアが開いた。
「おい!!仕事サボって何してんだアンタッッ」
教室にやって来た人物──現生徒会会計である南雲晴矢はドアを開けると同時に声を張り上げ、会長に詰め寄る。しかし会長は南雲を気にすることなく…いや、視線は俺に向けたまま無視を決め込んでいるようだ。毎回思うが会長のこの図太さは凄いと思う。色々な意味で。内心感心していると痺れを切らしたらしい南雲はどすんと地響きがするのではと思う程足を鳴らせ此方へ近付いてきた。ああ、何だか厄介なことになりそうだ。減なりしながら取り敢えず傍観を決め込むことにした俺はちらりと横目で南雲を見た。目をつり上げ鬼のような形相は距離を置きたいと思ってしまう程である。これは相当頭に来ているようだ。まさに障らぬ神に祟りなし、である。しかし、そんな南雲を気にするでもなく寧ろあきれ果てた様子で溜息を吐く会長は漸く視線を南雲へ向けた。
「後でやるよ。今凄く大事な時間なんだから何処かに行ってくれる?」
煩わしいと言わんばかりの言葉に普段から低い沸点が沸いたようだ。南雲は肩をプルプルと怒りで震わせると顔を勢い良く上げた。流石にマズイ…というよりは、これ以上放って置くと周囲と教室が大惨事になりかねない為会長関連では大変重い腰を上げることにした。いや、俺としては関わりたくはないのだがこのまま放置すると何故か俺も説教されるのだ。理不尽にも。それに何より、無関係な生徒に被害が及ぶのは避けたい。幾らこんな状況になっても助け船さえ出さない薄情なクラスメートでも良心は痛むので。
喧嘩になりそうな(しかも殴り合いの)二人を止めるべく、俺は口を開いた。しかし、後に後悔することになるのだが。
「ストップ!南雲も会長も落ち着けって!」
声を張り上げ制止の言葉を掛けるとピタリと南雲は止まった。不満そうに文句は垂れるがまあ良しとする。しかし会長は何故か俯くと先程の南雲のように肩を震わせ始める。雰囲気というか発するオーラとでも言うべきなのか。なんだかそれが黒く見える気がするのは何故だろう。ついでに言うとなんだかろくなことが起こらない気がする。
ここから離れろと訴えてくる本能に従い、慌てて立ち上がるも時既に遅し。俺の腕を掴んだ会長が呟いた。どうして、と。何がどうしてなのか。背かを流れる汗にああ俺って怯えてるんだと他人事のように考えながらただただ会長へ視線を向ける。
「なんで晴矢は名前なの?俺は役員名なのに。俺の方が守と一緒にいるのに」
そんなどうでもいいことを。しかし会長には重大なのか、顔を上げるとキッと南雲を睨み付けた。ああもう早く終わんないかなー。早く帰りたい。風丸来ないかなぁ。なんてあまりのくだらなさに現実逃避をしていると南雲が俺の肩に腕を回して抱き寄せた。
「そりゃ、アンタより親密な関係だからだろ?」
いつからなった。どう親密なんだと言いたいことはあるが黙っていると会長は今にも泣き出しそうに瞳を潤ませ(男がしても可愛くもなんともないが。)俺を見た。あ、れ?何故だろう。目の前の会長の様子が気持ち悪いとかでなく別の理由で冷や汗が…。
「酷い!ま、守とは抱き締めあったりキスしたり、下半身だって見せ合った中なのに!」
「ぎぃやぁぁぁぁあああああッ!変な言い掛かりはやめろーっ」
「円堂、お前…」
抱き寄せた腕を離し距離を置こうとする南雲に必死で否定していると会長は「守の浮気者ー!俺との愛の契りは遊びだったんだなんて!」と泣きながら走り去って行った。勿論頭の猫耳はそのままに、である。そんな問題発言をしてくれたはた迷惑な会長を止めようにも南雲に訂正するのでいっぱいいっぱいな俺は見送ると入れ違いで教室へやってきた風丸の憐れみやどこか勘違いしまくりのなんともいえない表情を目の当たりにし、泣きたくなったのは言うまでもないだろう。







違うんです!





(癒しが欲しい。)






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