30 蒸し暑さに慣れ始めた8月上旬。 変な視線を感じ始めて2週間ちょっと。 『…(精神的に攻めてくるつもりなのかな)』 クーラーを軽くきかせた自分の住んでいるマンションの一室で、お気に入りの小さなテーブルにうつ伏せになりながらシャクシャクとソーダ味のアイスキャンディを食べる。気になる視線が邪魔でイラつく。 『ただえさえあっついのに…』 「わん」 『ねー』 私の横で寝っ転がっているハスキー犬のポチ、…嘘ですコハチです。ころっころしてて毛並みふわふわで触り心地良過ぎな相棒です。ちなみに男の子。 頭を優しく撫でてあげると嬉しそうに尻尾をぱたぱた。っ、可愛いやつっ! 今日、アイスとお菓子の買い溜めした帰りに学ラン着用した草壁君を見かけた。わざわざ隣町に来てるって事は恭弥が巡回してくれてるのかな(草壁君にクッキーと恭弥用にチョコを渡した)。本当は隣町にいる私の事まで恭弥に負担をかけたくはなかったんだけど、(生徒会の仕事があって)学校にいる時以外変な視線を感じて、寝るときもまるで見張っているかのように視線感じるから明らかに私を狙ってるし、狙われてる私が犯人探しを下手にするもんじゃないし、お父さんに相談しようにも携帯電話が繋がらない。携帯電話の意味ねぇっ!!って夜叫んだ時は隣のおじさんに怒られたっけな。 食べ終わったアイスの棒を部屋隅のゴミ箱に狙いを定めて投げたが、惜しくも縁に当たって入らず乾いた音を立てて床に落ちた。 『あぁあ…』 ちょっと遠かったかな。 かったるー、と思いつつ立ち上がって棒を拾ってちゃんとゴミ箱に入れた時、ふとカーテン越しの窓を見た。 今視線が消えた…? 窓からベランダにおりて7階の高さから辺りを見渡すと細い道路を挟んだ住宅街に入っていく角に人影が見えた。アイツが私をつけてた奴ならどんな野郎か見てやろうと目を凝らした。 『んー、……んッ?!!』 ソイツの頭は私と同じ髪の色、後ろ姿がなんとなくお父さんに似てて、というか本人そのもので(自分の父親を間違う筈がない)、唯一違うところはツナギが黒いスーツに変わってるところ。 『(え?!お父さんなんで?!!)』 お父さんのそっくりさんは角に身を隠すようにへばりついて辺りを気にしているのかキョロキョロしてて、その先の角に姿を消した。 『……コハチ行くよ!』 トンファーを装備、携帯をポケットに突っ込んで戸締まり確認を素早く済ませた後、コハチを連れて急いでお父さんの後を追った。 (好奇心旺盛な年頃なんです。) (わん!) |