面白いことになっているな、というのが感想だ。何せ普段無表情、冷静、冷徹などとして知られる風介が全くの真逆に位置する晴矢に可愛くラッピングされたハート型の包みを差し出しているのだ。全くそんなキャラではないというのに、だ。それにお互い同性同士というのも面白いが何より二人の雰囲気が大変興味深いと思う。何せ行為としては赤面するなりときめかせるなりする場面であるというのに、いくら男同士とはいえど今まさに殴り合いの喧嘩を始めそうな雰囲気というか勢いというのはどうだろうか。こういう場面としてはせめて嫌悪感を露にしたり、罵詈雑言を浴びせたりとかではないのだろうかと思うのだ。どこぞの不良の如く焼きを入れようとする雰囲気を醸し出すのは如何なものか。特に包みを差し出している風介は赤面するなり恥じらいをするべきであろう、せめて。まあ、普段の性格からしてあり得はしないのだが。それに、何故だろう。気のせいなのだろうが、二人の背後に龍と虎が睨み合っているようだ。行動とあまりにちぐはぐ過ぎて笑える。 一応2月14日と言えば秘めたる恋心を伝える日だというのにこの状況とは。一体どうなるのやら。結末が気になってただ一人有意義に観察を続けることにした。 「なんだよ」 暫く互いに(とはいえ、風介は無表情のままなので晴矢が一方的になのだが。)無言で睨み合っていると些か緊迫した空気に気まずいとでも思ったのか、晴矢が先に口を開いた。勿論、睨み付けるのたままで。それに対し風介は晴矢の態度に気にするでもなく「私に渡せ」と告げた。一体何を?である。晴矢も俺と同じように思ったらしく怪訝そうな表情で風介を見た。 「は?自分が言ってることわかってんのか?」 「国語の成績がお粗末なお前と一緒にするな」 如何にもこれだからお前は。とでも言っているような風介の態度に晴矢の短い堪忍袋の緒が切れた音を聞いた気がした。しかし慣れた…いや、風介の場合我関せずの精神からかそんなことを気に留めることなく尚も包みを受け取れと言わんばかりに晴矢に向ける。二人のというか晴矢の様子からこのままいけば間違いなく乱闘になるだろう。敢えて放置するのも面白そうだが、その場合絶対と言って良い程後々止めに入らなかった俺が小言を喰らう羽目になるので渋々口を挟むことにする。 「風介、渡せって何を渡せばいいんだい?」 「簡単だ。コイツがこれを受け取り私に渡せばいい」 「ハァ?何でンなことしなきゃなんねぇんだ」 確かに。俺の解釈が間違っていなければ、風介のしたいことは無意味ではないのだろうか。何故一度晴矢が風介から包みを受け取り、それを風介に返さねばならないのか。一体何がしたいのだろうかこの昔馴染みは。俺と晴矢の二人で疑問符を頭に浮かべていると、言いたいことが伝わったのか風介はこれでもかと深く溜息を疑問に対する答えを告げた。 「全く…今日は何の日だ?」 「えっと、2月14日。次いでにいうとバレンタインデーかな」 「何をする日だ?」 「一般的に日本では意中の相手にチョコレートを渡す日」 「そうだ。しかし晴矢からのチョコは望めない」 「当たり前だ」 「しかし私は晴矢からチョコが欲しい。ならばするべきことは一つ」 相手に持参したチョコレートを渡してもらえばよい。自信満々。堂々と口にする様は、まるで名案だろうとでも言いたげだ。そんな風介に呆れを通り越して哀れというべきなのか…天晴れというべきなのか。開いた口が塞がらない。まさにそんな言葉がピッタリな心境の俺と晴矢を何のその。風介は押し付けるようにして包みを晴矢に渡した。 「さぁ、私に寄越せ」 その一言に晴矢は肩を震わせたかと思えば、ハート型の包みをバキッと綺麗な音が聞こえるくらい真っ二つに折り曲げたわけなのだが。その時の風介の表情といったら!…まあ、珍しい表情云々よりも結局乱闘になり辺り一面破壊し尽くしたものだから最終的には何故か俺一人小言という名の説教をされてしまったりする。改めて理不尽さを実感したバレンタインデーだった。 なにも真っ二つに割らなくても (何をする!それを完成させるのに丸三日も掛かったんだぞ?!) (知るか!ってかいっぺんしねッ) (…それだけ頑張ったなら普通に渡せばいいのに) バレンタインお題 配布元fisika |