深海に漂う

目は閉じたまま、ゆっくりと意識を浮上させると誰かが優しい手つきで頭を撫でているのがわかった。そして体の上半身の片側だけが妙にあったかい。寒くて体を丸めようと足を曲げたら何かにぶつかって曲げられず、眉を寄せた。


「どうしてマダムポンフリーに任せないで薬作っちゃうかなあ」


とくんとくん、と心音と彼が発した声がワイシャツ越しに伝わる。体温が絶妙に心地よくて、寝起きの私は額をこすりつけた。


「君の腕前は確かに良い。けど、保健室に連れて行けば済むことじゃないか」


頭上からも、けして責める口調ではなく優しい口調が聞こえる。
撫でている手は次第に下がってきて私の肩から腕をさするように動かす。セーターの上でもさすることであったかくなった。

声で、いやむしろ寝ている私に話しかけてくるなんて該当者は1人だけ。聞いている限り私が起きてちゃ話せない話題でもないけれど、最近一緒にいられなかったからかもしれない。



「ん、何?」


さっきより額を強くこすりつけるとジェームズも私の頭に頬をぐりぐりしてきた。ああ、なんでこんなにも人肌ってあったかいのだろう。



「ただ、つくりたかった、だけ」



ぼそぼそ、と寝起きの私はできるだけ滑舌よく言った。そう、ただ作りたかっただけ。作ってあげたかっただけ。所詮偽善者なだけであってみんなの未来を知らなければあんな薬作りもしない。スネイプはあれだ、いつもハリーがお世話になってるからその礼で。

スネイプの為に貴女と仲良くしているけれど、ジェームズを否定する貴女を好きにはなれない。クディッチの時だけはかっこいいって何、ジェームズはいつだってかっこいい。スネイプ虐めは良くないとは思ってるけどね。



「気紛れ?」
「そう、つくるのは、きまぐれ」



ジェームズが喋る度に振動が耳に頬に伝わって気持ちいい。

この世界は楽しいんだ。未来ではレギュラスもいない。シリウスが助けられなかったことが悔しくて涙を流すことも大切な肉親を失うこともなかった。今は2人とも仲良くないけれど私達がこれからなんとかして行く予定。

ジェームズも未来の事を気にしないでいつものメンバーで悪戯仕掛けまくているみたいだ。ジェームズにとっては一番楽しかった時代で、未来で起きたことは関係ないと必死に思い込ませて今を楽しんでいるよう。未来にはない今の関係。



「楽し過ぎるよね、ここは」
「ハリーが来れないのがつらいけどね」
「見せたかったなあ…」



でもね、周りの女の子達が好意を貴方に向けているところを見ている私にはつまらない。この時代の私はシリウスとリーマス、ピーターとそんな仲良くはないから話かけづらい。私としてはさっさとシリウスとレギュラスを仲良くさせて、あわよくば家出させないようにして未来に戻りたい。早くハリーを抱きしめたい。未来のリーマスにだって会いに行きたい。今1人ぼっちなんだよ?



「でも、僕達には過ぎたセカイだよね」
「そう、この時代があって今の私達がいる…」
「戻るべきセカイが、ある」



体を反転させると私の好きなハシバミ色の瞳とかち合う。目を細めてジェームズは苦笑した。君には敵わないよ、でもありがとう助かるって。私だってジェームズと見つめ合うだけで敵わないわよ。見透かしてしまうような感覚もジェームズだったらいい、私の全てが伝わっていくようなきがして好きだったりする。



「もしも…1人で、敵の魔法で過去に飛ばされたりしたら怖いな」
「したらその時代の私が活を入れるから安心して」
「どうやって」
「こうやって」



にこにこ笑っているジェームズを見、半身起き上がりって両手をジェームズの胸の上について触れるだけの軽いキスをした。



「それじゃあ、余計に夢に溺れたままだ」



2人で笑い合って、また唇を重ねた。





 
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