ゴールデンウイーク前やその最中になると、帰省に関するニュースが大半を占めてくる。内容としては、この高速が渋滞中だとか、飛行機や新幹線の混み具合だとか、天気はどうだとか。帰省に影響するそんなニュースは、大体俺の家庭にも影響を及ぼしている。
ゴールデンウイークに帰省するのは、高尾家恒例の行事だ。毎年親父の方の田舎に帰るわけだけれど、俺は合宿だったり試合だったりで中学に上がってから、まだ一度も行けていない。秀徳高校バスケ部に入部してから初めてのゴールデンウイークは、たまたま合宿も試合も重ならなかった。それはきっと、今年は休みが前半と後半に別れてたからだと思う。早く帰って田舎のみんなに会いたい。実に四年ぶりの帰省に俺は胸を弾ませていた。

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都会と違って、田舎は空気が澄んでいて気持ちいい。周りは山に囲まれているため、緑が多い。その中には所々ピンクも混じっていて、まだ桜が咲いているのが分かる。さすが、田舎なのだよ。真ちゃんが見たら多分そう言ってるはずだ。
トランクから取り出した、二泊分の荷物を詰めた鞄や、クーラーボックスなどを抱えながら、古い屋敷特有の引き戸をがらりと開ける。どっと広がるのは、酒の匂いが混じった田舎料理の匂いと、それから賑やかな声。四年ぶりに見た親戚の顔が、一斉にこちらを向く。久しぶりだねえ、元気だったか?次々にかけられる声に、適当に――決していい加減な方ではない――挨拶を交わしながら、俺は広い部屋を見渡す。どうやらあの人はまだ来ていないらしい。微かに脳裏に残る懐かしい思い出と、声をリピートする。
「こんにちは」
引き戸が開いて、その声がかかる。鼓動が速くなって、自分の口元が綻んだのがわかった。頭の引き出しから出された声よりも少し、ほんの少しだけ低い声に、俺は後ろを振り向いた。
「久しぶりだね、和成くん」
昔と同じように微笑みながら声をかけてくれるその人に、体中を血液が駆け巡る。
「名前ねーちゃん!」
久しぶりに呼んだ名前に、むず痒くなる。昔から、俺はその人のことをそう呼んだ。その人――名前ねーちゃんは、俺のはとこに当たる人物で、実の姉ではない。ねーちゃんってのは、単純に歳が六つほど離れているから付けているだけである。
四年ぶりに見た名前ねーちゃんは当たり前だが昔よりも大人びていて、少しだけ取り残されたような気分になる。あの頃は黒かった髪も、今は落ち着いた茶色になった。身長だけは頭一つ分ほど追い越したのに、やっぱり歳の差には敵わねーなと思い知らされる。
ふう、と息を吐きながら、腹に手を当てて名前ねーちゃんは俺の隣に座った。摩る腹に、自然と目がいく。ゆったりとしたワンピースのためわからないが、心なしか膨らんでいるような気がしなくもない。が、きっとそれは気のせいだ。
「そういえば名前ちゃんおめでとう」
低い食卓に乗った料理を摘みながら、親戚の一人がそう言った。名前ねーちゃんは照れ臭そうに、ありがとうと返す。
「何ヶ月?」
「今月で六ヶ月になります」
昔と同じような笑顔でそう答えるねーちゃんに、巡りの良かった血液がきゅっと止まった気がした。
「あ、和成くんは知らなかったか」
私、去年の秋に結婚したの。
その言葉に、止まったような血液がさらに冷やされた。
四年という歳月は実に恐ろしい。だって小学生だったやつが高校生に、高校生だった人間が結婚までして、あと数ヶ月で出産も経験するのだから。
「すごいじゃん、おめでとう!」
写メ待ってっから。人とコミュニケーションを取ることは割と得意な方だとは思うが、果して俺は今、いつもと同じように笑えただろうか。
「ありがとうね、和成くん」
返ってきた言葉と共に、そっと手を取られる。
「ほら、動いてるのわかる?」
ぽんぽんと手の平から伝わってくる振動に、冷えた血液がゆっくりと巡り出すのを感じる。
「おめでとう」
再び小さな振動が伝わる。
俺は静かに、唇を噛み締めた。


ピアニッシモの解凍


title by カカリア
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