ピッ、ピッと一定のリズムで鳴る機械音をBGMに俺はただ沢山の管が繋がった先を見た。 一体今日は何日なのだろう。あれからどれくらい日にちが経ったのだろう。それがわからないくらい、俺はこの病室で過ごしている気がする。とは言っても、一介の中学生が何日も寝泊まり出来るわけもないので毎日通うくらいしか出来ないのだが。それでも俺にとってある意味現実味のない日々であったらしく、日付感覚がない。日々を過ごしている筈なのに。きちんと朝起きて、多分ご飯だって摂ってる。夜だって寝てるのに、それでもそんな日常的日々はまるで他人事かの如く俺にとっては記憶が定かでない。昨日食べた物ですら曖昧なのだ。痴呆が始まったと言われてもおかしくないな、と内心苦笑した。 おかしいかな。自分がどう過ごしているのかは曖昧なのに、共に過ごした時間だけはまるで今起こっているかのように鮮明に思い出せるのだ。空も、景色も、熱も──。そこまで思い出して、止めた。考えても、仕方のないことだからと。 「おはよう」 声を掛けるが返事がない。当たり前だ。もう、眠るだけ。ただ一定のリズムを刻むBGMが途絶えるその瞬間まで眠り続けるだけ。それをわかっていて敢えてする俺は、やはり未練がましいのだろうか。いつか返事が返ってくるなんて幻想を抱くことは、愚か、なのだろうか。けれど、そんな未練がましくも幻想にすがりたいのだ。大丈夫だと、思いたいのだ。俺も、コイツの家族も。だってまだ、コイツが…風丸が必要なのだ。 「学校、大丈夫?」 いつの間に来ていたのか。風丸の母親は俺へ挨拶をすると優しく声を掛けてくれた。それに必死に笑みを返して名残惜しくも側を離れた。本当は学校なんか行きたくない。行かずに側にいてやりたい。けれどもそんなわけにもいかないのだ。別に俺の母親がどうのとか、風丸の両親がどうのとかではない。二親とも例え行かずにここに居ても怒りはしないだろう。けれど、けれど約束したのだ。風丸の為に学校を休まないと。きちんと通うのだと、約束したのだ。例え、最期を看取れなくとも。例え、風丸がいなくなっても──。 後ろ髪ひかれる思いで病室を後にした俺は、一人学校へと歩く。たった一人で、ずっと風丸と一緒だった道程を歩くのだ。それは途方もなく遠くて、辛い、道程で。けれど途中で立ち止まってしまえば思い出の詰まったこの道程は隣に誰もいないことを。風丸がいないことを。一人であることを、俺に知らしめるのだ。そしてきっと…これからずっと、俺は一人で歩くのだろう。例え卒業しても、社会人になったとしてもたった一人で、長い長い道程を立ち止まることもせず歩き続けるのだろう。 生という名の牢獄を (約束、なんて、) |