企画 | ナノ





「今日は僕の誕生日です!」

得意満面と言った顔のジェームズが、くるくるの髪の毛を可愛らしく揺らしてそう言った。

「言われなくても知ってる」

年に一度のジェームズの誕生日。
今日は朝からおはようのキスをぶちかましてやり、下手なりにジェームズが好きな料理を作ってやった。昼はロンドンへ出て、街を目的もなくのんびりと練り歩いた。

ときおりジェームズのおねだりを叶えてやって、手を繋いだり腕を組んだりして、いわゆる恋人同士っぽい事をした。
ランチに入った店では「仲の良い恋人同士ね」と老夫婦に声を掛けられ、ジェームズがニコニコと笑うだけで何も答えなかったから「実は私たち夫婦なんです」と、ジェームズが望んでいるであろう通りに答えてやった。

「僕らいつまでも仲の良い恋人同士のような夫婦でいようね」

笑顔で私の手を両手で包み込んだジェームズに、「めんどくさい」といつもなら言うセリフを飲み込んで「はいはい」と答えながらジェームズの手を払いのけ、逆にジェームズの手を握ってやった。

ディナーはロンドンの夜景が見えるレストランへ行き、いつもならふざけて私がジェームズをエスコートする所を、大人しくジェームズにエスコートされてやった。

むずむずと尻のあたりがむず痒かったけど、正面に座るジェームズが終始笑顔だったから、まぁ良しとしよう。
そして今、ディナーを終えてようやくリビングのソファに腰かけた所だった。

「んで?次はなんのおねだり?」

肘掛に肘を付きながらそう問えば、ジェームズは「えへへ」というなんとも卑怯な笑い声とともに、逆側の隅っこに腰を下ろした。

「膝まくらをしていただこう!!」
そう言いながらソファの上に手をついて、すでに横たわる準備を始めるジェームズ。

「はいはい、今日は王様の言う通りなんでもいたしますよ」

少しのため息を零してソファの背もたれに背中を預ければ、スペースの開いた太ももに、そっとくるくるの髪の毛が落ちてきた。
自然とジェームズの髪の毛に手を伸ばして、そのふわふわの癖っ毛を絡まないように丁寧になでる。
ジェームズは犬かネコのように、手の動きに合わせて瞼を閉じ、気持ち良さそうに口が半開きになっていく。

暫くジェームズの髪の毛を堪能して居ると、ふとジェームズがその瞳でこちらを見上げた。
目が合ったジェームズは、ゆっくりと瞳を細め嬉しそうに「ねぇなまえ」とゆっくりと言った。

ジェームズ、満足そう。誕生日楽しんでもらえたみたい。
ほっとしたのも束の間、ジェームズは笑顔を崩さずにこう言った。

「今日一日、すっごくつまんなかった」
「……はぁっ!?」

「だってなまえが普通の女の子みたいだったんだもん」
ぷくーと頬を膨らませるジェームズ。

「素直に僕の望みをかなえる女の子なんて、そこらじゅうに居るよ。
そんな女の子が良いなら、なまえなんて選ばなかった」

ジェームズは更に頬を膨らませて、もうはちきれんばかりになった頬でこちらを睨んできた。
間抜けで笑える。

「へぇ、その割りにはここぞとばかりに、色んな事をねだってきたよね」
「だってなまえが!あのなまえが、僕の誕生日だからって色々と我慢して、僕の願いを叶え様としてくれるんだ。言わなきゃ損じゃない」

