ぐらぐらゆれる


彼に会ってからもう1週間は経っていると思う。細かい日数は数えていない。

今日も相棒であるイヌワシのラルフを飛ばして群がっている鴉を追い払う仕事をしている。


私は数年前、師匠に倒れているところを助けてもらっている。なんで倒れていたのか自分でもわからない。なんせ私には記憶がなく、いままでに何をしてきたのかがさっぱり思い出せないでいた。

相棒のラルフは私が目を覚ましてから、まるでタイミングを計ったように突然窓から入ってきたという。そこで師匠は鷹匠を薦めてきた。記憶が戻るまででいい、やることが見つからなくてじっとしているなら色んな地方を回って人の役に立つのもよし、もしかしたらキミを知っている人が見つかるかもしれない、と。

そこで私は見よう見真似で師匠から鷹匠を教わり、なんだか随分と前からラルフの事を知っているような懐かしい気持ちを抱きながらやってきた。私とラルフの息はぴったりで、信頼関係も築くのもそう苦にはならなかった。まるで、ラルフも私を知っているかのよう。


「今日も凄いね」
「こんにちは、ハリー。後少しで追い払い終えるからちょっと待っててね」

最後の一羽がラルフから逃げるように飛び去ると額の汗を手の甲でぬぐう。雲は少し多く浮かんでいたが今日も日差しは変わらず強かった。そして公園まで2人は歩いていき、木陰を見つけるとそこへ腰をおろした。


「いつも大変だね。こんな暑い中」
「そういう貴方もこんな暑い中、わざわざ外に出て私のところへ来るわ」
「……」


俯いて黙ってしまった。ハリーは何か家で嫌なことがあるらしく、朝から(いったん家に帰ってお昼を食べてからまた来て)夕方までずっと一緒にいる。

おかげで私も楽しく仕事をやっているが、同時になんとも言えない感情が生まれる。なんと言葉にしていいのかわからない。負、の感情に近いもの。あるいは正義感に近いもの。私の中でぐるぐると廻り、完全に混ざり合うことはない。そして頭の中では断片的な映像が頭の中に流れる。

暗い屋敷、黒い杖、大きな蛇、赤色の瞳、黒いローブ、白い薔薇の人型、犬鷲。…イヌワシ?ラルフ?

頭の中と心が別々の事をしていて変な気分だ…。


「…ミリア、ミリア!」
「え、…あ。ごめんなさい、少しぼーっとしていて」
「大丈夫? 暑さで体が疲れているのかも」


顔を覗き込むように、心配そうな表情をしたハリーがいた。暑さ?

いや、違う。
今のはいったい…。


「大丈夫よ、ちょっと考え事していただけ。ハリーは何か言いたげだけど良かったら聞くわよ?」
「、いいの? ……あのね、――」


なぜかハリーとこうして2人と話していると不思議な体験をする。

何か鍵をにぎっているのかしら…? でも初めて会ったときお互い名前を知らなかったし初対面だった。本当に不思議としか言いようがないんだけど、何か頭の中でひっかかる。腑に落ちない、納得がいかない。初対面なのに、見覚えあるような…、自分でもう何がなんだかわからないし混乱してる。

もっとあの映像が見えたら何かわかるのかもしれない。





この謎を解く鍵が…。







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