26 雨足の強い、終業式の日の放課後。 "並盛バッティングセンター"と黒いマジックで雑に書かれた透明のビニール傘をさしている男の子が、足を止めて一点を見ている。 公園の入っていく隅に置いてある、小さめの段ボール箱が雨を避けるものがない為に少しふやけているように見えた。そこから微かに何かがひっかかいている音が雨音と混じって聞こえる。 (その音がしなかったら男の子は通り過ぎていたに違いない。) 男の子が段ボールを覗くと、雨で濡れた黒い毛並みの子犬が中で段ボールの壁をひっかいていた。男の子と共に傘も段ボールの上にかぶさった為、そこだけ雨が一時止む。 気づいた子犬は顔を男の子に向けて細い尾を左右に振った。 「あ、どこかで似たような犬見たんだけどな…」 どこだったっけ?、としゃがみ込んで子犬の頭を撫でながら考える。 商店街?、いや違うな。 あ!、ペットショップ! 「そうだ、確か犬種…、シベ、あれ?、なんとかハスキーだよなお前」 相手が犬なのだから話しかけても返事が返ってくるわけがないのだが、普通に話しかける男の子。そもそも子犬自身は犬種があるなんて知らないかもしれないのに。 「拾ってやりたいんだけど、こないだ親父にダメだって言われたばっかなんだよな…」 久しぶりに親との買い物で偶々ペットショップの前を通った時のこと。飼う気はないけど見る分にはいいだろうと、店内の犬猫がゲージに入って売られているスペースに向かった。 最初はなかったはずの"飼う気持ち"が、小さい尻尾を可愛く揺らして目を潤ませた柴犬の子犬を見た途端わいてきて、飼いたい!、と親にねだってみた。返答は、寿司屋だから飼えねえ。 男の子は自分チが寿司屋をやっている事を結構気に入っているのでもう一度ねだることもなく諦めた。 因みに捨てられている子犬と同じ犬種をみたのは柴犬の隣のゲージ。 「………でも、」 傘の柄を首に挟んで、濡れた段ボール箱ごと持ち上げる。服が水分を少し吸って湿っぽい感覚がしたが気にしなかった。 「新しい飼い主探しするくらいならいいよな!」 段ボール箱の中の子犬に、雨ん中置いてくなんてヒドいのな、と笑いかけて自宅に向かっていく男の子。 「親父に飼っていいか聞いてみてから探すかー。捨て犬のお前ならきっと親父だって…、」 子供は一旦諦めたようでも実は諦めらきれないのである。 (こないだ理由を言ったばかりじゃねえか!) (やっぱり、ダメ?) |