卒業式定番の歌と共に順々に赤い花を胸に挿した生徒が体育館から退場していく。三年間、ほぼ毎日通ってきたここともとうとうお別れだ。涙ぐむやつ、涙を堪えるやつ、肩を組んでるやつら、笑いあってるやつら。この景色をみるのは高校に入って三回目で、これで最後。大勢の生徒が座る長いベンチに窮屈さを感じながらも、今みたいに退場する人の姿を目に焼き付けていた。去年も一昨年も、バスケ部の先輩の後ろ姿が特に印象的だった。感想文のようだが、バスケ部以外に知り合いの先輩なんていない俺にとって、バスケ部の先輩の退場していく姿はそれくらい一際大きなものに見えたのだ。俺も、あんな風に。先輩のしゃんとした、頼りがいのあるあの大きな背中が、今でも忘れられない。
ぎしり、隣から軋む音が聞こえた。焼き付いた後ろ姿を思い描きながら席を立つ。俺は、俺の背中は、あの人たちのように大きく見えているのだろうか。
一歩一歩足を進める度に思い出すのは、部活のことだった。入部して、森山、小堀に早川が加わって、主将になって、それから――
「笠松先輩!」
少し前から聞こえた声に視線を向ける。ああ、それから黄瀬とマネージャーが加わって。賑やかに、だが真剣に取り組んでいた姿が浮かびあがる。
「たく、泣いてんじゃねーよ」
涙目になっている二人にそう投げ掛ける。
「泣いてなんか、ないですよ!」
目を赤くした情けない笑顔と共に返ってきた言葉に、笑みが漏れた。真横を通り過ぎれば、もう二人の姿は見えない。
扉から差し込む光に目を細める。今二人に映っているのが、俺の記憶と重なるように。
卒業式、あの日見た先輩の背中を俺はきっと忘れない。

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