貰い物 | ナノ





――ああ、そうだ。オレ馬鹿だもう絶対に馬鹿だ。


普段と代わり映えのない自室。ただ違ったのは、目の前で項垂れる綱吉の彼女――なまえと二人の間で仰々しく自分をアピールする“物”の存在。

目前の紫色のオーラを醸し出している恐らく料理だと思われるそれを見て綱吉は頭を抱えかけた。

名前が彼の自宅で料理を教わると聞いた時点で本来ならば止めるべきだった。確かに綱吉の家には料理上手な母親がいるが、彼女だって主婦だ。忙しくない訳がない。

ならばとなまえがそこを考慮した上で教えを請える人物は――毒サソリのビアンキのみだった。

筆舌に尽くし難い表情で綱吉は目前の料理を眺める。怖ず怖ずと、彼の前で小さくなっているなまえは口を開いた。




「…ポイズンクッキングって、ビアンキしか作れない技法とかがあると思ったんだ」

「………」

「だからさ、只の一般人である私が作れるはずないって思ってたんだけど……」

「…素晴らしくポイズンクッキングだね」

「だよねー…」




ブシュウウウと唸るように音を奏でるポイズンクッキングと共になまえの渇いた笑い声が合わさる。まるでちょっとしたコーラスだ。

ポイズンクッキングとは文字通り、毒の入った料理だ。殺人道具として扱われることが主なので、こうやって殺意のない相手に差し出すことなど有り得ない。

ただ一つ、救いだったのは、なまえが“ポイズンクッキングを作ってしまった”と自覚があることだ。人知れず、綱吉は胸を撫で下ろした。

苦笑しっぱなしだったなまえは、綱吉へと提案する。




「と、取り敢えずこれは流石に処分しようか」

「…どうやって?」

「あー………可燃ゴミ?」

「食材、勿体ないなあ」

「じゃあ綱吉、食べてくれるんだね? ありがとう」

「ゴミ袋持って来る」




有無を言わせぬ綱吉の瞬時の行動に、なまえの顔は満面の笑みで咲き誇る。


――…可愛い。


部屋を後にする際、視界に映った彼女のその表情を見て、綱吉は一人小さく胸を高鳴らせた。





ポイズンクッキングと言う名の危険物を処理したのち、ようやく二人は安堵の息を漏らした。念には念をと開け放たれた窓からは心地良い風がやって来る。

見事に仏頂面となった名前をフォローする為か、綱吉は笑みを浮かべ彼女の頭を優しく撫でた。




「そんなに膨れんなって。今度は母さんに頼めばいいじゃん」

「ダメだよ。おばさん、忙しいから」

「息子のオレが言っちゃヤバイだろうけど、母さんお人よしだから大丈夫だって」




――というより、オレの為に作ってくれたってのが嬉しすぎてどうでもいい。


そんな考えが綱吉の脳裏を過ぎるも、なまえの好意を無下にする程、彼は気が利かなくはない。

気持ちを心中のみで隠しながらも、綱吉は処理したついでに持って来た市販のお菓子と飲み物をなまえに渡す。




「大体さ、料理の本とか見たら一人で作れるもんじゃないの?」




真っ直ぐに見詰めてきた綱吉に、羞恥心からか、はたまた別の意味合いを含んでいるのかなまえは目線をずらす。

それがどこと無く、綱吉の機嫌を損ねるということに気付かないまま。




「そりゃ…流石に一・二度は作ったよ。でも塩と砂糖を入れ間違えたり、めちゃめちゃ焦げたり、挙げ句には電子レンジが吹っ飛んで…母さんに料理禁止令を言い渡されたんです」

「…典型的な料理音痴だね」




――そりゃあポイズンクッキングも作れるようになるよ。


なんともベタな失敗例の数々を惜し気もなく淡々と語るなまえに諦念を抱く綱吉だが、勿論その意見も口には出さない。

代わりと言ってはなんだが、彼女の為に策を施してみようかと一つ、咳ばらいをした。




「じゃあさ、一回間違えたにつきペナルティを科するとかさ」

「例えば?」




綺麗に食いついてきたなまえの問い掛けに、本日最大級の、爽やか過ぎる笑顔を綱吉は放つ。




「例えば…――しばらくオレと手を繋がないとか」

「ええっ!?」




“そんな殺生な!”と声に出すような勢いでなまえは綱吉に四つん這いになりながら詰め寄る。

そこまで反応をもらえると思ってもみなかった綱吉はキョトンとするも、すぐにクツクツと笑い出し、意地悪な笑みへと変貌させた。



「ああ、一日オレと話さないっていうのもいいかも」

「や、やだよ!」

「じゃあ一週間キスなし」

「そ、それは………てか、恥ずかしいことよくもまあ…」

「つまりは一定期間オレと会わないって感じかな」

「氷河期!!?」




まるで死刑宣告されたような、絶望的な表情と化したなまえ。だが綱吉は否定せず、実行する気満々だった。

しかしどうしたことか、それを良く思わないなまえの表情豊かな顔が一気に沈んでいく。


――…いじめすぎちゃったかな。


小さな罪悪感を覚え、綱吉の笑みが消え去り、動揺に似たものへと感情が移る。

なまえの口元から、震えた声が吐き出された。




「…やだよ……。綱吉、大好きなのに、離れるとか…絶対やだよ」

「………」

「綱吉と手、繋ぎたいしお喋りもしたいし……き、キスもしたい、し」




――ああ、もう、本当に。


俯いたまま自分の欲望を語るなまえを、綱吉は苦笑しながらも抱きしめる。

唐突な彼の行動にほんの少し、彼女の肩が密かに揺れた。


――愛おしくて堪らないなあ…。


本人には面と向かって言えない言葉も、想うだけならば幾らでも出来る。

素直になりきれない綱吉が確かにすきだと思うのは、間違いなく自分の腕の中で緊張の為か身体を強張らす少女。

そんな彼女に、自分の高鳴る鼓動を知らせる為、先程よりも強く強く強く抱いた。不器用な綱吉は、そうしたことで彼女との意思疎通を図る。


――オレも名前のこと、大好きだよ………ばか。


いつか、伝わるように、想い続ける。




「じゃあオレと一緒に料理、しよっか」





不幸せなバカップル

(じゃあそれで失敗しても綱吉の所為ってことで)
(…いけしゃあしゃあと)




由希様の書かれる綱吉がかっこ可愛いんです!^^
ありがとう御座います!そして、
3周年おめでとうございます!!!

2010,06,01


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