なまえは笑うたびのえくぼが印象的な女性だった。私は思い出しては彼女へ女々しくも文を送り、花も贈った。絹の衣装も、玉の髪飾も、笛も香袋も。それでも尚、なまえからは返事が届いたことはなかった。そのことに悔しいなどと睨んだことはなく、むしろ何かを贈ることでなまえとの距離を感じて緊張した。 なまえの室は相変わらず埃にまみれて、女らしさが欠けている。と、賈クは言うけれど、私はその言葉を聞くたび勝ち誇るようだった。なまえは部屋こそ手入れをしないが、よく町や群に一人で向かって子供たちと遊んでいることを知っている。ときおり遠くへ向かい、もともと体が強くないなまえは感冒やらを召しては帰ってきていた。それでもなまえは満足げにえくぼを見せて笑んでいた。 「今日は俸給をいただけたから、あの村に食料と衣服を贈ったの」 なまえも贈り物が好きな女性だ。 私はなまえのちいさなちいさな旅のお話を聞いて、まるで自分もそこにいたかのように彼女のお話に聞き入った。よく泣く男の子は将来お偉いさんになって国を平和にする夢を持つということ、あの群は山賊に襲われそうだから曹操殿に頼んで助けてもらうことにしたということ。 「郭嘉も、今度わたしと行かない?」 なまえはそう言って、こほこほと咳き込んだ。私は彼女の手のひらを撫でて「すまない」と謝る。すると彼女は首を振って、えくぼを見せ首を振った。 「いいの、また元気になったら行きましょう」 私はたまらなくなまえが愛おしくなった。 あの日、私を蝕んだ病の気配。それは気配ではなく確かなものとなり、私から自由を奪った。なまえに贈り物を与える権利も、入室することも、昔ほど楽ではなくなった。それこそ悔しいと睨むほどに。 代わりに、なまえが私に贈り物をくれるようになった。旅の話に土産、たくさんの仲間たちの笑い話。それと抱擁に接吻。なまえのすべらかな肌に触れると慈しむようにこちらを見るのだ。 「ねえ郭嘉」 微笑んだまま、なまえを見つめ返す。 「郭嘉が贈った衣装を着て、髪飾をつけて、花に囲まれ、甘い香りを漂わせながら笛を吹いたら元気になる?」 「さあ、どうだろうね。でも、効果があるのは間違いないよ」 「そうかしら。じゃあ、また今度ためしてみるね」 するとなまえは私を抱き寄せて立ち上がった。まだ行かないでほしい。その言葉を飲み込んで見送る。またねと言うから私は手を振る。また今度、のために立ち上がる力を手に入れて、すべての俸給を使って最高の贈り物を買いに行かないと。彼女が曹魏から離れて一人で悠々自適に暮らせるようたくさんの屋敷か、それとも旅に出るための資金にするか。どちらにせよ隣に私はいない。そしてその贈り物こそなまえを永遠に縛るのだろう。 |