深緑色の黒板に白い文字が次々と記されていく。チョークの奏でる音と、低い先生の声、それから訳のわからない数字とアルファベットの羅列。数学の授業はいつも私を眠りの世界へ誘うのだ。シャーペンを利き手に持ちながら、顔の真下にあるノートに目をやり、閉じる。フェードアウトしていく意識の中で自然と浮かんでくるのは、窓際付近に座る高尾のことだった。最近、私の頭の中を高尾が占る割合が増えているのは気のせいではないと思う。それはきっとまだプレゼントを決めていないからで、だけど意識する度に心臓の動きが少し速くなってしまう。消えかけていた意識が、もう一度数学の方へとかえされた。
黒板に新しく書かれた文字をノートに写してから、教室をざっと見渡す。これで最後の授業のせいか、ちらほらと寝ているクラスメートの姿が目についた。机に伏せていると、前の方の席の子は先生に起こされる。こうして教室中を見渡せたり、寝ていてもあまり注意されたりしないのは、一番後ろの席の特権というやつだろう。自分のくじ運にこっそりと感謝した。
生徒を起こし終わったあと、先生は再び説明を開始する。それをしっかり聞こうと前方に目をやったはずが、私の視線は黒板ではなく窓際の方にいってしまった。こうなってしまうのは、最早当たり前になっていた。窓際付近で授業を受けるその様子は、いつも賑やかな高尾とは違いとても静かである。まあ、授業中もあんなに賑やかだったら、きっと高尾は何度も生活指導室に呼び出されていることだろう。授業を妨害しそうな勢いで喋る高尾を想像して笑いが込み上げてきた。顔を下に向けながら必死で抑える。しばらくすると落ち着きを取り戻し、最後に周りにばれないくらいの深呼吸をした。再び目線が自然と窓際に移ったところで、心臓が暴れ出す。今まで静かに授業を受けていた高尾が、ぱっと振り向いた。射抜くような視線が私を動けなくする。
「見てたっしょ?」
確かにそう口を動かした高尾は、にやりと不適な笑みを浮かべて、何事もなかったかのように元に戻った。
は、なにあれ。大きく脈打つ心臓と熱を帯びる顔を隠すように、机に突っ伏した。どうか注意されませんように。

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テーマ「人外ファンタジー」
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