「……はあ」
吐くつもりはないのにどんどん洩れるそれに余計に溜息を吐きたくなった。どうしたの?といつも一緒に昼食を食べている女の子が卵焼きを口に運びながら尋ねてきた。あまりに手付かずの私の弁当と様子をおかしく思ったのだろうか。
悩みがあるなら聞いてあげるよ。そう言ってくれた友人の気持ちだけを受けとって、大丈夫だよとご飯を口に入れた。ご飯を咀嚼しながらちらりと左の方を見る。窓側の列の前後二つの席。そこでいつも昼食を取っているはずのおは朝占い信者とその相棒の姿はそこにはなく、かわりにどんよりとした空があった。そういえば今朝相棒の方が昼休みにミーティングあんだよなーとか言ってたっけ。今朝のやり取りを思い出しながら、また溜息を吐いた。
私が溜息生産機と化している原因は、今この教室にいないそいつにあった。――おは朝占い信者の相棒、高尾和成が目下私を悩ませている原因である。先日高尾の誕生日を知ってから、何をしようかと毎日考えているのだ。今までに結構誕生日にプレゼントをあげたことは何度もある。しかしそれはほとんどが女子に対してだ。男子にだと緑間にあげたのが初めてでそれ以降は一度もない。何をしたらいいのか誰かに聞こうと思ったのだが、女子高生は恋愛系の話が大好きだ。もし私が、男子ってどんなのもらったら喜ぶかなとでも尋ねてみれば、話が何倍にも膨らんでしまいそうな気がしたため即座に頭から消し去った。
いっそ緑間と同じように好きなものをあげようか。そうなると高尾の場合はキムチになる。キムチはあまり食べないからわからないけど高いものなのだろうか。そうであるならば出来るだけ避けたいと思う。値の張るものを贈っても逆に気を使われそうな気がしてならないからだ。それに私の中ではキムチを贈るというのはあまり気が進まず、結局キムチは頭の片隅に追いやられることになった。
「……んー」
視線を空席から外し、さっきよりも少しだけ中身の減ったお弁当に向ける。高尾はどんなことをしたら、どんなものを贈ったら喜んでくれるのだろう。いや、逆に物を贈られたら気を使ってしまうタイプかもしれない。ああでもないこうでもない。考えれば考えるだけ出て来る言葉たちが、頭の中をぐるぐる回る。はあ、と洩れた溜息は一体本日何回目のものだろうか。
「お、山本ー!まだ飯食ってんの?」
がらがらと教室の前方にある扉が開く。教室中に聞こえるような声でそう言ったのは、ミーティング帰りの高尾だ。
「どうしちゃったの遥ちゃん」
「食欲ない」
「マジで。食べたげよっか?」
そもそもなんでこんなに悩んでいるんだろう。緑間の時は当日聞かされたこともあってかわからないけどぱっと決められたのに。
「いるならあげるけど」
私の机の前まで高尾に冗談半分でそう言った。きっと高尾のさっきの言葉だって冗談に違いない。だが返ってきたのは思いもよらない言葉だった。
「いーの?サンキュー」
そう言って私の箸を指差しながら、箸借りるぜと言う高尾に頷くことしか出来なかった。
「、はあ……」
洩れる溜息は仕方がないと思う。高尾は同じ箸で食べることに何も感じないのだろうか。
黙々と食べる高尾に向ける私の目は、多分点のようになっていたと思う。育ち盛りの運動部の食欲とはすごいもので、あっという間に私の残りを平らげてしまった。
「ごちそうさま。ありがとな!」
空になったお弁当箱と箸をご丁寧に片したあと、本を読む緑間の元へ走っていった。
自然に大きく息を吸って吐こうとしたところで、友達に注意を受けた。
「遥。ためいき」
吸ってしまったものは吐いてしまわなければならない。一際大きな溜息が教室に響いた気がした。なんだか高尾のことで悩んでいることが馬鹿馬鹿しく感じる。
だけどそれでもやっぱり悩んでしまう私は、本当にどうかしているらしい。
「あー」
溜息は声に変換できるという新たな発見に少し驚きながら、どんよりした空の手前で楽しそうに喋る高尾を見てそう思った。

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