今日は2月12日。特別なにかあるわけではない。但し、これは日本男児がであって女子は別なのだろう。何せ後二日もすれば女子にとって大イベントとも言えるバレンタインデーが待っているのだから。まあ、男の、しかもモテない部類に入る俺からしてみればあまり関係のない日なのだが。そして何をどうやったのかは知らないが、学校の調理室を占拠しているこの友人である吹雪も当日までは全くもって関係のない日の筈だ。しかし何故だか、吹雪は市販のチョコレートを小さな鍋で溶かしているのだ。男である吹雪には全く縁のないことではないのではと俺は思っていたりする。まあ、世の中には逆チョコとかいうものをする輩もいるのだとは思うが。
「別に作んなくたっていいんじゃねぇか?」
「ダメ。妥協は許されないんだよ、染岡くん」
ヘラで焦がさないよう丁寧に混ぜてはいるが、表情というか醸し出す雰囲気はこれから死闘が待っているかのような気迫である。女子が騒ぐ雪原の王子様とやらはどこへいった。なんだか臨戦態勢…若しくは獲物を虎視眈々と狙う狼の様に感じるのだが。なんていうか、正直後のことを考えると怖い。
誤解の無いように言っておくが、別に俺に害がどうのという意味でではない。これを受け取ることになるであろう俺達のキャプテンである円堂を思って、だ。まるで目的の為ならば何か盛らんとするような勢いの吹雪に同情とか憐れみを感じる。只でさえ男女問わず好かれるのだ。それが俺みたいな友愛ならばまだいい。人望が厚いのだとの一言で括れよう。しかし、うちのキャプテンである円堂は喜ぶべきか悲しむべきか、男女問わず恋愛対象としても好かれているのだ。女子というか、女運は割りと良いらしく俺が知るなかでは大半が、まともであり見た目だって可愛らしい部類に円堂は好かれている。けれども問題は男だ。これまた見た目がいい奴らが多いのだが、中身が大変残念な結果というか個性的過ぎるのだ。下手をすると変た…いや、よそしておこう。兎に角、こと男運となると残念ながら壊滅的に悪いらしく、変なヤツに好かれやすいようなのだ。まともなヤツなんて数える程しかいないのではないかと思う程。何せ普段は王子様と持て囃されている吹雪だってその部類に入ると俺は思っている。変…ではなく、危ないヤツとまではいかないがまとも(同性を好きな時
点でまともと称せない気もするが。)ではないだろう。何がどうまともでないかは語るにつれ友人であることに疑問を感じそうなのでやめて置くが。
ここまでぐだぐだ語ったが、要は円堂の倍率がとてつもなく高いのである。その為か手段を選ばないヤツが多いのだ。悲しいことに。毎回円堂の幼馴染みである風丸が発狂するわ、クラスや学年どころか神出鬼没な他校生もいるわで大変なのである。俺自身も何故か周りのヤツらから円堂の父親的存在と認識されてしまっているらしく色々迷惑を被っている身なのだが、今回はそんなことどうでもいいだろう。兎に角誰これ構わず好かれているせいで円堂を射止めるのは大変なのだ。それに円堂自身わざとかと思う程鈍感なのも困難な要因の一つだったりする。多分吹雪もそれをわかっていて何かしろ円堂にアプローチすべくこうして女子のようにチョコ作りに勤しんでいるのだろう。ご苦労なこった。勿論、吹雪と円堂がである。
手際よい様を何かするでもなく眺めていると、吹雪が鞄から何やら怪しげな容器を取り出した。いや、訂正しよう。特に怪しい容器ではない。しかし、俺の勘が訴えるのだ。あれは危険だと。多分悲しいことに当たっているだろうが色んな意味で怖くて聞けない俺は大人しく様子を窺うことにした。本当に危ないようなら止めるつもりで見ていると、吹雪は溶かしているチョコに容器に入っていた無色の液体を投入した。少々粘り気がある気がするが気のせいと思うことにする。吹雪は俺の視線を気にすることなく液体を投入すると何やら呪文を唱え始めた。…………んん?呪文?
「おい、なんだそれ」
「何って…恋のおまじない?」
恋?恋にしては何やら物騒な単語が幾つか聞こえた気がしたのだが?そう視線で訴えるも吹雪はにこりと笑みを浮かべるだけで然して何も言わず再び呪文を口にし出す。その様子に俺はただ、吹雪の恋を応援すべきか。それとも円堂に危険を伝えるべきかと悩むのだった。









お呪いもほどほどに











(当日が楽しみだね)
(…お前だけな)







バレンタインお題
配布元fisika



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