私が通う星月学園は全寮制のために夏休みである今、実家に帰省している生徒が多い。
しかし、世界中を飛び回っている研究者を親に持つ私は特に帰省する必要も無く、暇な毎日をここの馬鹿でかい図書館で過ごしているのだ。
図書館は冷房が程よく効いていて心地好い。それに図書館の大きさに比例してたくさん本も置いているから本好きの私にとってここは楽園のようなものなのである。
だが、そんな生活も毎日続けていれば流石に飽きるわけで、最近は図書館に来ても本を読まずに机に伏せていることが多くなっていた。
しかし、この間から私の興味を引く存在がこの図書館にやって来るようになった。整った可愛らしい顔立ちに特徴的な前髪をしている彼は、宇宙科1年の木ノ瀬梓。成績は次席で弓道部での活躍も著しいのだと大好きな月子から聞いたのはつい先日の話だ。
「梓君は少し生意気なところもあるけどいい子だから話し掛けてあげてね」と彼女に言われたのだが、如何せん私は人見知りをするタイプなので自分から話し掛けるなんてことは出来ない。
いつしか私は彼を目で追い掛けるようになり、その視線に気が付いたのか彼と目が合う度に顔が熱くなるのだ。すぐに私が目を逸らすために彼と目を合わせる時間はごく僅かなものだが、私はそれだけで満足していた。
だけど、逸らされた方は当たり前だがいい気分ではなかったらしく、


「先輩、お話しましょうよ」


報復と言わんばかりに後ろに黒い何かを背負いながら笑いかけてくる木ノ瀬君がいた。


「先輩は料理がお上手なんですよね。月子先輩が羨ましがっていましたよ」

「あ……錫也ほどではないんだけどね。少しくらいなら。木ノ瀬君は?」


そう尋ねれば月子から聞いていた通り彼は本当に何でも出来てしまうらしく「レシピさえ見れば基本的には何でも作れます」と答えてくれた。
木ノ瀬君との会話は時間が経つのが速く感じてしまうくらいに楽しくて、もっと話していたいなんて子供じみた考えまで出て来てしまう。
しかし、もうすでに太陽も沈みかけていて夜を迎える準備を始めている。別れを惜しんでいることは出来ない。
スッと席を立った木ノ瀬君も時間が速く経過したことに驚きつつ片付けを始める。そして何かに気が付いたのか、私の顔をじっと見てくるのでやっぱり真っ赤になってしまった。


「何か付いてる?」

「いいえ、先輩が寂しそうな顔してたんで。一緒に帰ります?」


木ノ瀬君が人の心を読むのに長けているだけのかそれとも私が顔に出やすいだけなのか。いや、両方なのかもしれない。
恥ずかしくなって俯きながら頷いた私の手を取って、木ノ瀬君は歩き出した。


炭酸水に浸る
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