白昼夢 作戦はなかなか決まらない。 僕は窓からヘドウィグが入った籠を落として、下でミリアがキャッチしてくれれば成功する確率は高いと案を出してるのにミリアは反対だった。面白みに欠けるって言うんだ(この状況で面白みを求めないで欲しい)。 鳥類は飛んで生活する動物なのに、鳥籠に閉じ込めて自由を奪っているおじさんがとてつもなく許せないらしい。だから、少しほんの少しだけど怖い思いをさせるだけよと怪しく笑っていた。 * 現在進行系で頭の中では静止画がところどころモザイクをかけながら流れている。 助ける方法を考えるふりをしていて、実は考えていなかった。意識がズキズキと鈍い痛みを感じ頭へいってしまってなかなか作戦を考えてあげられることが出来ないでいた。 表情に出ないよう我慢できる小さな痛みだったが、それがずっと続くとなるともう慣れてくるとただぼうっとするだけ。 「何か思いついた?」 「んー、おじさんを怖がらせながらヘドウィグを取り戻せる方法…。ないのかしら…。」 今、丁度流れている映像のようなもので、自分より少し年上の男の子が私に向かって「ノエル」と優しい笑顔で、木の棒(映像でなんども見るなかでその男の子の棒はとても作りが立派だ。)を軽く振った後、周りに咲いていた白い薔薇から花弁だけがそよ風にのるように男の子の前に集まり始めて人を形造っていった。 こうして偶に部分的にムービーとして現れてくるが全て夢のようで現実的ではないもの、使える人はいないはずの〈魔法〉をその男の子を始めとした映像で出てきた人たちみんな使っていた。 一体私に何を見せたいというんだろうか。 ノエルと呼ばれる女の子は灰色の瞳を持つ男の子と親しいのか何度も映像に現れてくる。そして黒く長いローブを着た綺麗な男性も(その人は時々光の入り方で赤黒い瞳に見えたりする)。 黒いローブを着た男の人も「ノエル」と呼んでくるのだけど、記憶の中の"彼女"はいくつ名前があるのだろうか? 今のところ知っているのは「カリナ」に「ノエル」、あとひとつは「ラディス」。またそれぞれの名前に苗字がちゃんとついている。いったいどれが本名なのかわからない。 だらだらと(原因はずっと頭の中で流れる映像と頭痛の所為)作戦会議をしていたがなかなか良い案が出なくて、ハリーの「2階から鳥籠を落とす」作戦になった頃にはもう空がオレンジ色に染まっていた。 ハリーの部屋がリビング側なので、客人が来て客間に一旦通している、つまりはリビングに来ないほんの少しの間で作戦を実行する事に決めて、今日はお開きにしようとした。 「よおハリー! なんだ今日も変なやつと仲良くお話しか?」 ―(よおスニベルス!) 公園の入り口の方で、大きな図体の男の子がニタァと笑いながら立っていた。 隣のハリーは苦い薬を飲んだように顔を歪めて、ダドリー…、と呟く。変なやつ、とは私のことなんだろうか。 ダドリーっていうとさっきハリーの話に出てきたハリーと同い年の子で一緒に住んでる子だ。 人目でわかるように細身のハリーとは似ても似つかないずんぐりとした体格で、台詞からしてあまり良い性格ではないような感じがする。ようするに第一印象は最悪。(同時に、頭の中で灰色の瞳の少年が面白い玩具を見つけたような嫌な笑顔で誰かに話しかけている場面が流れた) 「ミリアは変なやつじゃない。お前よりよっぽど良い子だししっかりしてる」 立ち上がってはっきりと、怒りを抑えたようにハリーが言い放つとダドリーはすぐに噛み付いて、木陰までは入って来なかったが近くにやってきた。 「どうせそいつもお前と同じなんだろ? バケモノなんだろ?! パパが言うようにまともなやつじゃないんだろ?!!」 「違うッ、…ミリア?」 「ごめんね、ちょっといい?」 文字通り噛み付いていきそうなハリーの肩に手をおいて下がるように言う。上を向けば幹に止まっている相棒ラルフは威嚇していた。 ダドリーの表情からするに角度的にもまだラルフの存在に気づいていないんだろう、この子は前会った時にラルフのことを怯えた目で見ていたから。 私は歩み寄って、後一歩踏み出せば日向に出るあたりで止まった。ダドリーと呼ばれる男の子はなんだ、やんのかと身構えた。 「私がでしゃばる場面ではないけれど、貴方は今さっきハリーにバケモノだと言ったわよね?」 「お前もバケモノだって僕は言った!」 「そう、それはどうでもいいわ。バケモノと言ったことだけど生憎私とハリーは貴方と同じ人間。それでも貴方がバケモノだと、まともなやつじゃないと言うならば貴方も私達と同じ、まともなやつじゃない」 最後を強調して言うとダドリーは怒りでふるふると震え、顔はトマトのように真っ赤になっていた。口を魚のようにパクパク動かして「ま、」と何か言いたそうだけど上手く言葉になっていない。 「私は貴方とハリーの仲が悪い理由は知らないの。でもね、私の目の前で大切な友人の悪口を言われたら」 突然目にちりちりと小さな熱が走る。 その痛みは何だか懐かしくて自然と口角が上がる。ダドリーは私の目を見て大きく見開き、震える人差し指で「お前、目が、」と私を指す。 ダドリーの異常な反応はまるで彼らが恐怖する魔法を見たかのようで、ハリーは思わず少女の背に手を伸ばそうとするが、触っては駄目だと直感して腕を下ろした。 「見逃せる程、私は優しくないわ」 ダドリーと目を合わせるのに簡単に一瞬で出来た私は更に笑みを深くした。 |