Target2 山本 武
カキーンカキーンとボールが軽やかに飛ぶ音が聞こえる。
バッドで打つそれは、野球。
そう、ここはバッティングセンターである。
そして蒼空はここから出てくるであろう少年を待伏せていたのだ。
「! 山本君、Trick or Treatです!!」
「へ、」
少年がバッティングセンターから出てきた瞬間に身を乗り出す。
そうすれば自然と少年−−山本 武とも目が合うのであって、彼自身急に現れた蒼空に目を丸くしていた。
主にその格好についてだが。
直ぐさまにっこりと笑顔になってしまう辺り山本の人柄を表している。
「よ、蒼空!今度は何の遊びだ?」
「え、あ、そのハロウィンですからお菓子を回収に…!」
「あーそっか今日ハロウィンだったな!けどわりぃ。菓子持ってねーんだ」
「え…」
うるっと蒼空の瞳が揺れた。
そしてそれを見た山本も胸が締め付けられてしまうようだった。
−−山本は別に甘いものが嫌いだというのではない。
ただ、別段毎日持ち歩いてまでも食べたいというわけではないからだ。
それゆえに今日も当たり前のように持っていなかった。
まさかそれが、こんな風になってしまうなんて考えもしなかった。
蒼空自身も別に山本を責める気なんてものはない。
お菓子を普段持ってないのが当たり前なのだから。
しかし、ミッションクリアということが出来なかったらリボーンのお仕置きが待っているのだ。
あれは怖い。
なによりも怖い。
それゆえの「え…」でもあったのだ。
そんな蒼空の気持ちを知らない山本は必死に思案していた。
ポケットを漁ってもなにもない。
これといった荷物ももっていない山本にとっては絶対絶命だ。
どうしたものかと思っていたときあるものが山本の思考を掠めた。
キョロキョロと辺りを見渡し、そしてソレを見つけた。
直ぐさま摘み取り蒼空の前へと差し出した。
「あーその、花の蜜ってーのじゃダメか?」
「え、あっ…だ、大丈夫!」
「はー、よかったのな」
「ご、ごめんなさい!迷惑かけちゃって!」
しゅんと、花が萎れてしまったかのように悲しむ蒼空を見て山本はたじろんでしまう。
好きな女の子が悲しんでしまう、これほどまでに男子が弱まってしまうことはないだろう。
ましてや恋を生まれてこのかた一度もなければ尚更だ。
これが他人だったならば上手く慰められるのだろうかと心のどこかで思ってしまう。
そんなネガティブな思考は自身には似合わないのだが−−。
「迷惑なんかじゃねーって!」
「でも、…」
「せっかくのハロウィンなんだから笑おーぜ!」
「、…うん!」
「ははっ!笑ってくれたのな」
「ありがとう山本君。あ、後で私のお家に来てもらえますか?」
「ん、いいぜ」
「えへへ!じゃあハッピーハロウィンです!!」
「おう!また後でな−っ」
彼女が笑うと自分も自然に笑えた。
さっきまでの悲しい顔ではなく、嬉しそうな顔で接しられたことがなによりも幸せだ。
そう思うとハロウィンも悪くないと思う。
それは彼女と過ごす日々があまりにも色鮮やかで綺麗だからである。
帰路につきながら顔が緩んでしまう自分にまた笑う。
−−すっげーしあわせなのな。
Target2 山本 武、終了。