「蒼空さーんー」

「きゃっ!」


ある晴れた日。
大きなカエルの被り物をした少年−−フランが蒼空に後ろから飛び乗った。
当然、急な重みに驚き蒼空の身体が前のみりになる。
しかし、10年という年月のおかげか転ぶことなくなんとか耐えていた。
それを知っているフランもなかなかの悪戯小僧である。


「一緒にケーキ食べませんかー?」

「あ、フラン君」

「ねー食べませんかー蒼空さん」

「え、あ!はいっ!!」

「抜け駆けなんかさせるかクソガエル」

−−グサッ、グサッ

「ゲロッ」

「ひっ!!??フラン君!!??」


ケーキという甘い誘惑に蒼空が乗りかけていた時、フランのカエルの被り物にナイフが飛んできた。
思わぬ攻撃に蒼空も驚きの声をあげてしまう。
一瞬にしてその場の空気が冷えたのも言わずもがなではあるが、ナイフを投げられたフランといえば奇声をあげたがたいして気にしている様子もなく今だに蒼空に抱き着いている。
当然ナイフを投げた人物はそれが気に入らなく−−。


「いい根性してるよな本当。クソガエルの分際で王子怒らせるとか傑作ー」

「ミーは別に堕王子の相手なんかしてませんー。ってかミーは皆さんに言われたことしてるだけじゃないですかー」

「抱き着けなんて誰も行ってねーよ」

「これは報酬ってやつですよー」

「ふざけんなクソガエル!」
「ふざけてんじゃねーぞぉフラン!!!」

「ちっ。ウザい奴がもう四匹来ましたー」


いつもの言い合いをフランとベルがしているなか、蒼空はそんな言い合いをフランに抱き着かれながら見ている。
悲しいことながらこんな言い合いは彼女にとって当たり前になってしまっているのだ。
たった10年。されど10年という日々を彼女は過ごしているのであった。
しかし、最初はいつもの二人で言い争っていたのだが、ベルの後ろから新たな新参者が現れる。
それを見たフランは物凄く(普段の無表情がなくなるほど)顔を歪めたのであった。
その人物たちは−−彼の上司にあたるザンザスたちである。


「貴様はボスに言われた任務すらまっとうできないのか!!」

「うるさいですよー。キモいおっさんは黙っててくださいー」

「そんなこと言っちゃダメでしょー。私たちはあなたより先輩なんだから」

「オカマなんて先輩と思いたくないですー。キモいんだよ」

「てめえは任務すらまともに出来ないのか」

「おやつには誘ったんですからミーの任務は成功ですよーボスー」

「揚げ足ばっかとってんじゃねぇ!!!!!」

「まともに告白も出来ないヘタレに言われたくありませんー」

「ふ、フラン君言い過ぎだよ…」

「いいんですー。これぐらい言わないと馬鹿は治りませんー」


「「「(このっクソガエル!!!!)」」」なんて腹の中では思っているのだが、なにぶんフランは蒼空に抱き着いているとだけあって手がだせない。
ましてやフランといえば術士であるのでむやみに手がだせない。(以前手を出したレヴィが幻術をかけられ、その後使い物にならなくなったのは記憶に新しい)
言葉の通り攻撃してくるのが彼、フランである。
それは蒼空がいると更に酷くなる。
蒼空がいるとフランは更に助長し、ザンザスやスクアーロが手を出せなくなってしまうほどの悪戯っ子になってしまう。
それが今となっての悩みだった。


「う゛お゛ぉぃぃ!!!いい加減にしねーと捌くぞぉ!!」

「消し炭にされたいかフラン」

「ミーは蒼空さんと一緒でしたらいいですよー」

「いいわけあるかぁ!!!」
「いいわけあるか!!!」

「おー相変わらずお二人は仲いいですねー」

「「よくねぇ!!!」」

「そういうのジャポーネでは熟年夫婦の関係っていうんですよー」

「え、…フラン君それは違いますよ」

「そうなんですかー?」


はい。それは阿吽の呼吸の方が合いますよ。そうなんですかー、ミーは蒼空さんのおかげで一つ賢くなれましたー。−−あはは、ふふふ、なんて花が咲いたかのように和気あいあいと蒼空とフランは話している。
しかし、言われたスクアーロとザンザスは当然気分などよくない。
理由をあげてしまうときりがないが、それでもザンザスとスクアーロが仲良しなんてことは天地がひっくり返っても言われたくないことだ。
そのためか、怒りでプルプルと身体が震えはじめている。
当然怒りは−−爆発した。


「う゛お゛ぉ゛い!!!やっぱりてめぇはぶっ殺す!!!」

「跡形もなく殺す!!!」


普段自分が言う決め台詞すら取っ払ってしまうほどに彼らはキレていた。
しかし、その殺気はフランにしか向いておらず蒼空には一切向いていない。
これぞまさしく(無駄遣いの)ヴァリアークオリティーである。
それに気がついたフランがため息をついたのはしかたないだろう。
そして、ゆっくり蒼空から離れて−−睨んだ。
普段のやる気のない目は一切なく、ただただ怒ったときの目である。


「本当にそーいうの止めてほしいですねー。思わず幻術かけたくなっちゃいますー」

「う゛お゛ぉ゛い!お前じゃ相手にならねーぞ」

「虫けら相手に本気もだすことはねぇ」

「ししっそーゆーこと」

「あれー?堕王子先輩も闘うんですかー?」

「優しい先輩が相手してやるよ」

「マヌケな3人が相手をしてくれるらしいですー。ちっ」


その舌打ちを合図に全員が動いた。
そんな(阿呆な)四人を見ながらルッスーリアとレヴィは深い深いため息をつく。
蒼空のこととなると一切見境がなくなる彼らにはいつも呆れてしまう。
なにより、好きな女の子を困らせるとは何事だと言いたい。
現に今、彼女は困惑している。
ああ、阿呆な四人が!と感じるのは致し方ない。
尚も困惑している彼女に近付き、その肩を優しくルッスーリアは撫でる。


「蒼空ちゃん、放っておきましょう」

「え、で、でも…!!」

「こうなってしまったら誰にも手がだせん。行ったほうが正しい」

「それにマーモンも向こうで待ってるから行きましょう」

「マーモン待ってるんですか!!??」

「えぇ、私たちの代わりにお留守番してるのよー」

「だ、大分待たせてますよ私たち!!」

「だったらさっさと行くぞ」

「はい!」


さっきまでザンザスたちを気にしていた蒼空も、マーモンという単語を聞いて直ぐさま頭が切り替わった。
しかし、そんな蒼空を咎める者はおらず、逆に慌てて走っていく蒼空の後を追う者ばかりである。
そして、ザンザスたちは蒼空たちが消えたのを10分後に知るのであった。

そんなよく晴れた午後の日常風景であるのも、またしかり。




(待たせてごめんねマーモン!)(いつものことだから気にしてないよ)(うん!ありがとう!)((馬鹿どもが勝手に戦ってるだけだしね))






感謝企画
菜乃様ありがとうございます!
20120118
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