円堂を好きだと気付いたのはいつだったか。俺は隣を歩く円堂にふと、そんなことを考えた。自覚したのは、確かそう、アジア戦で再会し負けた時だ。アジア戦は全力。それこそ己の力の限りを尽くして戦ったので悔いはない。けれど、やはり悔しくはあったらしく、泣いてしまったのだ。勿論、男としてのプライドの為一人で物陰に隠れてひっそりと。それも声を押し殺して、だが。誰にも情けない姿を見られたくなくて。けれども悔しさで溢れる涙は止められなくて。小さな嗚咽を時折漏らしながら泣いていたら、何故かそこへ円堂がやって来たのだ。偶然通りかかっただけなのか、最初はそんな俺に驚き目を丸くしていたが、嗚咽混じりの「笑いたきゃ笑え」との言葉に円堂は何も言わず隣に寄り添うよう座った。その時の俺はそんな円堂の行動に気にかけるどころか、泣き顔なんてみっともない姿を見られたくない一心で「あっちへ行け!」と拒絶の言葉を投げ付けることしかしなかった。他にも酷いことを言ったのに、円堂はいなくなったりせずに側にいてくれたのだ。
「お前なんか嫌いだ」
それでも、当時の俺はそんな円堂なりの優しさなんか気付きもせずに相も変わらす拒絶しかしなかったが。けれど、円堂は気にすることなく、この時初めて俺の拒絶に「俺は好きだけどな」と言葉を返した。驚きと何を言ってるんだと些か変人でも見るような視線を向ければ、円堂は「やっと目が合った」と笑って髪をぐしゃぐしゃにでもするかのように俺の頭を撫でた。
たったそれだけ。ただ泣く俺の側にいてくれた、それだけだ。特にときめくような展開があったわけでもない。けれど、たったそれだけの出来事が俺にはとても嬉しくあり、その時の円堂の笑顔が俺には何ものにも代えがたい綺麗なものに見えたのだ。恋心と言えないのかもしれない。しかし俺は、確かにあの瞬間、円堂守という人間に魅入られたのだ。

それからというもの、俺はやたらと円堂が気になって仕方がない。気付いた当初は気のせいだと思うことにしたし、どうせ円堂達は世界へ行くのだ。気の迷いと忘れるだろうとも思った。しかし、喜ぶべきか悲しむべきか。涼野、アフロディと共に引き抜かれてしまえば気の迷いという括りなんかでこの気持は誤魔化せなくなってしまったが。今だって円堂が隣を歩いているというだけで胸が高鳴って仕方がないのだ。しかし、この高揚感も残り後僅か。もう少しすればこの世界大会も終わってしまう。そうなれば円堂とこうして歩くことだって。それどころか会うことだって困難になってしまうのだろう。それはとても寂しい。
どうしてもっと一緒にいられないのか。寧ろ何故自分は円堂と同じ雷門中学ではないのか。そんなどうしようもない考えばかりが浮かんだ。もしも、なんて考えたところで意味などありはしないというのに。…ああ、一体自分はいつからこんなに女々しくなってしまったのか。未練がましい己の思考回路に情けなく思う。こんなに先のことをぐだぐだ考えるくらいならどこぞのイタリア人やアメリカ人のようにスキンシップなりアピールしろと言いたい。まあ、出来ないからこそ、こうしてぐだぐだと悩んでいるわけなのだが。
「南雲…?」
一人悶々と考え込み過ぎたのか、いつの間にやら立ち尽くしていたらしく、俺は円堂の声にハッとした。慌てて意識を円堂へと向ければ、当の本人はあからさまに心配そうな表情で俺を覗き込んでいた。え?覗き込んで…?
「うぉあッ!」
と、そこで円堂との距離が近いことに気付き、照れと驚きで情けなくも奇声を発した俺に今度は円堂が驚いたらしく、声を上げて一歩離れた。
「どうしたんだよ、急に」
「べっ別に何でもねぇ!」
「何でもないって…まあ、いいけどさ。それより………その、ちゃんと聞いてたのか?」
何処と無く聞きづらそうに問いかけてくる円堂に、俺は心音が相手に聞こえるのではないかと思う程ばくばく鳴る心臓を抑えるかの如く胸元のジャージを握り締めながら正直に首を横に振る。というか、俺は円堂の話が耳に入らない程考え込んでいたのだろうか。なんと間抜けな。情けなさより恥ずかしさが込み上げる。
円堂はそんな俺に残念なような。けれどどこか安心したような様子で「そうか」と答えた。その様子が何だか気になって尋ねるも、何でもないと再び歩き出す。それに慌てて追うように俺も足を動かした。何故だろう。どうしてだか普段と違い、円堂は落ち着きがないように見える。珍しい円堂の様子に内心首を捻りながら取り敢えず会話でもと口を開いた。
「もうすぐ大会も終わるな」
「そうだな」
「お前と同じチームで戦うのも後少しで終わると思うと清々するぜ」
しかし、直ぐに口を開いたことを後悔した。ああもう!どうしてこうも自分はひねくれているのか。素直じゃないとかのレベルではない。好意を抱いている相手に悪印象を与えるような発言をするなんて愚かにも程がある。けれど、そんな後悔など後の祭だ。つい、とはいえ既に口に出してしまったし、撤回しようにも己の性格から出来るわけもない。どうしようかと焦っていたら思わぬ言葉が返ってきた。
「俺は寂しいかな。…もっと南雲といたいし」
円堂の発言に嬉しさが込み上げるが、どうせサッカー絡みであろう。それに、俺個人だけではなくイナズマジャパンにスカウトされた選手達も含まれているに違いない。だが、そうとわかってはいても嬉しいことに変わりはないらしく、緩みそうになる頬に内心溜息を吐く。惚れた弱味というヤツなのか。円堂の言葉一つで浮かれるなんて俺もめでたい頭をしているもんだと思う。でも自分だけが浮かれているなんてなんだか悔しい為、円堂には特に気にしてないといった態度を装い、素っ気ない返事を返したが。すると円堂は何故か俯きがちに立ち止まってしまった。一体どうしたというのか。円堂らしくない様子に心配になり声を掛けると、普段の元気な様子はどこへやら。弱々しい声で俺の名前を呼んだ。
「あのさ、南雲さ、俺と一緒にいるのってつまんないって思ってる?」
「んなわけ」
「俺は、もっと南雲といたい」
「円堂…?」
正直反応に困った。これは、なんだ?俺がおかしいのだろうか。今の円堂はまるで、俺と同じように想っているように見える。いや、そんなまさか。どう捉えるべきなのか。ぐるぐると上手く回らない頭で必死に状況を理解しようとしていたら円堂が勢いよく顔を上げた。頬をこれでもかと真っ赤にさせて、真っ直ぐ、俺を見据えて唇を動かす。
「好きだ」
「な、」
「南雲が、好きなんだ」
直球でなんとも男らしい告白に嬉しさよりも頭が真っ白になった俺は、円堂の「だから、その薬指を俺にください」という発言にどこぞの乙女よろしく、円堂以上に顔を真っ赤にして「喜んで」なんて言葉しか返せなかった。
今更ながら思う。普通立場としては逆じゃないのだろうか、これ。







左手の薬指をください









(これって、プロポーズですよね?)



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SUNNY*SUNNYさまに提出させて頂きました。
素敵な企画を有難うございます。


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