16 日本、並盛町。 この町は一見自然豊かであり、住宅街が広がる平凡な町に見える。 しかし問題はあんまり住宅街では見られない。問題の拠点はその町の"並盛中学校"と呼ばれる中学にある。 校歌も"大なく小なく、並がいい"と歌詞に取り入れる程の平々凡々な学校なのに。 問題は学生の一部分であり、特にその学校の風紀委員会が問題の拠点となっている。 風紀委員長、雲雀 恭弥。 彼は中学生になったばかりの時期に、その学校内の不良という不良を彼の武器であるトンファーで"咬み殺し"、不良を取り締まる側の風紀委員長の座についたのだ。 その噂は直ぐに町全体に広がり、学校の教師まで怯えているという強さ。 学校内では力試しで来る輩も入れば、憧れて風紀委員に入る奴もいる。力試しで来る生徒は必ず病院送りにし、風紀委員に入る生徒は義務で髪をリーゼントにして学ランに変わる。(指定はブレザーなのだが) ただ学ランを義務づけしているのは風紀委員長である雲雀恭弥であって、リーゼントの義務は、主に風紀委員をまとめ、風紀委員長を理解出来る唯一の存在、副委員長の草壁哲也。唯一リーゼントではないのは唯我独尊な風紀委員長である。 今から話すのは、並盛中学生の中で不思議に思われている事だ。 学校の校舎裏にある小さな桜の木。 その木の前には少し小山ができていて、噂だとそこに何か死体が埋められているらしい。 何かはわからないのだが、とにかく不気味過ぎて近づかないし、何故かその小さな桜の木を管理しているのが風紀委員会だから、余計近づく者もいない。 誰が一体いつ何の為に埋めたのか皆気になっているが、教員もその話には触れないし、何より風紀委員会が関わっているので謎のまま。 そこに今から巡回の為に向かっているのが、風紀委員会の副委員長の草壁哲也。 その彼が校舎裏にまわった時、1人の私服姿の金髪の女子を見つけた。 (今は授業中だぞ…?) 授業中にしても私服姿からして既におかしい。その女は誰も寄り付かない桜の木に手のひらを当てて何か呟いてている。そしてその小さな土の山の前にしゃがみ込んでまた呟き、服のポケットから何かを取り出して山の上にのせた。 彼女は校内に広がる噂を知らないのか? 転校生にしたって、転校してくる話は風紀委員会に入っていない。(因みに風紀委員会は学校自体も運営している) 「おい、そこの女子!」 注意をしようと声をかけてみるが、まだ彼女はしゃがみながら桜の木を眺めている。…聞こえないのはちょっと距離があるからかもしれない。 しっかり彼女の傍まで近寄ると彼女が桜の木を見ながら1人勝手に話し始めた。 『この木、ちゃんと綺麗に咲いてました?』 来る時期間違えちゃってさ、と言い続ける。 小さく1本だけぽつんと寂しく植えてある桜の木を、普通なら誰も気にはしない筈。それなのに彼女は心配しているかのような言い方だ。 「部外者なのだろう? 部外者は立ち入り禁止になっている。門にそう書かれている看板が見えなかったのか?」 彼女は立ち上がってようやく振り向いた。 暗い茶色の瞳が真っ直ぐ俺を見ている。 普通の女子生徒にはない何かを感じて、彼女はきっと戦える人だと思った。 『別に部外者じゃないからいいかなぁ、て思いまして』 「そもそも君はどこの学校に通っているんだ。 普通は授業中だぞ」 『まだ通ってないんです。あ、今度はお茶菓子持って遊びに来ますね!チャオ!』 彼女は木の直ぐ後ろにある2mの塀をいとも簡単に登り、慣れているのか戸惑う様子もなく飛び降りていった。 部外者が学校の敷地から出たのは良い事だが今度は"遊びに来る"、"茶菓子持って"、という事は次回は学校内に入り、のんびり過ごしていくと意味を取っていいのだろうか。 そうなれば俺は委員長に病院送りでは済まされない!!! 素早くかつしっかりと見落としがないように巡回を進めて、この事を委員長に報告しに向かった。 (報告以上です) (……、そう。わかった) 今までに見たことのないくらいに楽しそうで、今すぐにでもトンファーを振り回しそうな表情だった。 |