戯言スピーカー | ナノ



 
※すこし病んでます

俺はね、と徐庶殿は口を開いた。
フードを深々と被り、その奥には綺麗な瞳が見える。吸い込まれそうだなあ、とか、この瞳は何を照らしてるんだろうなって。「聞いてる?」と徐庶殿は問いかけてきた。はっとなり、頷く。

「俺なんかがなまえの隣に立てるのは、奇跡なのではと思うよ。君は優しくて愛らしくて、誰よりも大事な人なんだ」
「はぁ……」

しかし、放たれる言葉は聞いててむず痒くなるものだ。恥ずかしくて、聞いていられない。目を逸らし、周りにある調度品へ気を紛らわした。彼の部屋は書物ばかりで、少し埃っぽい。でも、そこが居心地がよくてたまらないのだ。

「なまえ、俺から……離れないでほしい。君が片時でも離れると、俺は怖くて仕方がないんだ」
「離れませんって」
「本当……?」

ああもう、どうしてそんな目で見てくるのか。くらくらとする。
徐庶殿は私の頭を撫でると、そのまま頬へ滑らせた。顔が近づいてくる。
触れるだけの口付けをすると、徐庶殿ははにかみ笑いを浮かべた。

「これで君を独占できるのか」
「独占って……、徐庶殿、」
「なまえ、俺だけを見てほしい」
「あの」

ぐ、と手首を掴まれる。指先に唇をあてられた。とても、胸が高鳴るのに、その瞳と置かれた状況は私を恐怖へ煽るだけだ。
フードの奥に眠る輝かしい瞳には、私がうつる。

「あの、離してください」

一歩後ずさった。
徐庶殿が詰め寄ってくるからだ。

「それはできない。なまえ、俺を見てくれるんだよね?」
「は、離してくれたら、見ます、からっ」
「あぁ、ごめん……」

そう言って手首を離されたけれども、徐庶殿は私を壁に追い込む。ひんやりとした壁を背中越しに感じた。体温が奪われる感覚。

「捕まえた」

私を見る徐庶殿の目が、ただの獣の目つきだ。穏やかな顔は見えない。
彼はフードを外すと、そのまま私へ口付けた。応えながら、うっすらと目を開く。やがて顔が離されたが、徐庶殿の目には悲哀が滲まれていた。

「離せられない、じゃないですか」
「だから、捕まえたと言っただろう」
「……徐庶、殿」

彼は、口角を上げていやらしそうに笑った。
堕ちてしまう。徐庶殿は私の喉元へ唇を落とした。きつく吸うと、なんだか苦しくなって彼から離れようとする。

「お願いだ、俺を一人にしないでくれ」
「……は、い」

しかし、捕まえられた。
胸に顔を埋め、震える彼の肩を抱きしめる。柔らかい髪を撫でてあげた。

「ありがとう、なまえ」
「はい……」
「君だけなんだ」

その甘い言葉に、胸が締め付けられる。
濡れた瞳を覗いた。その瞳は、とてもきらきらとしていた。