※BADENDです。誰も報われません。



「俺は嫌いだ。悪いけど考えられないし、気持ち悪い」
その言葉を聞いた瞬間目の前が真っ暗になった気がした。



ぐずぐずと、珍しく幼子のように膝を抱えて泣きじゃくる腐れ縁に南雲は盛大に溜息を吐いた。メンドクサイというのが正直な感想なのだが、この場を去ろうにも器用に人の上着を強く握る手にそれも出来ない。いや、無理矢理引き剥がすことは可能なのだが、今の状態の腐れ縁──基、ヒロトにそんな薄情なことは出来なかったともいえる。ああ、だからもう一人の腐れ縁に人が良すぎるとか言われるのだろうか。
取り敢えず、このままの状態に疲れた南雲は(何せ小一時間程続いているのだ。)ヒロトに理由を聞くことにした。どうしたんだ、と。するとヒロトは一旦泣くのを止めたかと思えば先程より大きな声でわんわん泣き出した。まるで自分が泣かせたみたいな泣き方に慌てた南雲は必死に声を掛ける。おい、だの。何があっただの。しかしあまり効果はなく、泣き続けるヒロトに南雲が根を上げた。
「だあっ!もー何があったってんだっ」
そんな叫びが届いたのか、漸くヒロトは声を抑えるとしゃっくりでつっかえながらも理由を告げた。
「きら、われたぁ」
「誰に」
「えん…っ円堂くん、にぃっ、うぇっ」
「はぁ?」
何のことかさっぱりわからない南雲は首捻った。あの円堂に嫌われた?寧ろどうやって。いや、何を仕出かしたと言いたい。というか、円堂がヒロトを嫌うなんて有り得ないのだが。
幾つもの疑問符に首を傾げるしかないが、念のため何があったのか聞くことにした。この時の南雲はどうせヒロトの勘違いとか、円堂の言い方が悪かったのだろうと思ったからだ。実際は違うのだが、そんなの知るよしもない南雲は面倒臭そうに理由を問い掛けた。
するとヒロトは泣くのを止め、黙り込む。心なしか上着を握る手が震えている。それでもその理由を知らない南雲は残酷にも、答えるよう促した。
「……した」
「は?なんて?」
「っから!告白、したんだよ!えっ円堂くんにっ」
そう叫ぶようにして答えると、ヒロトは早口で事の理由を語りだした。
円堂に告白したこと。愛しているのだと。恋愛的意味で好きなのだと伝えたこと。そして、円堂が気持ち悪いと拒んだことを。南雲はヒロトの口から聞かされる出来事に頭が真っ白になった。いや、正確には脳が受け付けるのを拒否した。そんなのは嘘だと。間違いだと。だから南雲は思わず叫び返してしまった。「そんな筈ない!」と。
「そんな、筈ない?はは…じゃあ何?どうして?ど、して?あんな…汚いものを見るような目で俺を見たの?どうしてんな言葉を…それも気持ち悪いなんてッ」
「そ、れはっ!」
円堂も、ヒロトを好いて…多分、恋愛的意味で好いていたと気付いていたからだ。何故気付いていたかといえば、南雲自身円堂をとても愛していたから。だからこそ、気付いたし、気付いてしまった。だから、南雲にはヒロトの言葉が信じられなかった。あんなに愛しいそうに、切な気にヒロトを見ていた円堂を知っているからこそ、信じられるわけがなかった。けれど、そんなことを今更言えない。言えるわけがない。言ったところでヒロトに信じてもらえるわけがないし、余計傷付けるだけだと理解したからだ。
南雲は賢明にも出かかった言葉を呑み込むと一言、悪かったと小さく呟くとそれ以上何も言わず、ただただ隣で再び涙を流すヒロトの悲痛な叫びにも似た泣き声を黙って聞いた。








それでも好きなのだと、彼は言った。











(どんな気持ちで、どんな想いで、彼は───)





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