「ケホッ、ケホッ」


ヒューヒューと自分の息する音を聞いて思わず苦笑してしまう。
−−こんな秋真っ只中に風邪をひくなんて、私ついてないや…。
体中がほてって苦しいけど今は誰も家にいない。
母は自治会の用事で夜まで帰ってこなく、ランボたちはビアンキに頼んで外に出てもらっている。
それはランボたちには移したくないためであった。
そう思いながらもやっぱりどこか淋しくて、−−ああ…側にいてほしいなんて思います。


−−ピンポーン

「へ…お客さん?」


チャイムがなって思わず体を起こし、くらくらとする頭で立ち上がった。そして、覚束ない足取りで下へと降りていく蒼空。
視界は少しぼやけていてうまく見えていない。
それでも、もしもその用事が大事なものであったら、そう考えると行かずにはいられなかった。
ゆっくりながらも早足で、そしてドアへと手をかける。


−−ピンポーン

「は、い…」


熱にうなされながらもドアを開けた。
しかし、思考とは逆に身体はもう限界を迎えていたのだ。
開けるのと同時に身体はゆっくりと前に倒れていく。
−−ああ、どうしよう。
そんなことを考えながら蒼空の意識は消えていった。
最後にみたのは色鮮やかな色と漆黒であった。


*********


「う、ん…」


ふわふわとしたものに包まれ、頭はどこか冷えたような感覚で蒼空の意識はゆっくりと浮上した。
その瞳をぱちぱちとさせながら見たものは−−よく見慣れた自分の部屋の天井だ。
思わず自分の記憶を辿っても一階に降りたことしかない。
身体を起こし、なぜだろうと思案する。
ゆっくりと落ちたタオルに思わず首を傾げながら。


「私…」

「目が覚めたみたいだね」

「え…あ、マーモン…」


ぱっ、と横を向けばリボーンと同じくらいの赤ん坊−−マーモンがいた。
ヴァリアーの隊服に包まれ、そして特徴的なペイントが目に入る。
普段、皆で勉強する机の上からこちらを見ていて思わず蒼空の瞳が見開かれる。
もちろんそれは机の上に広がっている預金通帳や電卓のためではなく、ただ純粋にマーモンがいることにだ。
困惑する蒼空の気持ちが伝わったのか、マーモンの小さな口がゆっくりと開かれる。


「ちょうど日本で任務があったんだよ」

「任務…?」

「そう。任務も終わって時間もあるから君の家に寄ることにしたんだ」

「あ…」

「そこからは君の思ってる通りだよ。チャイムを鳴らしたら君は急に倒れてきたんだ。その時は驚いたよ、でも熱があるみたいたがら急いで部屋に運んだだけ」

「マーモンが?」

「僕が運べると思う?」


自分と蒼空を見比べなら言うマーモンを見て、お世辞にも運べるとは言えない。
そう考えて蒼空は大変失礼なことを言ったのではないかとだんだん眉が下がってくる。


「別に気にしなくていいよ。事実なんだから」

「でも…」

「僕はマヌケたちとは違ってね。些細なことじゃ怒らないよ。…っと来たよ」

「え?」

「君を運んだ人」


マーモンが指差すドアへと蒼空の視線も移る。
そうすれば複数の足音とともにドアが開けられた。
マーモン以外誰もいないと考えていた蒼空にとっては思ってもみないことだったが、−−入ってきた人達を見て顔が綻んでしまう。
−−やっぱり、大好きなんだ…。


「うっわぁーまた金の計算かよ」

「煩いよ。なにをしようが僕の勝手だ。君には関係ないね」

「相変わらずかっわいくねー」

「はいはーい!喧嘩はよくないわよ!今は病人の蒼空ちゃんがいるんだから」

「う゛ぉおぉおい!!てめぇら全員うるせーぞぉ!!蒼空に迷惑だろうがぁ!!」

「てめぇがうるせぇカスが」

「ぶふっ、ざまあみろスクアーロ」


マーモンと喧嘩をするベル。
それを仲裁するルッスーリア。
そしてそれを注意したスクアーロはザンザスに殴られ、レヴィが笑う。
それはヴァリアー内では当たり前の光景であり、日常の一部である。
−−それが蒼空の部屋で行われているという以外は。
さすがに蒼空も全員が揃っているとは思わなかった為に驚きにその瞳をめいいっぱい広げる。
さも当然というように討論するザンザスたちを見てさすがに蒼空も一歩だけたじろいでしまった。
そんな蒼空に目敏く気がつくのはやはり、ヴァリアーのお母さんか、ルッスーリアである。
…たくさんフリルの付いたエプロンを着ているのは見ないことにしよう。


「蒼空ちゃん大丈夫?」

「え、あ…はい!」

「そう。でもダメよ〜!病人が冷やしたタオル一つしてないなんて!!」

「す、すいません」

「う゛おぉい!病人を責めんなぁ!」

「そういう問題じゃないの!病気が悪化してからじゃいけないのよ!」

「う゛お…!す、すまねぇ」

「ししっ!さっすがカスアーロ先輩!!」

「だいたい蒼空は君とは違って女だよ。それくらい察しなよ」

「う゛」


さすがにスクアーロの過保護っぷりには周りが呆れ返ってしまう。
知ってはいるが、その周りが見えなくなる癖は治した方がいいと切に思う。
毎度毎度ルッスーリアに注意されているスクアーロを見るのはいかがなものか考えてしまったベルたちは普通だということを記そう。

そして、そんな光景をぼーっとした頭で見ていた蒼空はギシリと自分のベッドが揺れたのがよくわかった。
ハッとなって見れば、そこには蒼空のベッドに座るザンザスがいた。


「大丈夫か?」

「はい」

「カスどもに任せたが…無事ならいい」

「ありがとう、ございます」

「感謝をしろ娘。ザンザス様は貴様が目を覚ますまでずっと心配なさっていたのだからな」

「あ…」

「っていうレヴィだってそうじゃね?」

「ずーっと部屋気にしてたものね!」

「ぬぉ!そ、そんなことはない!」

「キモいから顔紅くすんじゃねぇー」

「君たちは本当に蒼空が病人だってわかってるのかい?」


マーモンの一言によってまた静かになる一同。
思わずそれを見て笑ってしまった蒼空は仕方ないだろう。
そんな蒼空に優しく笑いかけるスクアーロたちに、頭をゆっくり撫でるザンザス。
それを見てて蒼空は思う。

−−家族みたいに優しい空間だなぁ。…なんて幸せな思考になっていたのであった。



家族の温もりに触れて…。きっとそれが大好きなんだ!
(ししっ。そーいや粥作ったんだぜ)(…それ食べれるのかい?)(マーモンちゃん甘いわよ!私が作ったんだから〜!)(キモいぞぉ)(それは貴様だ!)(んだとぉ…!)(黙れカス!)(ふふ…楽しい)






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20110127
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