27 夏休み初日。 昨日とは打って変わって晴天、とまではいかないが青い空に雲が点々とした天気。 直射日光が地味に痛い気がする。 遠くの空にはどんより暗く、高くモクモクと山の形をした大きな雲が見えて夕方にはまた降るのかなとか考えながら自転車をこぐ。 『ジメジメしてるー気持ち悪ー…』 (体に受ける風も湿気を含んだ空気のせいで湿っぽいのだ) つか、お昼ご馳走するから来れば。とか今朝雲雀から電話があって最初不信に思ったけど偶にはお呼ばれもいいかなって思って誘いにのっちゃった私が馬鹿だった。 予約してあるから取りに行ってから来てね、ていう裏があるなんて! しかも予約とか断ってたら私の分誰に行くつもりだったんだ…? 『パシリじゃん!これパシリにされてるじゃん!』 午前中は生徒会の仕事が残ってた為に黒中の制服に生徒会の腕章を付けっぱなし。並盛町の住人にすれ違う度に視線を感じるが気にすることなく立ちこぎで突き進む。 それが昼間という人通りの多い時間帯の並盛商店街だろうと。 『(雲雀でも黒中に噂が届いているんだからきっと私も並盛中に噂が流れているのかもなあ…)』 だって、理由がどうあれ私も同じトンファーで不良を殴り倒している事には間違いないし。 て事はお母さんにも、な訳ないか。そういう噂には疎いから。綱吉もまだ小学生だから関係ないしね。 "竹寿司"と暖簾(のれん)がかかった店の前に着いて、自転車を脇に止めるとその暖簾をくぐった。 「いらっしゃい!」 『すいません、雲雀で4人前を予約したんですけど、』 「おう、ちょっと待ってな!」 カウンター席の台を拭いていた鉢巻きをしたおじさんが、奥の部屋へと入っていった。 …他人の名字を名乗るなんて変な気分。 そう思いつつ邪魔にならない程度に入り口の端で待っていると、入ってきた入り口の向こうから元気に子犬が鳴く声と落胆する男の子の声が聞こえてきた。 「とにかく、メシ食ったらまた探してやるからな!、あ、こんちは!」 『こんにちは』 入ってきたのは小さめの段ボール箱を抱えた、黒い短髪の(平均より身長高めの)男の子。なんか人懐っこい感じの。 人見知りを知らないような笑顔で挨拶されて、私は不意をつかれて無表情で挨拶を返してしまった。 昼間っから1人で寿司屋か、いやここの息子さんとかかも。 いいなあ、こういう人懐っこそうな子私の学校じゃ見かけないよ。学区的に並盛中か。ズルいズルい! 挨拶して通り過ぎていくのかと思えば、男の子は抱えている段ボール箱の中と私を交互に見て、ずいっと私に段ボール箱を差し出した。 「良かったら、こいつ飼ってもらえませんか?」 『飼うって…?』 差し出された段ボール箱の中には、短い尻尾を左右に揺らしている黒い毛並みの子犬が入っている。 『この子犬、を?』 「あ…ダメ、ですよね、いきなりですいませんでした」 「武! お前お客さんに迷惑かけんじゃねえ!」 丁寧に風呂敷で包んだ大きめな入れ物を抱えたおじさんが奥の部屋から出てきた。男の子がしゅん、としているあたり男の子、武君はこの人の息子さんかもしれない。 「こいつ、俺の息子なんだけどな、昨日この子犬を拾ってきて里親探してんだ」 お嬢ちゃんすまねえな、と武君の頭をガシガシした。慰めてる、のかな…? 『武君、ちょっと子犬見てもいい?』 「あ、はい」 私が段ボール箱から子犬(もしやシベリアンハスキー?)を取り出すと白いお腹が見えた。…あ、男の子なんだ。 尻尾が黒くて細く、お腹と足と顔の下の方は白い。 捨て犬、か。 『よし、お姉ちゃんが里親になる!』 「ホント?!!」 『うん、飼うよ』 武君はキラキラと星を辺りに飛ばすような笑顔で、良かったなお前!、と子犬の頭を撫でまくった。子犬も尻尾をブンブン振ってる。(やんちゃな子っぽいな) 私もつられて笑った。 |