企画 | ナノ





今日も学生時代の3人と楽しく悪戯をして過ごし、寝なれたベット(またこの寮のベットで寝れるとは思わなかった)の中でぐっすり寝ていたときの事だった。

やけに足元が寒い。暖めようと片足の裏をふくらはぎに当てるとひんやりと冷たくなっていた。

(シーツがめくれたのか…寒い…)

1週間前くらいには暑い夏の時季を過ごしていた僕にとってこの3月の寒さは凍えるように寒く感じるし、若干慣れてきたといってもまだ少しつらい。

夏のある日、僕はなまえと息子ハリーと楽しく幸せ過ごしていた筈なのに、気づいたらここに、この学生時代にいた。全く状況が読めずに暫く放心していた僕をシリウス達に気味が悪いとかってからかわれたっけ。

冷え切った足をシーツの中に引っ込めて寝ようとしたら今度は片足の裏に何か温かいものが触れる感じがした。おかしい、シーツの感触でもないし、暖かくなってきた感じでもない。

一体なんだろう、と布団の中から手を出してベット傍に置いてある眼鏡をかけながら起き上がると、足元に銀色の雌鹿がいて、僕の方を向いたまま、もやとなって姿を消えてしまった。

守護霊が雌鹿の姿になるのは1人しか僕は知らない。しかもこの頃で守護霊の呪文はまだ話しには聞いていても実際には習っていない。つまり未修得なんだ。使えるとなれば彼女も今この時代に…!

物音を極力立てずにベットから降り、上着を羽織って部屋から出ようとしてドアノブに手をかけたとき、



「う…、リーマス、もうチョコいらないよ…」
「!」



驚いて後ろに振り向くと丁度ピーターがうなされながら寝返りをうつところだった。

(なんだ、ピーターか…)

寝返りをうったことで大きくずれて上半身がシーツから出てしまっているのを見て、仕方ないなピーターは、と心の中で呟き、小さく笑いながら普通に考えてチョコ好きなリーマスがくれるわけないじゃないか、と思いながらそっとシーツをかけ直して部屋を後にした。






深夜。

寮のみんなが寝静まっているころ。真っ暗な談話室へと下りる階段からほのかな明かりがもれている。足音をなるべく立てないように下り、暖炉の火が小さく揺れ、耳に心地良い薪の爆ぜる音を子守唄にして、暖炉前のソファに横になって寝ている僕の奥さんを見つけた。片手は本を抱えながらお腹の上にあり、もう片方はだらしなくソファから落ちている。その手には杖が軽く握られていた。

ソファの周りには小さな本の山が出来ていて、中には禁書まで混ざっている。もしかしたらなまえはずっと…、

ジェームズは暖炉を背にするようになまえの顔の前に膝をついた。

顔にかかっている髪を優しく耳にかけ、額にキスを送る。寝ぼけて守護霊を僕に送ったのだとしたら愛おしくてたまらなかった。しかし目の下に出来ている隈を見つけて同時に罪悪感もうまれた。僕が遊んでいたこの1週間弱、夜な夜な調べてくれていたに違いない。

熟睡しているなまえには悪いけど、ここで寝ると風邪をひく原因になるし、硬いソファで寝ていては体が固まって痛い思いをしてしまう。なまえの肩を軽くゆらした。



「なまえ、なまえ。起きて」
「ん…、いやだ…」



うっとおしそうになまえは薄く目を開けたと思うとまた閉じる。

だらん、と下がった腕をあげて杖を懐に仕舞って、本を両手で抱きなおした。



「風邪ひくよ」
「火があるからあったかいし・・・」



ジェームズは後ろを向く。今にも消えそうになっていた火を見て懐から杖を出し、残っている薪に向けて杖を振って大きくした。暖かさが増して少しくらいここに居てもいいように。



「あったかい」
「僕が強くしたからね」
「ありがと。そしておやすみ」



ちょっと!、と小声で怒りながら、寝る体制に入ったなまえの頬をペチペチ叩く。

なんで守護霊出したの?僕に会いたかったんじゃないの?、と質問攻めしてみても知らないの一点張り。ひとことくらい言ってくれたっていいじゃないか、となまえの瞳を逸らさずに言ったら、ゆっくりと目蓋を持ち上げてなまえの口が少しだけ開いた。聞き逃さないように僕は黙る。



「楽しそうに悪戯仕掛け人として遊んでるジェームズを見てたら、言い出しにくいでしょ」



だるそうにゆっくり体を起こしてソファにスペースを空けて、僕に座るように掌で示した。隣に腰をおとすとなまえが僕の肩に頭を預ける姿勢になる。さらに僕はなまえの頭の上に寄りかかる。



「私の考えとか調べ物はジェームズにとって現実をつきつけるようなものだし。ま、その話は置いておいてさ、明日、ってもう今日なのかな?」
「何が?」

「ハッピーバースデー、ジェームズ」



さらりと言ったなまえに驚いて、ジェームズが勢いよく振り向いたせいでなまえは肩から落とされそのままジェームズの膝の上に顔面ダイブする羽目になった。



「いったー、舌咬みそうになった!」
「今日なの?!僕の誕生日!!知らなかった!!」



もうこの体制でいいや、とジェームズの硬い膝に頭の位置を決めながら、なまえは数日前にあったことを思い出す。この時代に来たのがまさかジェームズの誕生日に近かったなんて奇跡に近いようなもの。周りの(ジェームズファンの)女子がこそこそ話していたのを偶然にも耳に入ったおかげで知ることができたからだ。



「で、急にとばされた私には何にもプレゼント用意できていないのです。厨房でお菓子作るからそれでもいい?」
「僕に他の選択はないの?」
「私のアップルパイが食えないとでも言いたいわけ?」
「林檎がごろごろ入ってて甘さ控えめ、酸味がちょっと強くて生地がサクサク?」
「そう。ジェームズの好きな、私お手製アップルパイ」



会話を交わしているうちにジェームズの顔がどんどん近づいてきて、今は鼻がくっつきそうなくらいの距離。お互いの瞳に顔が映っているのが確認できるくらいに近かった。さらにハシバミ色の瞳が近づいて、唇に優しく触れる。至近距離で貴方の瞳の色を見せられたらどうにかなっちゃいそうでいやだ。私がこの瞳に弱いのを知ってるから余計にいやだ。



「アップルパイも欲しいけど、ねえ、僕の奥さん」
「何やらいかがわしいことを考えているようですが私の旦那さん。今は駄目、無理、嫌だ」



僕的にはもう一押しかと思ったけど、隈の存在を見つけたことで一気にすべきことを思い出した。いけない、なまえは寝不足だったんだ。しかも暖炉の火も弱くなってきている。



「わかった、明日アップルパイ待ってるよ」
「あら、今日はやけに素直?」
「元の時代の誕生日にするんだったらいいよね。別に問題はない、そうだろう?」



問題はない、今されるよりはマシか、と苦笑いする僕の奥さん。その後、傍に暖炉の火があったとしても完全に冷え切ってしまった僕らはなまえの1人部屋で仲良く一緒に寝た。


そして起きてからは奥さんお手製アップルパイを厨房で一緒に食べて、学生時代のシリウス、ピーター、リーマスに囲まれて過ごした僕のこの誕生日は今までの中で、不思議で忘れられない特別な日になるだろう。

だってこの頃のなまえとはまだ友達でさえなっていなかったんだからね。





ジェームズ、誕生日おめでとう!!


2013年3月27日




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