僕には彼女が分からなかった。
いつもにこにこと笑う彼女は、やはり僕には到底理解できるような女子ではない。
それは同時に僕が見てきた中の女とは違うということを示していました。


「……」


今日も来るのだろうかと思いながら入口を見る。
あの、彼女をおびき出すのを目的とした事件から二ヶ月近く経った日から毎日、毎日と通いつめる彼女。
ヴァリアーとも戦い、未来でも戦ってきた彼女は一皮も二皮も向けていた。
それが助長させているのか彼女、ボンゴレ10代目候補沢田 蒼空は近頃毎日ここ、黒曜ランドへ遊びにくる。
はぁ、と長いため息をつきながらもう一度入口を見れば人の気配と走る音が聞こえる。
…来ましたか。


「あ、骸さん!」

「また来たんですかボンゴレ」

「はい!来ちゃいました!!」

「帰れという言葉が分からないんですか、君は?」

「えへへ」


入口からひょっこりと顔をだした君はちょこちょこと走ってきて、ああ僕らしくないです。
そんなに走ったら彼女が転んでしまうのではないか、転べば彼女はガラスの破片でぱっくりと肌を切ってしまうのでは…って僕は一体なにを考えているんですか。
彼女が転んでもそれは自己責任であり僕にはまったくと言っていいほどに非はありません。
ですから僕がそんなに気負う必要もありません、って思ってる側から転びそうにならないでください。よろけたものの体制を取り直したからよいものの、そんな箱を持っているからそんな風になってしまうんです。
彼女といるといつもいつも心配してしまう僕。
ペースを乱され、結局なにもできなくなってしまう僕は酷く滑稽でしょうね。


「骸さんはチョコお好きでしたよね?」

「…まぁ、嫌いではありませんね」


僕はこうどうして素直に言えないんでしょうか?
しかし、なぜ彼女が僕の好物を知っているのかは不思議でなりません。
そんな思いをこめた瞳で彼女を、蒼空を見れば「犬君や千種君から教えてもらいました」と苦笑して僕を見る。
…今、僕の胸がざわついた。
なぜでしょうか?こんな胸がむずむずしてもやもやとした感情は僕は知りません。
本当に僕はいつもいつも蒼空に乱されてばかりだ。腹立たしいかぎりですね。


「作ってきたのでどうぞ」

「……」

「あ、毒なんて…」

「君にそんなことができるなんて思ってませんよ」

「そ、…そうですね」

「!」


な、なんですか!?
そんなにも悲しそうな顔をするなんて…!ってそうですか、そうなんですね沢田 蒼空!
泣き落として同情を得ようとしているんですね。
マフィア風情がしそうなことです。
そんな冷たい視線を彼女に浴びせていればその視線に彼女は気がついたのか余計に悲しそうな瞳になって…ああもう!僕は本当にどうかしています!!


「っ、へっ…わっぷ!」

「少しは静かにしなさい」

「え、あの…その、骸さんが−…」

「それ以上言わないでください!」


僕よりも小柄な彼女の頭を掴んでこれでもかと言うほどにわさわさと撫でていく。
だんだん、鳥の巣かと思うほどまでになって思わず吹き出してしまったら「うぅ〜」なんて声が聞こえます。
その声は悲しみを帯びていなかったせいか、酷く僕を落ち着かせる。
僕は一体、どうしたのか?
こんな小さくとても愚かな偽善者に心を乱されてしまうなんて。
僕は本当におかしくなってしまっている。

…不愉快とは思わなくなっているんですが、そんなこと口が裂けても言えません。


「まったく、君は…」

「骸さん?」

「! なんでもありません!!」

「?」




(骸さんまだ気がついてないびょん)
(まぁ、骸様はそっちは情報収集にしか使わないから)
(普通気がつくよな−骸さんが優しい顔すんのブス女か兎ちゃんだし)
(きっと、骸様は自覚する。めんどいけど…時間がかかるけど)
(まあ骸さんが幸せならオレはいいびょん)

(ガトー、ショコラですか?)
(はい!あ、苦手でしたか?)
(い、いえ!まあ好きですよ)
(よかったです!)
(っ!(なんなんですか彼女は…!?))







拍手より 20100609
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