初恋?…一体いつのことなんだろうか。
僕たち妖怪にとって、時間なんて正直大したものじゃない。
一日は24時間、人間の平均寿命は約80歳。でも僕らはそもそも人間じゃないから。
もう100年なんて余裕で過ぎてしまった僕の初恋なんて、ノイズだらけで記憶の端にあって。


確かなのは、その初恋の相手は傘だったことだけ。






僕の住む村には、妖怪しかいない。

そう、人間なんか一人もいない。物心ついたときからそうだったからなんの疑問も無いけれど。


毎日同じ人たちと顔を合わせて。


そんな毎日が少し飽き飽きで、つまらなくて。

だからちょっとだけ、ほんのちょっとの時間だけ。
人間のいるところにいってみたんだ。






そこはとってもにぎやかで、村とは比べ物にならないくらいの人の数。
とにかく感激したのを覚えてる。


けれどなんだかとっても冷たくて。
顔見知りだろう人同士が遭遇しても、ちょっとの挨拶と一言の会話だけで終わってしまうんだ。


「(…怖い)」

幼いながらにそう思った。




それからどれくらい居たかは分からないけれど、急に天気が悪くなってきて。

僕は傘の妖怪だから大丈夫。
そうしていつも過ごしているから、なにも気にしていなかったのだけれど。


「風邪、ひいちゃうよ」


そういって差し出してくれた真っ赤な傘。
でもサイズはちっちゃくて。

なんでこんな大人の人がちっちゃい傘もってるの?
そんな疑問を頭に浮かべてるうちに、その人はぼくにその傘を渡して走り去ってしまったんだ。


その傘は僕を雨から守ってくれて。
傘なのに傘に守られてどうするんだ、なんて思ったけれど。

こころが少しきゅんとしたのはほんとう。

















「………おかしい」

「え?」


「ぜぇーっっっったいおかしい!!!!なんでそこで傘に恋しちゃうわけ!!?馬鹿なの!?しぬの!?ふつーはその傘渡してくれた人に恋するもんでしょ!!!!」


「いやいやいや顔も大した覚えてないのにどうやって恋するんだ…」

「ほんっっっと男って馬鹿ね!!!それだから男は嫌いなんだよ!!妙な性癖持ちやがって!!
あーもー女の子寄越せ癒せ私を!!!!」


「…君も大概だと思うけどなぁ…」


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