なんか可愛くない事を言ってるなぁと思いつつも、もはや癖となっているようにジェームズの髪を何度も撫で付けた。

「なまえがポッター家の遺産で暮らしている事に劣等感を感じているのは知ってる」
ジェームズの突然の告白に、思わずジェームズの髪を梳く手が止まる。

ホグワーツ卒業後、私達は揃って不死鳥の騎士団に所属した。
就職もせずに騎士団に所属できたのは、単にジェームズが引き継いだポッター家の遺産があったからだ。

もちろん就職する事も考えた。
だけどヴォルデモートさんの動向を知るには、不死鳥の騎士団に所属していた方が何かと便利だ。
あの人が殺される運命も回避したい。だけどもし倒される事があるのなら、その瞬間は傍にいてやりたい。
だから、ジェームズの遺産で生活する事に甘んじている。

「その僕の遺産で、僕に誕生日プレゼントを贈る事をおかしいと思ってる」
そうだろ?とジェームズが腕を伸ばして左頬を撫でていく。

「だから僕へのプレゼントに僕が望む事をしてくれようとしてる」
返事は必要ないといわんばかりに、ジェームズは苦笑する。

「そういうなまえは、本当にバカみたいで扱いやすい。
丸一日、なまえをからかって遊べたから、僕としては満足なんだけど」
やんわりと頬を撫でていた掌で、パチンと軽く頬を叩くジェームズ。

ジェームズが「今日のなまえの悔しそうな顔ときたら傑作だった」とクスクスと笑う。
どうやらジェームズのおねだりを叶えてやっている最中、私は悔しそうな顔をしていたらしい。

「ジェームズ、性格悪い」
ぷい、と音が出そうなほど素早くジェームズから顔を背けると、ジェームズから「ぶふっ」という噴出す音に続いて「なまえ、大人気ない」という言葉と笑い声。

おもわずジェームズの額に手を振り下ろすと、予想より良い音がして「痛い!!」と言う声。
ジェームズにざまぁみろ、と舌を見せてやると、「大人気ない」と重ねて言われた。

「扱いやすくない私がお望みでしょ?」
ふふん、と鼻で笑ってやる。

「それでこそ僕のなまえ」
ジェームズが楽しそうに笑って、それから急にハシバミ色が真剣味を帯びた。

「ねぇなまえ」とジェームズのいつもより少しだけ低い声。おねだりをする時の甘ったれた声じゃない。
ジェームズが緊張している時に出す声。

「僕の本当の望みを、なまえがかなえたいと思ったらかなえて欲しい」
真剣な瞳で私を見つめるジェームズ。

いつの間にか頬を撫でる手も、髪を撫でていた手も止まっている。
ジェームズの胸の上で私の右手は、ジェームズの両手によって握りこまれていた。

ジェームズの手が、冷えているのにじっとりと汗ばんでいた。
緊張している。そんな物はジェームズを纏う空気で解かるのに、ジェームズは緊張を隠して唇を持ち上げる。
少しだけぎこちない笑顔を作って、ジェームズはようやく口を開いた。

「なまえ、どうか、おねがい――、」

思わず口をついてしまったんだろう『おねがい』と言う言葉。
私がそれに弱い事を知っているから、ジェームズはしまったという顔をして舌を出す。
その子供っぽい仕草に、自然と笑顔がこぼれる。

私に選択肢を委ねるジェームズの願い。
選択肢を完全にこちらに委ねているからこそ、ジェームズは緊張しているんだろう。
どんな事を言われるんだろうと、勝手に胸が鼓動をうつ。

どく、どく、と胸をうつ鼓動がやかましい。
ジェームズの声が聞こえなかったらどうするんだ。静かにしてよ。

ジェームズの唇が小さく動いて、全身の神経を総動員して、その声を聞き逃すまいとした。
「僕のそばに居て」
小さく呟かれた声。ジェームズにしては自信の無い掠れた声。

「僕の本当の望みは、なまえが傍にいる事。僕の来年の誕生日まで」

叶えてくれる?とこれまた小さな声が重ねられた。

「へ?」と思わず聞き返せば、ジェームズは慌てたように早口で言葉を重ねる。

「いや、別にね。ずっとなまえに隣で笑っていて欲しいとか、なまえが泣くのは僕の隣だけであって欲しいとか、なまえが怒るのは僕だけのためであって欲しいとか、そんな事は思わないし、望みもしない。
そんななまえ好きじゃない」

