※現代パロ なんとなく。なんとなくなんだけど、彼に会いに行ってみたくなった。先生に腹痛とだけ残すと、保健室に向かうことになった。思った以上に足取りは軽い。向かう先はもちろん保健室ではなく、用務員室。 階段を走るように降りて、期待に胸を高鳴らせながら用務員室の前に立った。電気がついている。きっと、彼のことだ。作業をさぼって生徒から没収した少年漫画を読んでいるに違いない。 がらら、と扉を勢いよく開ける。 「賈ク先生?」 名前を呼んでみた。すると、小さく舌打ちが聞こえた。なんて失礼な人だ。肩を竦ませて、その声の方へ歩く。 「珈琲なら私がいれますよ」 「……いや、結構だ」 天井から吊るされるカーテンをめくると、賈ク先生が無断で使用している台所があった。 お湯を沸かす横で、彼はインスタントコーヒーを愛用マグカップに入れている。 賈ク先生は、私の顔をみるや、ため息を落とした。あまりにも大きいものだから、むっとしてしまう。 「授業中でしょうが、ほら、帰った帰った」 「賈ク先生に会いたくなったんです」 「可愛いこと言うじゃないか。ったく、夏侯惇殿に怒られるのは俺なんだがね」 沸かしたお湯をマグカップに流し、湯気の立てたインスタントコーヒーが完成したようだ。賈ク先生は早速一口飲むと、息をついて、文机へ向かった。私も一緒についていくと、なんで、と疑問の眼差しで彼は私を見つめてきた。 「あんたも相当のワルなもんだ」 「作業ほったらかしで休憩しまくる先生も、かなりのワルですよ」 「あははあ、言うねえ」 そうですか、と笑う。 先生は窓をぼんやりと眺めながら、珈琲をまた飲んだ。文机には、散らばった無地の紙に、没収した雑誌や漫画が転がっている。一つ試しに取ると、賈ク先生に止められてしまった。 「なまえが読むもんじゃあない」 「……はい」 表紙でだいたい理解ができた。 賈ク先生もこれを読んでいるのだろうか。想像をしても、嫉妬とも言えない奇妙な感情が胸に湧き上がるだけだ。さっきの、お湯みたいに。 「……あ、これってラブレターですか?」 「んー、読んでないから分からんね。読んでみるかい?」 「い、いえ。結構です……」 出した人が可哀想、と思う反面。もし私がこれを書いた本人だったら、今頃泣いているのだろう。影でこそこそと。それでいて、賈ク先生に助けを求めて。 「返事しないんですか?」 「誰か分からないからな」 「じゃあ、誰か分かっていたら?」 「俺は生徒の顔を覚えない方でね」 答えになってない。 ついムキになってしまったと反省をし、手紙を手に取る。可愛らしい便箋で、裏面に書かれた文字もとても女の子らしい丸文字だった。少し、羨ましい。 賈ク先生に私は顔を覚えてもらっているのだろうか。ちらりと一瞥をすると、彼は切れ長の目で見返してきた。腕を組んで、心底困ったような顔をしている。 「やっぱり、帰ります……」 「もう授業は終わるのに?」 「賈ク先生、さっきと言ってることが違いますよ」 さっきは、帰れと言っていたのに。 胸が高鳴ってしまう。ドキドキして、私は顔を俯かせた。 「せ、先生。……あの、一つ聞いていいですか?」 「んー、答えられるものなら答えるよ」 「……私は、先生の記憶に残ってますか?」 しばしの沈黙。 あー、と罰の悪そうに先生は己の頭を撫でる。なんてことを聞いてしまったのだろう。そう思いつつ、私は彼を見つめた。 やがて賈ク先生は笑みを浮かべ始める。 「あんたは、覚えなくても覚えさせにくるだろう?」 |