ベラベラとまくし立てるジェームズは口を閉じる事なく続ける。

「なまえにはいつだってどこだって笑っていて欲しいし、僕の前で泣けない時はシリウスとかリーマスとかピーターの胸を借りて欲しい。一人で泣かせたくないからね。なまえが友達の為に怒っているのを見るのも好きだし、それに恐らくその時は僕も一緒に怒っているだろうから。そんななまえが好きだから。だから、」

途中で気がついたのか、ジェームズは「かっこわるいな」と苦笑を零す。

「ジェームズがかっこ悪いなんて知ってるっての。それでも私達、夫婦ってやつでしょ?」
左手でジェームズの額から滑らすように髪を撫でてやると、ジェームズがほっと息を吐き出す。

何度か髪を撫でてやると、落ち着いたのか、ゆっくりとジェームズの力が抜けていくのが解かった。

「僕の隣にいなくてもかまわない。僕の隣で笑顔でなくてもかまわない。
他の誰かと笑い合って、他の誰かのために涙を流したり怒ったりしてもかわまわない」

ジェームズのハシバミ色がゆっくりと細められて、いつもの穏やかなジェームズの笑顔を形作る。

「でも必ず、僕の隣に帰っておいで」
ね?とジェームズが小首を傾げた。

「そのお願いの有効期限は一年間でいいの?」
我ながら可愛げのない返事。だけどジェームズが短く笑い声を上げたから、それが正解だと知る。

「一年間で良いんだ。だってなまえはまた僕の隣に必ず帰ってくるからね。僕の願いを叶える為に」

「そういう時はさ、永遠に自分の傍に居てほしいとか言うもんじゃない?」
得意気なジェームズの笑顔にそう言い返した。

「永遠なんて一瞬の夢はいらないよ」心底イヤそうにジェームズは顔を歪める。

「僕は夢見がちなリアリストだからね。永遠なんてその場限りの夢はいらない」

そこまで言って、ジェームズは少しだけ間をあけた。
そして少しだけ声のトーンを落として、またしても真剣さを重ねた瞳でこちらを見上げた。

「叶えられる現実の夢を、なまえの意思でなまえから与えられたい」

そう言ったきり、ジェームズは黙りこくってしまった。

返事を待っている事は明白だけど、返事なんか必要あるんだろうか。
だって私達は夫婦ってヤツで、死が2人を分かつまで一緒にいると、神様とやらに誓った身なんだ。
そもそも一生添い遂げる覚悟がなければこちらの世界を選ばなかったし、ジェームズのプロポーズを受けたりはしなかった。

考え事をしている間にジェームズが痺れを切らして、私の名を呼びながら返事を急かしてきた。

「返事は行動で示すってのアリ?」
「何それ!生殺しってヤツ!?」

「うん。返事は来年の今頃わかるって事でどうだろう」
「ひどい!なまえってばひどい!僕がどれだけ緊張しているか気がついてるんだろ」

ひどい、ひどいと繰り返すジェームズに、なんて返事を返せば良いのか解からなくて、困ってしまった。
だってジェームズの傍にいる事は当然の事で、もう当たり前にこの家に帰ってきてジェームズに「ただいま」と言うのが習慣となっている。

「神様への誓いじゃなくて、僕に約束して欲しいのに」
ぷくーとまたジェームズが頬を膨らませた。

「なんだそういう事」
ハハ、と笑い声を上げると、ジェームズにじっとりした瞳で睨まれてしまった。

「今日の主役がなんて顔してんの」
「なまえのせいだろ」

プイとそっぽを向いてしまったジェームズが仰向けだった体をずらして横向きになってしまった。

「誕生日を迎えたのにまだまだ子供だよね、ジェームズ」
「そんな子供が好きで好きで仕方ないのはどこのなまえ!?」

「さぁねぇ、なまえなんて名前、日本にいけば何人かはいるから、そのうちの一人じゃない?」
「……イギリスに住んでるなまえ限定」

やわやわと髪の毛を撫でてやりながら、いつもの言い合い。

「イギリスも広いからねぇ。どこかになまえって子いるかもね」
「イギリスに住んでる魔法使いのなまえ限定」

子供の駄々の様な喋り方。きっと正面から見たジェームズの唇はアヒルの様に尖っているだろう。「そうだねぇ」
のんびりのんびり。壊れ物でも撫でる様にジェームズの髪の毛を撫でながら、魔法使い特有の時計を見ると、もうすぐで日付が変わる時間だった。

「かっこつけで偉そうなくせにいざという時緊張しちゃう。いつまでも子供みたいなジェームズを好きで居られるのって、なまえ・ポッターさんだけじゃない?」

のんびりのんびりと話すと、ジェームズが素早い動きで首だけでこちらを見上げた。
私の大好きなハシバミ色がまん丸に丸められて、まだ半信半疑なんだろう、話の続きを待っている様だった。

「家族も故郷も捨てた私に、帰る場所を作ってくれたのはジェームズでしょ?
帰ってくるよ。いつだってここに」

ジェームズのまんまるの瞳が泣きたそうに歪められたかと思うと、ジェームズが突然飛び起きて、次の瞬間にはジェームズのぬくもりに包み込まれていた。

「うわん!良かった!!」だとか「緊張した」だとか「返事が遅い」だとか、ジェームズの文句を耳元で聞きながら、慰めるように何度もジェームズの背中を撫でてやった。

「なまえが珍しくなまえ・ポッターって名乗った!」
「うん、今日くらいは出し惜しみせずにね」

「いつも勿体無いって言って名乗ってくれないのに!」
「今日はジェームズの誕生日だから大盤振る舞いってヤツよ」

嬉しいと、ジェームズがぎゅうぎゅう体を押し付けてくる。ソファの背もたれに挟み込まれて少し苦しい。

「あっ、でも一年間限定ね」
我ながら可愛くない事を言ったにも関らず、ジェームズは「それで良い」と言った。

なんでも「来年にまた同じ約束を取り付けるから」という事らしい。
どうやら毎年、このプロポーズまがいの言葉は繰り返される予定みたい。

それなら来年は、もっと捻りの効いた返事を用意しておこう。
ジェームズが驚いて泣いて喜ぶような口説き文句を、ジェームズの為に、一年をかけてじっくりと考えてやろう。

全身を使ってジェームズを感じて、ジェームズの言葉を聞いて、ジェームズに話しかけて、ジェームズの為の言葉を探してやろう。

それが私からのジェームズへのプレゼント。

「ジェームズ、大好きだよ」
くすん、と鼻をならしたジェームズの耳に囁くと、抱きつく腕に力が込められた。

「クソッ!!」
ジェームズが口汚く悔しがるのは私の前でだけ。私が関った時だけ。

その言葉に思わず笑い声をあげると、苦しいほどにきつく抱きしめられた。

だって仕方ないじゃない。私はその言葉が大好きなんだから。
だってそれはジェームズが私に幸せにされて悔しい思いをしている時にだけ使われるから。

「幸せだ!!!」
怒号の様に吐き出された言葉に私は笑い、ジェームズは悔しさに歯噛みする。

「来年も同じ悔しさを味あわせてやるわ」
「ふん!その前になまえの誕生日がある事をお忘れなく!!」



ジェームズの誕生日企画(?)として深海の蝶のシエンさまから頂きました。私の好きなヒロインさんとジェームズの夫婦夢をもらえて私も幸せですーーー!!!

お忙しい中、私の突発的な企画でしたがご一緒に祝えてとても楽しかったです!!!ありがとう御座いましたっ!!!!!




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